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ON  MY  WAY

60代を迷えるキツネのような男が走ります。スポーツや草花や人の姿にいやされ生きる日々を綴ります(コメント表示承認制です)

「そして、バトンは渡された」(瀬尾まいこ著;文藝春秋)を読む

2025-04-16 18:19:59 | 読む

先日読んだ瀬尾まいこさんの「私たちの世代は」がよかったので、違う作品を読んでみようと手に取ったのは、本書。

「そして、バトンは渡された」

これは、2018年2月に文藝春秋より出版され、2019年に本屋大賞を受賞した作品だとのこと。

本屋大賞を受賞したということだけで、あとは予備知識を何も入れずに読んでみることにした。

 

本書の構成は、280ページ近くある第1章と90ページ近くの第2章となっていた。

ただ、第1章の前に1ページだけ文章があったのが不思議だった。

 

何を作ろうか。気持ちのいいからりとした秋の朝。早くから意気込んで台所へ向かったものの、献立が浮かばない。

(中略)

いつか優子ちゃんはそう言っていたっけ。そうだ。ふわふわのオムレツを挟んだサンドイッチにしよう。そう決めると、バターと牛乳、そしてたくさんの卵を冷蔵庫から取り出した。

 

不思議なこの謎の1ページは、最後まで本書を読み終えた後にもう一度開いたときに、その意味がよく分かった。

 

本書の主人公は、優子という女の子である。

彼女の高校時代の話が中心となって物語が展開するが、彼女は、その時点で父3人、母2人を持つという稀有な成育歴を持つ少女であった。

複雑な経歴を持つ彼女だが、性格はゆがんでいない。

高校のクラスでは、周囲からいじめのような扱いを受けて孤立したときもあったが、深刻に悩むことなく、状況をありのままに受け入れて生きていく。

その様子は、たくましくさえ映る。

 

父3人、母2人というと、間違いなく実の両親はいないということだ。

そんな彼女の高校での今の生活を描きながら、時々過去の小学生以前から中学生の時の生活に戻りながら、彼女の経験してきた暮らしを理解させていく。

それによって、彼女がなぜ現在のような複雑な暮らしに至ったのかが分かってくる。

一般的な家庭とは異なる環境で育ってきた優子だったが、彼女が歪んだ性格ではなくむしろ多くの人に好かれて生きてきていた。

それは、育てる親がかわっても、みな優子のことを愛してくれていたから。

それゆえに、優子はその親だけではなく周囲の人に対する感謝の心をもった人として成長している。

それぞれ親として、娘に対する愛情のかけ方は様々だ。

だけど、やはり「今の父」とのかかわりが最も深く描かれる。

年齢は20歳しか違わない、血のつながりのない「若い父」。

 

その父とよく出てくるのが食べるシーン。

ケーキなどの菓子類だけでなく、朝食や夕食など食事に関する場面がよく出てくる。

それを作ってくれるのは、今の父の森宮さん。

かつ丼、オムレツ、餃子、そうめんなど、優子はおなか一杯になってしまう。

食事を作ってくれる人がいるということは、家族であるということに大きな意味があるように思えた。

優子の結婚の相手となる男性とも、食べることでのつながりができていたし。

 

結局、大切な家族の絆というのは、一緒に食事をして、一緒に時間を積み重ねていくことによってできていくものなのだと思わせてくれる。

書名の「そして、バトンは渡された」のバトンは、当初、単に親から次の親へと渡される優子という子の存在をバトンにたとえているのかと思っていた。

読後、そうではないのだな、と気づいた。

それは、もう一度、第1章の前に書かれた謎の1ページを読んでみたから。

本書のその初めの1ページと、最後の方の数ページは、父である「森宮さん」を話者として書いてあった。

本書名は、父としての思いを表す意味が込められていたのではないか。

今は、そう確信している。

 

大きな山や深い谷がある作品ではないけれど、根底に温かさが流れていて、本屋大賞を受賞したことには納得の作品であった。

瀬尾作品2つめ、満足です。

コメント (2)
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