◎安重根が挙げた伊藤博文暗殺の理由15か条
今日、日韓関係がきわめて難しい状態にある。その上あらたに、中国をも巻き込み、安重根石碑問題というものが持ち上がっている。
今、この安重根石碑問題についてコメントする用意はない。だが、そもそもなぜ安重根が伊藤博文を暗殺しようとしたのか、また旅順地方院における公判で、安重根はどんなことを述べたのか等については、若干、述べてみたいことがある。
まず、安重根が挙げた伊藤博文暗殺の理由「十五ヶ条」というものを紹介しておく。
一、韓国王妃の殺害を指揮(今ヨリ十年許〈ばかり〉伊藤サンノ指揮ニテ韓国王妃ヲ殺害シマシタ)
二、韓国保護条約五ヶ条(今ヨリ五年前伊藤サンハ兵力ヲ以ツテ五ケ条ノ条約ヲ締結セラレマシタガ夫〈それ〉ハ皆韓国ニ取リテハ非常ナル不利益ノ箇条デアリマス)
三、日韓新協約七ヶ条(今ヨリ三年前伊藤サンガ締結セラレマシタ十二ケ条ノ条約ハ何レモ韓国ニトリ軍隊上非常ナル不利益ノ事柄デアリマシタ)
四、韓国皇帝の廃位(伊藤サンハ強イテ韓国皇帝ノ廃位ヲ図リマシタ)
五、韓国陸軍の解散(韓国ノ兵隊ハ伊藤サンノタメニ解散セシメラレマシタ)
六、韓国良民を殺させる(条約締結ニ付韓国民ガ憤リ義兵ガ起リマシタガ其関係上伊藤サンハ韓国ノ良民ヲ多数殺サセマシタ)
七、韓国の政治と権利を奪う(韓国ノ政治其他ノ権利ヲ奪ヒマシタ)
八、韓国の教科書を廃棄(韓国ノ学校ニ用ヒタル良好ナル教科書ヲ伊藤サンノ指示ノ許ニ焼却シマシタ)
九、新聞の購読を禁止(韓国人民ニ新聞ノ購読ヲ禁シマシタ)
十、第一銀行券の発行(何等充ツヘキ金ナキニモ不拘〈かかわらず〉性質ノ宜シカラサル韓国官吏ニ金ヲ与ヘ韓国民ニ何等ノ事モ知ラシメズシテ終ニ第一銀行券ヲ発行シテ居リマス)
十一、国債の募集(韓国民ノ負担ニ帰スヘキ国債二千三百万円ヲ募リ之ヲ韓国民ニ知ラシメズシテ其金ハ官吏間ニ於テ勝手ニ分配シタリトモ聞キ又土地ヲ奪リシ為メナリトスト聞キマシタ之韓国民ニトリテハ非常ナル不利益ノ事デアリマス)
十二、東洋平和の攪乱(伊藤サンハ東洋ノ平和ヲ攪乱シマシタ其ノ訳ト申スハ即チ日露戦争当時ヨリ東洋平和維持ナリト言ヒツヽ韓皇帝ヲ廃シ当初ノ宣言トハ悉ク反対ノ結果ヲ見ルニ至リ韓国民二千万皆憤慨シテ居リマス)
十三、韓国に不利な政策(韓国ノ欲セザルニモ拘ハラズ伊藤サンハ韓国保護ニ名ヲ籍リ韓国政府ノ一部ノ者ト意思ヲ通シ韓国ニ不利益ナル施政ヲ致シテ居リマス)
十四、日本先帝を殺害(今ヲ去ル四十二年前現日本皇帝ノ御父君ニ当ラセラル御方ヲ伊藤サンガ失イマシタ其事ハ皆韓国民ガ知ツテ居リマス)
十五、日本皇帝や世界各国を欺く(伊藤サンハ韓国民ガ憤慨シ居ルニモ不拘日本皇帝ヤ其他世界各国ニ対シ韓国ハ無事ナリト言フテ欺イテオリマス)
このうち、何といっても気になるのは、第十四条である。「現日本皇帝ノ御父君」といえば、孝明天皇以外はありえない。孝明天皇暗殺説があるのは事実だが、もちろん真偽は不明である。しかし、安重根は、「現日本皇帝ノ御父君ニ当ラセラル御方ヲ伊藤サンガ失ヒマシタ」と言っている。これはどういうことか。伊藤が孝明天皇暗殺の下手人だったというのか。安重根は、何を根拠に、そういうことを言ったのか。当時、そういう風説がおこなわれていたということなのか。【この話、続く】