阿部ブログ

日々思うこと

戦略物質アンモニアの生産プロセスにおいてブレイクスルーは実現するか?

2012年11月30日 | 日記

アンモニアは農業生産に欠かせない肥料の生産に必須の戦略物質であり年間1.5億トン以上が世界で生産されているが、肥料の三大要素の窒素、リン酸、カリの内、窒素だけはアンモニアからしか供給出来ず、ハーバー・ボッシュ法(以下HB法)により大気中の窒素を固定化している。

HB法では200~1000気圧、400~600度と言う高温・高圧環境下で鉄を主体とした触媒で窒素ガスと水素ガスを反応させる事でアンモニアが合成されており、一説には人類の消費する全エネルギーの1%以上がこのプロセスに使われているとされる。もしアンモニア合成プロセスにおける大幅な省エネルギー化が実現すると、人類社会に対し大きく貢献する事となる。

このような背景の中、今年10月19日、東京工業大学はアンモニア合成の新技術ついてプレス発表を行った。発表によれば、東京工業大学応用セラミックス研究所の細野秀雄教授、原亨和教授のグループは、セメントの構成成分の1つであるエレクトライドと呼ばれる物質にルテニウムのナノ粒子を固定することで高性能なアンモニア合成触媒を実現したとしている。

エレクトライドとは陽イオンと陰イオンが結合して規則的に結びついている個体のイオン結晶を言うが、今回発見した触媒では、窒素と水素によるアンモニア生成が飛躍的に進行し、従来の触媒と比較すると10倍の触媒性能を発揮すると言う。これはアンモニア合成に必要なエネルギーを大幅に低減できることを意味する。

但し両教授による研究は、未だプリミティブな段階で、実用プロセスに持っていくには多くの課題を解決しなければならないが、今回の触媒の発見で、100年もの長きにわたり不落を誇っていたHB法に代る大幅な省エネルギー化を達成できる新触媒プロセスの実現に向けた第1歩になる可能性が高いと考えられている。

因みに12月15日に緊急シンポジウム『Beyond Haber-Bosch Process:アンモニア合成のブレークスルーを目指して』が開催される。