阿部ブログ

日々思うこと

希少金属代替材料開発プロジェクト

2011年07月06日 | 日記
先週の金曜日(7月1日)に開催された「希少金属代替材料開発プロジェクト」の中間評価を傍聴する機会を得た。このプロジェクトは2009年からスタートし、今年で3年目と言う事で、NEDOの規定に基づき中間評価を実施したもの。

希少金属代替材料開発プロジェクトは、排ガス浄化向け白金族、精密研磨向けセリウム、蛍光体向けテルビウム・ユーロピウムを対象元素として代替材料の開発、または使用量低減技術の開発を目的とし、以下3つのプロジェクトからなる。

(1)排ガス浄化向け白金族使用量低減技術開発及び代替材料開発
ディーゼル車両の排気ガス浄化触媒中の白金族使用量を50%以上低減可能な基盤技術及び製造技術を開発するために、遷移元素による白金族代替技術及び白金族凝集抑制技術を軸とした、白金族使用量を低減した酸化触媒、リーンNOxトラップ触媒、ディーゼルパティキュレートフィルター用触媒の開発、プラズマによる触媒活性向上技術の開発、異なる触媒の機能統合化技術の開発の各研究開発項目について研究開発を実施するプロジェクト。

白金族は、ご存知の通り南アフリカ、ロシアが主要産出国であり、両国で実に98%の埋蔵量を占め、資源の偏在性が著しく、特に南アフリカの供給懸念と減産の顕在化が心配されている。

(2)精密研磨向けセリウム使用量低減技術開発及び代替材料開発
研磨材料等のセリウム使用原単位を30%以上低減するため、酸化Ce砥粒の研磨メカニズムに関する理論的解明及び理想的砥粒・スラリーの開発、砥粒・スラリー利用効率を高める研磨プロセス技術の開発等を行う。
セリウムは中国以外での鉱山開発が進みつつあるが、需要動向を見据えての操業となる為、今後も供給不安が続く。
(蛇足ながら、セリウムの世界供給データが存在しないと始めて知った)

(3)蛍光体向けテルビウム・ユーロピウム使用量低減技術開発及び代替材料開発/高速合成・評価法による蛍光ランプ用蛍光体向けTb、Eu低減技術の開発
蛍光ランプの蛍光体に含まれるTb、Euの使用量を80%以上低減する基盤技術と製造技術を開発するために、蛍光ランプ用の材料及び新規製造プロセスの開発、最新の高速理論計算手法、材料コンビナトリアルケミストリを用いたTb、Eu低減型蛍光体の開発、ランプの光利用効率を高めるガラス部材の開発、これらの材料のランプシステムの適合性を高速で評価する基盤技術を確立する開発、ランプ製造プロセスとして、製造工程の低温化技術の開発と蛍光体種別分離再利用技術の開発の各研究開発項目について研究及び開発するプロジェクト。

テルビウム、ユウロピウムは共に、中国南部のイオン吸着鉱からのみ産出する為、中国政府のレアアース輸出規制強化の影響をもろに受け、中国以外での鉱山開発も無い状況。

この希少金属代替材料開発プロジェクトは、平成18年3月28日に閣議決定された「第3期科学技術基本計画」において「ナノテク・材料分野」を「重点推進4分野」の一つとして位置づけられ、これに優先的な資源配分を行なうとされた。

また「重点推進4分野」に列挙されている「戦略重点科学技術」のうち「資源問題解決の決定打となる希少資源・不足資源代替材料革新技術」にあたるものであり、文部科学省の「元素戦略プロジェクト」と連携し基礎から実用化までの間隙のない
支援体制を確立して実施されもので、極めて重要かつ早期の研究成果を得る事が求められるプロジェクトである。

今回は説明が無かったが、上記以外にも、①透明電極向けインジウム使用量低減技術開発/代替材料開発、②超硬工具向けタングステン使用量低減技術開発/代替材料開発、③希土類磁石向けディスプロシウム使用量低減技術開発に関するプロジェクトが進んでいる。

特にディスプロシウムのプロジェクトの低減技術開発に注目。
現状の商用焼結磁石の保磁力は、理論値である異方性磁場(90kOe)の10%程度の値に留まっている。これは「Nd2Fe14B主相」の結晶粒界で結晶磁気異方性が小さくなるウイークポイントが存在する。このウィークポイントを起点として逆磁区が核生成するためと考えられており、永久磁石の保磁力を更に上昇させるには、逆磁区の発生頻度を下げるため磁石粒子のサイズを小さくすること、及び「Nd2Fe14B相」と粒界相との界面の状態を制御することが必要となる。

このプロジェクトは単なる低減技術の開発であるのが、少々不満。やはりディスプロシウムに変わる超強力な代替材料開発が必要である。

さて、2010年2月にEUから「Critical raw materials for the EU」が発表され、同年12月には米国エネルギー省が「Critical Materials Strategy」を発表しているが、日本はこれらに先んずる2008年に希少資源のリスク調査を実施し、需給変動や価格変動などを加味した評価を実施し、重要元素として白金族、セリウム、テルビウム、ユウロピウム、ディスプロシウム、インジウム、タングステンなどを選定したもので、これは高く評価したい。