科学界ではノーベル賞確実のヒッグス粒子の発見に沸いている最中の8月8日、理化学研究所(理研)と日本原子力研究開発機構(JAEA)は、ヒッグスメカニズムによりN極とS極が一種の超伝導を示唆する「強磁性状態」に変化する様子を観測したと共同で発表した。
ヒッグス粒子は、1964年に英国の物理学者P.W.ヒッグスが提唱したもので、素粒子理論において物質に質量を与える機構として理論化されたものであるが、同様に物性物理理論において、米国の物理学者P.W.アンダーソンが、超伝導現象がヒッグス粒子と同じ機構(以降、ヒッグスメカニズム)によって説明する理論を1963年に提唱している。
電子は、地球の自転に似た回転(スピン)運動を行っており、磁石の性質を持つ。これを電子スピンと言うが、通常の磁性体が極低温になると、これら多数のスピンは一定方向に揃う。但し電子スピンのN極とS極は、電気の+と-と違って分離不可の状態、即ち棒磁石のようにN極とS極が一体化している状態にある。
しかしながら、ある種の磁性体では、極低温になると電気の「+」と「-」のように電子スピンのN極とS極も単極子として独立して振る舞うようになる可能性がある事を理研の研究者が2010年に理論化し、この電子スピンの振る舞いを「量子スピンアイス」命名しており、この現象の解明を急いでいた。
この度の理研とJAEAの発見により、量子スピンアイス状態にある単極子が、ヒッグス機構と同じ原理により単極子自身が質量を持つようになり、極低温状態では、超伝導状態と同じ強磁性状態を作り出す事が実際に観測され理論を実証する事になった。
今回見出された量子スピンアイスにおける強磁性化は、エネルギーの損失させる事なく流すことが可能な物質状態であり、より室温に近い温度でヒッグスメカニズムによる強磁性状態、所謂「超伝導」状態を示す量子スピンアイス物質の開発に成功すれば、常温での超伝導が現出する事となり、電力ロスが無く安価な超伝導ケーブルによる基幹送電網など革新的な産業技術の様々な展開に貢献する事は間違いない。