ON  MY  WAY

60代を迷えるキツネのような男が走ります。スポーツや草花や人の姿にいやされ生きる日々を綴ります(コメント表示承認制です)

「まほろ駅前多田便利軒」(三浦しをん著;文春文庫)

2020-11-14 22:42:51 | 読む


三浦しをん氏の作品は、大学駅伝を描いた「風が強く吹いている」、辞書の編纂にかかる「舟を編む」の2つを読んだことがある。
駅伝と辞書。
どちらも、登場する人間たちの健闘ぶりに引かれ、一気に読んだ。
かなり専門的な内容を知らないと書けないものだと思う。
その違う世界を、よく取材して書いているなあと感心して読んだのだった。

今回読んだのは、「まほろ駅前多田便利軒」。
三浦しをん氏の直木賞受賞作。
この小説は、タイトルを見ただけで、引かれるところがある。
「まほろ駅」がある「まほろ市」。
どう考えても、「まぼろし」とかぶる。
「多田便利軒」。
「ただ」という便利な店。
どんなストーリーが展開されるのだろうか、いつか読んでみたいと思っていた。

本書は、6章に分かれ、物語が展開する。
主人公の多田と、高校時代の同級生の行天が再会し、多田の営む便利軒に行天が同居することになる。
便利屋の多田に転がり込む様々な依頼に、行天もかかわって取り組むことになる。
そこで出会う様々な人々と、それゆえに遭ってしまう危険にハラハラさせられる。

小説は、自分にも経験があることを思い出させ共感を抱くものと、自分が味わったことのない体験を疑似体験させてくれ満足感を抱かせてくれるものの2つがある。
この小説は、後者の内容が多い。
多田や行天は、ともにバツイチでもある。
だが、多田や行天などの登場人物たちが私に味わわせてくれるのは、人生で様々な失敗をしながらも、今を必死に生きてとにかく人生を続けていくことの大切さだ。
人は、生きていく途中で、様々な人と会い様々な経験をする。
それは、よいことばかりではない。
どちらかというと、よくない経験の方がはるかに多いのかもしれない。
それでも、人に生まれた以上、生きていくしかない。

「生きていればやり直せるって言いたいの?」
「いや。やり直せることなんかほとんどない」

   :
「だけど…(略)…そのチャンスは残されてる」
「生きていれば、いつまでだって。それを忘れないでくれ」


「生きていれば、いつまでだって」
主人公の多田が、登場する小学4年生男子に対して吐く言葉ではある。
フィクションであっても、その言葉には、自分の経験から共感を抱く。

相方の行天の言葉も、そう。
「不幸だけど満足ってことはあっても、後悔しながら幸福だということはない」
「すべてが元通りとはいかなくても、修復することはできる」

今の自分がうなずいてしまうのは、人生を60数年生きてきた経験からかもしれないな…。
そんなことも思って読み終えた。

コメント
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