礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

南方圏ほど法系の錯雑しているところは少ない

2018-11-28 02:16:39 | コラムと名言

◎南方圏ほど法系の錯雑しているところは少ない

 今月二五日から二七日にかけて、瀧川政次郎『法史零篇』(五星書林、一九四三)所収の「火と法律」という文章を紹介した。
 本日は、比較的に短い「南方圏の法系」という文章を紹介してみたい(五六~五八ページ)。

  南 方 圏 の 法 系

 大東亜海をめぐるインドネシヤの民族、社会、風俗、物産については、近ごろ夫々〈ソレゾレ〉の専門家によつていろいろと語られてゐる。にもかゝはらず、インドネシヤの法律の現状といふやうな問題については、殆ど語られるところがない。語られる必要がないのであらうか、将〈ハタ〉また語るべき材料がないのであらうか。
 インドネシヤは安南、カンボヂヤ、泰〈タイ〉、ビルマ、マレイ等の半島部とボルネオ、スマトラ、ジヤワ、セレベス、フイリツピン等の嶋嶼〈トウショ〉部の二部から成つてゐるが、凡そ〈オヨソ〉世界中で、此の地方ほど法系の錯雑してゐる地方は少い。即ち安南は、速く建国の初めから支那法系に属し、カンボヂヤ、泰、ビルマは大体において仏教法系である。マレイは大体回教法系の法域に属するが、英領直轄地であつた昭南島〔シンガポール〕、その他には英法が行はれてゐる。スマトラ、ボルネオ、ジヤワ等は回教法の法域であるが、バリ島には仏教が遺つてゐる。ルソン、チモール、セレベスの一部には、西班牙〈スペイン〉人の齎した〈モタラシタ〉基督教の寺院法が遺つてゐるが、ミンダナオ島には回教徒が住んでゐる。しかして蘭印の全部及びチモール島には、ロマネスク法系に属するその本国の法律が行はれ、フイリツピン全島には、ともかくも英米法系が拡がつてゐた。又南方圏のどこにでも住んでゐる華僑は、その身分法に関する限りにおいては、支那法に依つてをり、南方圏に散らばつてゐる印度人は、概ね〈オオムネ〉ヒンヅー教の法律慣習に従つて生活してゐる。
 南方圏から資源をもつてくることも必要であるが、これらの圏内に住む人民をして物心ともにその所を得せしめることも必要である。南方圏をひたすら資源を需める場所と考へるのは、英米風の考へ方である。上下交々【コモゴモ】利に征〈セイ〉せれば危い〈アヤウイ〉。何ぞ必ずしも資源のみを言はん。唯道義あるのみだ。私は印度及び南方の法系については、多く知るところがない。この方面の専門家から法律の現状に関する報告に接せんことを切望する。

*このブログの人気記事 2018・11・28(7位は極めて珍しく、9位は実に久しぶり)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする