「核セキュリティ」(Nuclear Security)とは911以降使われるようになった言葉で、それ以前は「核物質防護」」(physical protection of nuclear material)と言っていた。
「核セキュリティ」の定義は、IAEAによると「核物質、その他の放射性物質、又はそれに関連する施設に影響を及ぼす盗取、妨害破壊行為、無許可立ち入り、不法移転あるいはその他の悪意のある行為の防止、検知及び対応」とされている。このIAEAの核セキュリティの定義範囲は極めて広いものだ。以前、核物質防護と呼ばれていた時の定義は、「核物質の防護に関する条約」によれば、規制される物質は、濃縮ウランやプルトニウムといった核物質であり、規制対象行為は国際輸送時の盗取等に限定している。
これが「核セキュリティ」となると規制対象は核物質プラス放射性物質が追加され、規制対象行為も核物質の使用、貯蔵、輸送での盗取、及び原子力施設そのものに対する破壊行為、更には核物質と放射性物質の不法譲渡と輸出入管理を含むもので、対応措置も不法行為防止と検知などの予防措置と、有事を際の破壊行為なども含まれるのだ。
この「核セキュリティ」が一般に知られるようになったのは、なんと言ってもオバマ大統領がノーベル平和賞を受賞するきっかけとなった2009年4月のプラハ演説だ。オバマはこの演説の中で核セキュリティが最も重要であると強調し、実際にオバマの核政策で一番注力している分野となっている。
それとプラハ演説では「1年以内に核セキュリティに関する世界サミットを米国で開催」するとも発言しており、この言葉は、その通り実行され2010年4月12日、13日両日、第1回目の「核セキュリティ・サミット」がワシントンで開催された。第1回「核セキュリティ・サミット」には、驚くことに核兵器不拡散条約(NPT)加盟を拒み続ける核兵器保有国であるインド、パキスタン、イスラエルも参観している。
第2回「核セキュリティ・サミット」は、今年2012年3月26~27日、韓国ソウルで開催され、第1回の「核セキュリティ・サミット」以降の各国の取組状況の報告と今後の取り組み、及び原子力安全と核セキュリティとの関連性等について議論が行われた。しかし、第1回の「核セキュリティ・サミット」と第2回「核セキュリティ・サミット」の間、実は日本と米国だけの2国間作業グループ「日米核セキュリティ作業グループ」が組成されており、第1回会合を2011年1月(東京)、第2回会合を2011年8月(米国サバンナリバー)、第3回会合を第2回「核セキュリティ・サミット」直前の2012年2月(東京)開催されている。米国が核セキュリティ分野において作業グループを立ち上げて活動しているのは通り日本だけだ。
「日米核セキュリティ作業グループ」の米国側参加者は、国家安全保障会議(NSC)、国務省、国防総省、国土安全保障省,連邦捜査局、原子力規制委員会(NRC)が参加。日本からは、内閣官房、内閣府、防衛省、警察庁、文科省、経産省、国交省、海上保安庁が参加する本格的なものだ。
実際この作業グループでの検討提案により2010年11月、六ヶ所再処理工場での核物質防護訓練を米国側関係者が視察し、引き続き東京で実施された武力対抗演習ワークショップに参加している。日本も2011年11月、米国クーパー原子力発電所での武力対抗演習を視察し、原子力規制委員会本部での核セキュリティのワークショップに参加している。
この核セキュリティで一番重要視されているのが、所謂「核鑑識技術」である。
核鑑識技術に関しては、第1回「核セキュリティ・サミット」において当時の鳩山総理が、核鑑識技術を3年以内に確立し、国際社会と共有することを表明しており、これを受けて2010年10月5日~6日、(独)日本原子力研究開発機構 (JAEA)主催の「核鑑識に関する国際ワークショップ」(International Workshop on Nuclear Forensics Following on Nuclear Security Summit)が開催されている。
このワークショップには、核鑑識に関係する研究所が参加している。主立った所では、欧州共同体超ウラン元素研究所(ITU/EC)、韓国原子力研究所(KAERI)、原子力機構、ロスアラモス国立研究所(LANL)、ローレンスリバモア国立研究所(LLNL)など。政府機関としては米連邦調査局(FBI)、米国土安全保障省、米核安全保障局、国際機関からは国際原子力機関(IAEA)、核テロに対抗するグローバルイニシアテ
ィブ(GICNT)、核鑑識に関する国際技術ワーキンググループ(ITWG)が参加している。
核鑑識に関するワークショップが日本の東海村で開催されたのには理由がある。実はIAEAの核査察の際の核物質探知技術を原子力機構の核物質管理科学技術推進部・技術開発室が開発しているのだ。これは余り知られていないが、IAEA保証措置局の下部組織である「保障措置分析サービス」(SGAS:Safeguards Analytical Services)の「核物質分析研究所」(NML:Nuclear Material Laboratory)オンサイト・ラボが六カ所村の再処理施設に隣接してある。このオンサイト・ラボでは日本の核物質試料を分析している。
さて核鑑識技術とはどのようなものか?
核セキュリティの対象となる濃縮ウランやプルトニウムは、製造国や製造施設、製造時期などにより、それぞれ固有の特徴を有している。「核の指紋」である。この指紋を割り出す事で当該核物質の製造元、製造国を特定する技術が「核鑑識技術」である。
例えば米国ハンフォード核貯蔵所のゴミ捨て場から発見されたガラス瓶に入っているプルトニウムを分析した結果これは1945年、長崎に投下された原爆に用いるために生産されたプルトニウムの一部であることが判明。プルトニウム同位体濃度や、再処理方法からそのプルトニウムはオークリッジに設置された原子炉「X-10」で生産され、その後ハンフォードの軍事用プルトニウム再処理工場「T-Plant」で再処理された。プルトニウムの場合、同位体が崩壊する時系列データ「プルトニウムの指紋」によりプルトニウムの製造起源が特定される。特にプルトニウム241がべータ崩壊してアメリシウム241になるが、このアメリシウムの量を精密に分析するとプルトニウムの年齢が算定される。
現在、核鑑識データベースの構築作業が進んでいる。このデータベースには、世界中のウラン鉱石と生産されて濃縮ウラン、プルトニウムなど核物質の試料を収集し、試料の物質構成、同位体比率、不純物成分などを詳細に計量分析して結果をデータベースに投入している。分析対象は、ウランやプルトニウムだけでなく、代替の核物質になり得るトリウム(Th)、ネプツニウム(Np)、アメリシウム(Am)、カリホルニウム(Cm)なども含まれる。
核鑑識においては、精密に同位体比測定、元素定量を計量し確定する必要があることから「表面電離型質量分析装置」(TIMS)を使った「同位体希釈質量分析法」(IDMS:Isotope Dilution Mass Spectrometry)が用いられる。IDMSは、試料中に存在する元素を定量する場合、同位体組成の異なる標準物質を添加し試料と均一に混合し、その後混合物から元素を分離する事で生ずる同位体組成の変化を「表面電離型質量分析装置」により精密に測定し、元素の濃度を特定する技術である。
IDMSには「スパイク」と呼ばれる標準物質(トレーサー)が必要で、核鑑識に用いるスパイクは、LSDスパイク(Large Size Dried Spike)とよばれる。LSDスパイクは、ウラン及びプルトニウムをmgオーダーで含んだ硝酸塩の乾固物を、ペニシリンバイアルの底に固着させた標準物質である。例えばプルトニウムの場合には、プルトニウム239を主とした金属標準物質から調製され、そのバリデーションには絶対測定が可能な電位規制クーロメトリーが用いられる。スパイク1本あたり2mgのプルトニウム、40mgのウランと言う構成が一般的。
日本はこの同位体希釈法による分析測定誤差は0.1%であり、核鑑識に十分対応できる能力を既に有している。
但し、国内ではプルトニウム標準物質を供給できる組織がなく、海外から調達しているが、供給は逼迫している状況で、国内で金属プルトニウム239の金属標準物質調製を行える体制の整備が急務とされるが、金属プルトニウムが何に使われるかを考えれば、国内での供給体制確立はそのまま核武装に直結する為、慎重な対応が必要だ。
核鑑識の試料分析に当たっては、測定に先立ちイオン交換や固相抽出などの前処理操作を行うなど厳重な措置を行い、IDMS以外にも鑑識対象試料により精密滴定法、波長分散型蛍光X線分析法、ICP・MS(四重極及びマルチコレクタ磁場型)、aスペクトロメトリー、gスペクトロメトリーも用いる。
さて、核鑑識に必要な十分な試料があれば良いが、核武装を行う国や組織は秘密裏にそれを行うので、試料の入手自体が困難だ。このような場合、空気中、土壌、海水など環境サンプリングを行い、採取された極めて僅かな塵など微粒子を分析して、「核の指紋」を割り出す事が必要となる。例えば、ウラン234が測定されるとウラン濃縮工場の存在が証明される。またウラン236が測定されると再処理工場の存在が浮き彫りとなる。
空中から核物質を採取する特殊な航空機が存在する。それは米空軍のWC-135。このWC-135については過去ブログ「北朝鮮長距離弾道ミサイル打ち上げと、沖縄・嘉手納基地の第82偵察飛行隊と第390情報中隊」にも記載している。
WC-135は、空気中の微細粒子を採取するフィルター・ペーパー付きの収集装置を備え、採取した試料を高圧力で保存する圧縮装置を備えている。WC-135は、ソ連のチェルノブイリ原発事故や、先のフクイチ(福島第1原子力発電所)など核事故などや、2006年の北朝鮮核実験の際にも嘉手納基地から航空自衛隊のT-4練習機が付き添いながら朝鮮半島付近に進出して環境サンプリングを行っており、北朝鮮の核鑑識に必要な試料の収集に貢献している。
超微細な核物質や放射性物質を測定する為、核鑑識対象試料の化学処理にはクラス100のクリーンルーム内で作業する必要がある。現在IAEAの査察官が、世界各地の核関連施設で「スワイプ」と呼ばれるふき取り試料でだと、プルトニウムだと1フェトム(10のマイナス15乗)グラムという微量まで検出が可能。WC-135も同様フィルターを装備している。
採取された試料は、スクリーニング分析が行われる。スクリーニング分析では、gスペクトロメトリーや蛍光X線分析が用いられ、この段階で核種の粗々特定する。その後、バルク分析を行い、パーティクル分析に至る。このパーティクル分析で、数pgの同位体比情報を走査型電子顕微鏡と蛍光X線にて位置的情報を得て,二次イオン質量分析(SIMS)、TIMSを使って検知・測定し、同位体比や産地の特定が可能な不純物の同位体組成得ることができる。最近では、LGSIMS (large GeometrySecondary Ion Mass Spectrometry)が用いられる。
この装置は、ウランやプルトニウムなどの同位体比をSIMSより10倍の高感度で、しかも高速に分解能測定が可能で、採取試料の核物質の起源を従来より正確に特定できる。特に前述のウラン234やウラン236の測定に関して信頼性が著しく向上するほか、超極微債な粒子や高いバックグラウンドの試料に対する分析能力も向上する。
何時ものブログより長くなったが、数日サボっていたので、頑張った?のかも知れない。
「核セキュリティ」の定義は、IAEAによると「核物質、その他の放射性物質、又はそれに関連する施設に影響を及ぼす盗取、妨害破壊行為、無許可立ち入り、不法移転あるいはその他の悪意のある行為の防止、検知及び対応」とされている。このIAEAの核セキュリティの定義範囲は極めて広いものだ。以前、核物質防護と呼ばれていた時の定義は、「核物質の防護に関する条約」によれば、規制される物質は、濃縮ウランやプルトニウムといった核物質であり、規制対象行為は国際輸送時の盗取等に限定している。
これが「核セキュリティ」となると規制対象は核物質プラス放射性物質が追加され、規制対象行為も核物質の使用、貯蔵、輸送での盗取、及び原子力施設そのものに対する破壊行為、更には核物質と放射性物質の不法譲渡と輸出入管理を含むもので、対応措置も不法行為防止と検知などの予防措置と、有事を際の破壊行為なども含まれるのだ。
この「核セキュリティ」が一般に知られるようになったのは、なんと言ってもオバマ大統領がノーベル平和賞を受賞するきっかけとなった2009年4月のプラハ演説だ。オバマはこの演説の中で核セキュリティが最も重要であると強調し、実際にオバマの核政策で一番注力している分野となっている。
それとプラハ演説では「1年以内に核セキュリティに関する世界サミットを米国で開催」するとも発言しており、この言葉は、その通り実行され2010年4月12日、13日両日、第1回目の「核セキュリティ・サミット」がワシントンで開催された。第1回「核セキュリティ・サミット」には、驚くことに核兵器不拡散条約(NPT)加盟を拒み続ける核兵器保有国であるインド、パキスタン、イスラエルも参観している。
第2回「核セキュリティ・サミット」は、今年2012年3月26~27日、韓国ソウルで開催され、第1回の「核セキュリティ・サミット」以降の各国の取組状況の報告と今後の取り組み、及び原子力安全と核セキュリティとの関連性等について議論が行われた。しかし、第1回の「核セキュリティ・サミット」と第2回「核セキュリティ・サミット」の間、実は日本と米国だけの2国間作業グループ「日米核セキュリティ作業グループ」が組成されており、第1回会合を2011年1月(東京)、第2回会合を2011年8月(米国サバンナリバー)、第3回会合を第2回「核セキュリティ・サミット」直前の2012年2月(東京)開催されている。米国が核セキュリティ分野において作業グループを立ち上げて活動しているのは通り日本だけだ。
「日米核セキュリティ作業グループ」の米国側参加者は、国家安全保障会議(NSC)、国務省、国防総省、国土安全保障省,連邦捜査局、原子力規制委員会(NRC)が参加。日本からは、内閣官房、内閣府、防衛省、警察庁、文科省、経産省、国交省、海上保安庁が参加する本格的なものだ。
実際この作業グループでの検討提案により2010年11月、六ヶ所再処理工場での核物質防護訓練を米国側関係者が視察し、引き続き東京で実施された武力対抗演習ワークショップに参加している。日本も2011年11月、米国クーパー原子力発電所での武力対抗演習を視察し、原子力規制委員会本部での核セキュリティのワークショップに参加している。
この核セキュリティで一番重要視されているのが、所謂「核鑑識技術」である。
核鑑識技術に関しては、第1回「核セキュリティ・サミット」において当時の鳩山総理が、核鑑識技術を3年以内に確立し、国際社会と共有することを表明しており、これを受けて2010年10月5日~6日、(独)日本原子力研究開発機構 (JAEA)主催の「核鑑識に関する国際ワークショップ」(International Workshop on Nuclear Forensics Following on Nuclear Security Summit)が開催されている。
このワークショップには、核鑑識に関係する研究所が参加している。主立った所では、欧州共同体超ウラン元素研究所(ITU/EC)、韓国原子力研究所(KAERI)、原子力機構、ロスアラモス国立研究所(LANL)、ローレンスリバモア国立研究所(LLNL)など。政府機関としては米連邦調査局(FBI)、米国土安全保障省、米核安全保障局、国際機関からは国際原子力機関(IAEA)、核テロに対抗するグローバルイニシアテ
ィブ(GICNT)、核鑑識に関する国際技術ワーキンググループ(ITWG)が参加している。
核鑑識に関するワークショップが日本の東海村で開催されたのには理由がある。実はIAEAの核査察の際の核物質探知技術を原子力機構の核物質管理科学技術推進部・技術開発室が開発しているのだ。これは余り知られていないが、IAEA保証措置局の下部組織である「保障措置分析サービス」(SGAS:Safeguards Analytical Services)の「核物質分析研究所」(NML:Nuclear Material Laboratory)オンサイト・ラボが六カ所村の再処理施設に隣接してある。このオンサイト・ラボでは日本の核物質試料を分析している。
さて核鑑識技術とはどのようなものか?
核セキュリティの対象となる濃縮ウランやプルトニウムは、製造国や製造施設、製造時期などにより、それぞれ固有の特徴を有している。「核の指紋」である。この指紋を割り出す事で当該核物質の製造元、製造国を特定する技術が「核鑑識技術」である。
例えば米国ハンフォード核貯蔵所のゴミ捨て場から発見されたガラス瓶に入っているプルトニウムを分析した結果これは1945年、長崎に投下された原爆に用いるために生産されたプルトニウムの一部であることが判明。プルトニウム同位体濃度や、再処理方法からそのプルトニウムはオークリッジに設置された原子炉「X-10」で生産され、その後ハンフォードの軍事用プルトニウム再処理工場「T-Plant」で再処理された。プルトニウムの場合、同位体が崩壊する時系列データ「プルトニウムの指紋」によりプルトニウムの製造起源が特定される。特にプルトニウム241がべータ崩壊してアメリシウム241になるが、このアメリシウムの量を精密に分析するとプルトニウムの年齢が算定される。
現在、核鑑識データベースの構築作業が進んでいる。このデータベースには、世界中のウラン鉱石と生産されて濃縮ウラン、プルトニウムなど核物質の試料を収集し、試料の物質構成、同位体比率、不純物成分などを詳細に計量分析して結果をデータベースに投入している。分析対象は、ウランやプルトニウムだけでなく、代替の核物質になり得るトリウム(Th)、ネプツニウム(Np)、アメリシウム(Am)、カリホルニウム(Cm)なども含まれる。
核鑑識においては、精密に同位体比測定、元素定量を計量し確定する必要があることから「表面電離型質量分析装置」(TIMS)を使った「同位体希釈質量分析法」(IDMS:Isotope Dilution Mass Spectrometry)が用いられる。IDMSは、試料中に存在する元素を定量する場合、同位体組成の異なる標準物質を添加し試料と均一に混合し、その後混合物から元素を分離する事で生ずる同位体組成の変化を「表面電離型質量分析装置」により精密に測定し、元素の濃度を特定する技術である。
IDMSには「スパイク」と呼ばれる標準物質(トレーサー)が必要で、核鑑識に用いるスパイクは、LSDスパイク(Large Size Dried Spike)とよばれる。LSDスパイクは、ウラン及びプルトニウムをmgオーダーで含んだ硝酸塩の乾固物を、ペニシリンバイアルの底に固着させた標準物質である。例えばプルトニウムの場合には、プルトニウム239を主とした金属標準物質から調製され、そのバリデーションには絶対測定が可能な電位規制クーロメトリーが用いられる。スパイク1本あたり2mgのプルトニウム、40mgのウランと言う構成が一般的。
日本はこの同位体希釈法による分析測定誤差は0.1%であり、核鑑識に十分対応できる能力を既に有している。
但し、国内ではプルトニウム標準物質を供給できる組織がなく、海外から調達しているが、供給は逼迫している状況で、国内で金属プルトニウム239の金属標準物質調製を行える体制の整備が急務とされるが、金属プルトニウムが何に使われるかを考えれば、国内での供給体制確立はそのまま核武装に直結する為、慎重な対応が必要だ。
核鑑識の試料分析に当たっては、測定に先立ちイオン交換や固相抽出などの前処理操作を行うなど厳重な措置を行い、IDMS以外にも鑑識対象試料により精密滴定法、波長分散型蛍光X線分析法、ICP・MS(四重極及びマルチコレクタ磁場型)、aスペクトロメトリー、gスペクトロメトリーも用いる。
さて、核鑑識に必要な十分な試料があれば良いが、核武装を行う国や組織は秘密裏にそれを行うので、試料の入手自体が困難だ。このような場合、空気中、土壌、海水など環境サンプリングを行い、採取された極めて僅かな塵など微粒子を分析して、「核の指紋」を割り出す事が必要となる。例えば、ウラン234が測定されるとウラン濃縮工場の存在が証明される。またウラン236が測定されると再処理工場の存在が浮き彫りとなる。
空中から核物質を採取する特殊な航空機が存在する。それは米空軍のWC-135。このWC-135については過去ブログ「北朝鮮長距離弾道ミサイル打ち上げと、沖縄・嘉手納基地の第82偵察飛行隊と第390情報中隊」にも記載している。
WC-135は、空気中の微細粒子を採取するフィルター・ペーパー付きの収集装置を備え、採取した試料を高圧力で保存する圧縮装置を備えている。WC-135は、ソ連のチェルノブイリ原発事故や、先のフクイチ(福島第1原子力発電所)など核事故などや、2006年の北朝鮮核実験の際にも嘉手納基地から航空自衛隊のT-4練習機が付き添いながら朝鮮半島付近に進出して環境サンプリングを行っており、北朝鮮の核鑑識に必要な試料の収集に貢献している。
超微細な核物質や放射性物質を測定する為、核鑑識対象試料の化学処理にはクラス100のクリーンルーム内で作業する必要がある。現在IAEAの査察官が、世界各地の核関連施設で「スワイプ」と呼ばれるふき取り試料でだと、プルトニウムだと1フェトム(10のマイナス15乗)グラムという微量まで検出が可能。WC-135も同様フィルターを装備している。
採取された試料は、スクリーニング分析が行われる。スクリーニング分析では、gスペクトロメトリーや蛍光X線分析が用いられ、この段階で核種の粗々特定する。その後、バルク分析を行い、パーティクル分析に至る。このパーティクル分析で、数pgの同位体比情報を走査型電子顕微鏡と蛍光X線にて位置的情報を得て,二次イオン質量分析(SIMS)、TIMSを使って検知・測定し、同位体比や産地の特定が可能な不純物の同位体組成得ることができる。最近では、LGSIMS (large GeometrySecondary Ion Mass Spectrometry)が用いられる。
この装置は、ウランやプルトニウムなどの同位体比をSIMSより10倍の高感度で、しかも高速に分解能測定が可能で、採取試料の核物質の起源を従来より正確に特定できる。特に前述のウラン234やウラン236の測定に関して信頼性が著しく向上するほか、超極微債な粒子や高いバックグラウンドの試料に対する分析能力も向上する。
何時ものブログより長くなったが、数日サボっていたので、頑張った?のかも知れない。