先週、日産自動車のビジネス・アナリスト(以下、BA)についてお話をお聞きする機会を得た。
日産自動車におけるBA/BPM、及びBABOKに関する取り組みは、既に一定の成果を収めており、その徹底した改革は本物であり、このような会社が存在する事に感動すら覚えた。
以下にその概要を記載する。
○クルマ造りのプロセス改革:
日産における自動車クルマの開発プロセスは、「①キックオフ」、「②スタイリングフリーズ」、「③量産開始」という3つの大きなマイルストーンがある。②のスタイリングフリーズから量産開始(SOP:Start of Production)までの期間をKPI(Key Performance Indicator)として、これを短くするという活動を2001年から行い、従来であればスタイリングフリーズからSOPまで約21カ月かかっていたところ、シミュレーションを繰り返し、実際にクルマを作って確認する回数を3回から1回に減らし、熟練設計者のノウハウをコンピュータに取り込んで品質レベルを向上させる等の取り組みで、半分の10.5カ月にすることができた。
クルマ造りの開発プロセスを10.5カ月に短縮出来たのは、3次元CADやCAEを駆使しつつ、フローチャートなどを使ったプロセス分析を行い、プロセス全体の組み直を検討した。
またプロセスフローの標準化やナレッジの共有化とシステム化を推進した結果。
この取り組みにより設計変更も、従来より75~85%減少したし、開発コストもトータルで15%下げることができ期間も半減した。
この改革により日産の全てのクルマの開発プロセスに適用することとなった。
○グローバル情報システム本部のBEST戦略:
2005年、グローバル情報システム本部としてBEST戦略を策定した。
BESTとは、
①「Business Alignment」(業務部門とIS部門の関係強化)、
②「Enterprise Architecture」(情報基盤の最適化)
③「Selective Sourcing」(ITベンダーとの関係の見直し)
④「Technology Simplification」(テクノロジの標準化と簡素化)
の頭文字を取ったもの。BESTの目標は、①業界のベスト・プラクティスに基づくISプロセス再構築、②情報システムユーザースキル標準(以下、UISS)に基づくIS部員のスキル向上、③IS/ITベンダーへの新アウトソーシングの3つが掲げられた。
○BEST戦略に基づいた取り組み:
IS部員の役割の見直しについては、UISS(情報システムユーザースキル標準)をベースにしており、ITアーキテクトとISアーキテクト、プロジェクトマネジメント、そしてビジネス・アナリスト(以下、BA)に職種を分け、全体のロール体系として定義している。
BAについては、ある程度の経験が必要で中堅クラス以上のロールとして設定している。
このBAのロールは2008年にBAのロールは定義されBAの責任、スキル、知識を定め、この定義に基づいて、BAのコンピテンシーをUISSに基づき設定。
○IS開発プロセスにおけるBAの役割
BAは経営目標と戦略にリンクしたIT戦略の策定を担い、戦略を実現する為の業務とITの在り姿を明確化する事に貢献する。開発プロセスにおいては要件定義において主導的な役割を担い、システム導入後の業務とITの在るべき姿を定義し、企業価値向上の観点からシステム要件を選抜・統御する。その後の内部/外部設計にも一部係るが、その後のプロセスでは、移行検証工程でBAが主体的に導入までを担任する。
日産のBAは、IS部門全体、戦略や経営目標にどのように貢献できるのかについて思いを巡らせ、あるべき姿とその解決方策を考えるのがBA役割。即ち要求に基づいて、業務やITで可能となる事柄を明確にしながら、実現する業務の姿を決める。そのためには、基本認識、要求の把握・確認、分析、評価のサイクルを回す必要がある。
このBA役割概念図を作成した当時はBABOK1.6が出ており、我々の取り組みと比較してみたが、表現の仕方は異なるものの、ほぼ同じであると認識した。但し一部足りないプロセスがあったので、それを足した。日産独自の取り組みを行って来たが「うちの取り組みもあんまり外れてないな」と安心している。
○BAの取り組み当初:
最初は、2007年と2008年に「偉人会」という活動を行った。これは、経験豊富な「偉人」と「門下生」による勉強会。BAのあるべき姿を議論したり、ビジネス分析のスキルを勉強したり、英語のBABOK_Version1.6を輪読したり、起業家精神の醸成を狙ってビジネスモデルの自由研究などを行うなどの活動を継続した。
○BAのキャリアパスと教育体系:
BAになるためのキャリアパスと教育体系も整備している。入社年次ごとのタスク(主な仕事)と必要なスキル、トレーニング(研修)をチャート化している。またBABOKをもじって「BABOOK」というBAの教科書も独自に作成し、BABOOKに基づいてBAの講座も開催して人材の育成を図っている。
○BAとビジネスプロセス・モデリング:
日産全体のビジネスプロセス全体のプロセスモデルをグローバル情報システム本部のBA主導&主体で実施した。新しいシステムを開発するときに、このプロセスモデルをベースにToBeモデルを作成する。これによりグローバル情報システム本部自体の戦略についてもBAが策定できるよう、スキル向上と教育制度の充実、及びメンタリング活動も含めて実施している。
ビジネスプロセスをモデリングしてToBeモデルを考える場合、やはりITが欠かせない。つまりIS部門の中にいるBAがToBeを考える事が必要である。ここに価値がある。
○データモデリングの重要性:
プロセスモデリングだけでは不十分。やはりデータモデルを精緻に定義しないとダメ。データモデルを作ってはじめて、それを支えるシステムの構築が可能となる。IS部門のBAが、プロセスモデリングができ、かつデータモデリングをこなせるようになるとこれほど強力無比な存在は無いだろう。
○BAの陣容:
日産には約80名のBAがいる。
○BABOKの有効性:
BABOKは参考にはなる。BABOKを全部読んだからといって、BAができるかというと、それは全く違う。やはり実践あるのみ。
日産自動車におけるBA/BPM、及びBABOKに関する取り組みは、既に一定の成果を収めており、その徹底した改革は本物であり、このような会社が存在する事に感動すら覚えた。
以下にその概要を記載する。
○クルマ造りのプロセス改革:
日産における自動車クルマの開発プロセスは、「①キックオフ」、「②スタイリングフリーズ」、「③量産開始」という3つの大きなマイルストーンがある。②のスタイリングフリーズから量産開始(SOP:Start of Production)までの期間をKPI(Key Performance Indicator)として、これを短くするという活動を2001年から行い、従来であればスタイリングフリーズからSOPまで約21カ月かかっていたところ、シミュレーションを繰り返し、実際にクルマを作って確認する回数を3回から1回に減らし、熟練設計者のノウハウをコンピュータに取り込んで品質レベルを向上させる等の取り組みで、半分の10.5カ月にすることができた。
クルマ造りの開発プロセスを10.5カ月に短縮出来たのは、3次元CADやCAEを駆使しつつ、フローチャートなどを使ったプロセス分析を行い、プロセス全体の組み直を検討した。
またプロセスフローの標準化やナレッジの共有化とシステム化を推進した結果。
この取り組みにより設計変更も、従来より75~85%減少したし、開発コストもトータルで15%下げることができ期間も半減した。
この改革により日産の全てのクルマの開発プロセスに適用することとなった。
○グローバル情報システム本部のBEST戦略:
2005年、グローバル情報システム本部としてBEST戦略を策定した。
BESTとは、
①「Business Alignment」(業務部門とIS部門の関係強化)、
②「Enterprise Architecture」(情報基盤の最適化)
③「Selective Sourcing」(ITベンダーとの関係の見直し)
④「Technology Simplification」(テクノロジの標準化と簡素化)
の頭文字を取ったもの。BESTの目標は、①業界のベスト・プラクティスに基づくISプロセス再構築、②情報システムユーザースキル標準(以下、UISS)に基づくIS部員のスキル向上、③IS/ITベンダーへの新アウトソーシングの3つが掲げられた。
○BEST戦略に基づいた取り組み:
IS部員の役割の見直しについては、UISS(情報システムユーザースキル標準)をベースにしており、ITアーキテクトとISアーキテクト、プロジェクトマネジメント、そしてビジネス・アナリスト(以下、BA)に職種を分け、全体のロール体系として定義している。
BAについては、ある程度の経験が必要で中堅クラス以上のロールとして設定している。
このBAのロールは2008年にBAのロールは定義されBAの責任、スキル、知識を定め、この定義に基づいて、BAのコンピテンシーをUISSに基づき設定。
○IS開発プロセスにおけるBAの役割
BAは経営目標と戦略にリンクしたIT戦略の策定を担い、戦略を実現する為の業務とITの在り姿を明確化する事に貢献する。開発プロセスにおいては要件定義において主導的な役割を担い、システム導入後の業務とITの在るべき姿を定義し、企業価値向上の観点からシステム要件を選抜・統御する。その後の内部/外部設計にも一部係るが、その後のプロセスでは、移行検証工程でBAが主体的に導入までを担任する。
日産のBAは、IS部門全体、戦略や経営目標にどのように貢献できるのかについて思いを巡らせ、あるべき姿とその解決方策を考えるのがBA役割。即ち要求に基づいて、業務やITで可能となる事柄を明確にしながら、実現する業務の姿を決める。そのためには、基本認識、要求の把握・確認、分析、評価のサイクルを回す必要がある。
このBA役割概念図を作成した当時はBABOK1.6が出ており、我々の取り組みと比較してみたが、表現の仕方は異なるものの、ほぼ同じであると認識した。但し一部足りないプロセスがあったので、それを足した。日産独自の取り組みを行って来たが「うちの取り組みもあんまり外れてないな」と安心している。
○BAの取り組み当初:
最初は、2007年と2008年に「偉人会」という活動を行った。これは、経験豊富な「偉人」と「門下生」による勉強会。BAのあるべき姿を議論したり、ビジネス分析のスキルを勉強したり、英語のBABOK_Version1.6を輪読したり、起業家精神の醸成を狙ってビジネスモデルの自由研究などを行うなどの活動を継続した。
○BAのキャリアパスと教育体系:
BAになるためのキャリアパスと教育体系も整備している。入社年次ごとのタスク(主な仕事)と必要なスキル、トレーニング(研修)をチャート化している。またBABOKをもじって「BABOOK」というBAの教科書も独自に作成し、BABOOKに基づいてBAの講座も開催して人材の育成を図っている。
○BAとビジネスプロセス・モデリング:
日産全体のビジネスプロセス全体のプロセスモデルをグローバル情報システム本部のBA主導&主体で実施した。新しいシステムを開発するときに、このプロセスモデルをベースにToBeモデルを作成する。これによりグローバル情報システム本部自体の戦略についてもBAが策定できるよう、スキル向上と教育制度の充実、及びメンタリング活動も含めて実施している。
ビジネスプロセスをモデリングしてToBeモデルを考える場合、やはりITが欠かせない。つまりIS部門の中にいるBAがToBeを考える事が必要である。ここに価値がある。
○データモデリングの重要性:
プロセスモデリングだけでは不十分。やはりデータモデルを精緻に定義しないとダメ。データモデルを作ってはじめて、それを支えるシステムの構築が可能となる。IS部門のBAが、プロセスモデリングができ、かつデータモデリングをこなせるようになるとこれほど強力無比な存在は無いだろう。
○BAの陣容:
日産には約80名のBAがいる。
○BABOKの有効性:
BABOKは参考にはなる。BABOKを全部読んだからといって、BAができるかというと、それは全く違う。やはり実践あるのみ。