◎吉野源三郎・富本一枝・渡邊一夫の三人が作った本
今月初めごろ、神保町の某古書店で、吉野源三郎著『人間の尊厳を守ろう』(山の木書店、一九四八年一一月)という本を入手した。吉野源三郎(よしの・げんざぶろう、一八九九~一九八一)に、こういう著書があったことは、そのとき初めて知った。
帰ってから調べてみると、発行所である山の木書店は、画家の富本一枝(とみもと・かずえ、一八九三~一九六六)が、戦後の一時期、東京の世田谷区祖師谷(そしがや)で営んでいた出版社だった。山の木書店から出た本の数は、十数点にとどまるようだ。
また、この本は、フランス文学者の渡邊一夫(わたなべ・かずお、一九〇一~一九七五)が装禎を担当している。
いずれにしても、なかなか珍しい本である。そういう本に出あえたことを、年甲斐もなく喜んだ。
表紙をめくると、左右のページに、それぞれひとつ、砂時計を持った熊のイラストがあらわれる。右ページの熊は左を向き、左ページの熊は右を向いている。どちらのイラストにも、「TEMPVS ET HORA」の文句がある。おそらく、「time and hour」を意味するラテン語であろう。
左ページのイラストの両側には、次のような、ペン字の「書き込み」があった。
昭和二十三年十二月/クリスマス プレゼント/秋田のケン三 六十七サイ ヨリ
□□仁子 へ/ミンナ ナカヨクシマショウ!
クリスマスの今日、この本を話題にしたのは、この「書き込み」を紹介したかったからである。それにしても、「秋田のケン三」さんのクリスマス・プレゼント、なかなか気がきいていますね。孫(?)の仁子さんも、きっと喜んだことでしょう。
今日の名言 2021・12・25
◎ミンナ ナカヨクシマショウ!
「秋田のケン三」さんが、1948年のクリスマスに、孫(?)の仁子さんに贈った言葉。上記コラム参照。