◎「それを見せてくれんか」中野清見
中野清見『新しい村つくり』(新評論社、一九五五)を紹介している。本日は、その三十三回目で、第二部「農地改革」の9「再調査」を紹介している。同章の紹介としては二回目。
それを見せてくれんかと私が言うと、皆集まってから、その前で発表するといって相手にしない。私はむっとした。この案というのが、前日から前野たちと相談して決めた地主側のものであることは想像ついた。一行は彼のほかに三名で、いずれも私たちには面識のない人々であった。敵なのか味方なのか、全く見当がつかない。私が恐れたことは、地主たちが彼らの側に寄り添って、彼らの意見を吹き込むことだった。そこで味方の連中に五、六名ずつ組んでこの四人の一人一人を囲んで歩き、地主が来て何をいうか監視せよ、と指令した。そして私だけが一人先に進んで行った。皆で相談して決めようと遠藤がいっても、他の三人はどんどん先に進んで行くし、誰も相手になるものがなく、結局彼は一番最後に残り地主たちと一緒について来た。谷を横ぎり、木立をくぐり、藪をわけて、百数十人の人間が村の上手に向って進んで行った。何か異様な経験の真っ只中にあるような感じだった。
途中から、調査官の一人ずつを囲んで、四つのグループに分かれた形になった。私について歩いた男は、むっつりとして、土壤検定器で土の深さを計ったり、薬品を出して酸度をしらべたりしていた。そして土壌も深いし、酸土も低く、適地に間違いないと言葉少なに語った。この男だけは大丈夫らしいと思った。【以下、次回】