private noble

寝る前にちょっと読みたくなるお話し

Starting over15.1

2018-03-18 18:28:11 | 連続小説

 朝比奈はしばらく口を閉じてしまった。もういいかげん生産性のない、こんな会話を続けることに飽きてしまったんだろうか。おもむろに腕時計に目を向けた。カタチの大きな男性向けの時計に見えた。そんな小道具のひとつひとつにも、おれの知らない朝比奈の過去がある、、、 なんか嫉妬しているおれ、、、 小さいおとこだ。
「ねえ、ホシノ。ものは相談だけどさあ、このクルマ、運転できない? ちょっと送ってもらいたいところがあるんだけど」
 はあ、そうですよね。べつにブラブラと街中を行き来するためにスクーターで出かけてるわけじゃないもんね。だいたい、さっきから貴重な時間だって、、、、 はあ? クルマ。おれが運転? 免許持ってませんけど。いや、それより運転したことありませんけど、あれ? 逆か、運転したことがないから免許持ってないのか、、、 どっちでもいいか。運転できないに変わりはないんだから。
「ふーん。そうなの。じゃあわたしが運転してもいい? ちょっと場所代わってくれる」
 そりゃいけど、べつに。でもさ、朝比奈ってこのクルマが誰のモノなのか、どういった経緯でここにおいてあるのか、それを持ち出していいのかとか考えないのか。そもそも朝比奈も免許持ってるのかってハナシなんだけど。
「持ってないけど。それが何か問題? ホシノってけっこう形式ばったとこあるのね。例えば、なにかを始めるのにカタチから入るタイプ。例えば、文章の内容より誤字脱字を気にする。極めつけは、正しいおこないをすれば間違いは起きない。少なくともうしろ指は差されないって思ってる。そんなものは生きていく上でなんの役にも立たないのに」
 いや、それほど強気に言われると返す言葉もない。それに、いまここで人格を全否定されるような言葉をあびたけど、それほど大それた発言をしたつもりもなく、ただあえて犯罪者のお仲間になりそうな方へ進むのは賛同できないだけで、なんだか聞いた方が悪者のような気にさえさせるほどの強権発令はさすがというしかない。
「ごちゃごちゃ言ってないでさ、はい、どいて、どいて。矛盾だらけなのよ、人生なんて。あれも食べたい、これも食べたいって毎日想像してるとね、実際にそれが実現したとき食傷になっていて食べれない。食傷、わかる? 簡単に言えば、胸やけして食が進まないってとこかしら。地球が30分ほど先に進んでいたのね、きっと」
 朝比奈はおれをおしのけて、運転席を、、、 ドライバーズシートを占拠し。おれは呆然として外に突っ立ってそんな朝比奈の見解を聞いていた。最後の例え話はやっぱりわからずに考え込んでいたら、ガレージの扉を開けるようアゴで指示された、、、 アゴの動きで朝比奈の要求がわかるなんて、おれも大したモノ、、、 状況判断でそれぐらい誰にだってわかる、、、 なんにしろきれいなアゴのラインだった。
 朝比奈はなんと一発でエンジンを始動させた。そういう行為にまだ価値がある時代なんだ。エンジンの動きを安定させるためか、なんどかアクセルを踏み込むから、すぐにガレージの中が排気ガスのニオイが拡がる。なんだか小麦粉が焼けるニオイに似ていた。排気音もスタンドに来るクルマとは違って無遠慮な感じだ。これがレーシングカーだからなのか。そうして朝比奈はゆっくりとクルマを前進させた。その技術が大変なものだといまのおれにはわからなかった、、、 そういうと、あとでわかるみたいな伏線になってるっぽくてイヤらしい言い方だ。
 
クルマを出したあと、おれはもう一度、ガレージの扉を閉めさせられ、、、 自主的に閉めたんだけど、、、 ノコノコと助手席に戻った。戻っていいものかと思ったけど、朝比奈ひとりにクルマを預けるわけにもいかないだろ、、、 そうだろ?
 なあんて、イッチョ前に男気を、、、 男気か? まあそいつを出したのが間違えだった。朝比奈いわく、初めてクルマを運転したとのことだが、行き先に着くまで、発進する時と止まりかける時を除いて法廷速度以内では走らなかったし、二つばかり信号を無視したし、おおよそクオーター、、、 25台ぐらいね、、、 ほどのクルマを抜き去り、1台をやり過ごさせた。その1台は、一方通行を逆走した朝比奈が、相手を脇道に強制的に排除させたものだ。
 目的地に着いたとき、おれは5年ぐらい寿命が縮まっていた。5という数字になんの根拠もなく、なんとなく5年を選んだだけだから、3年でも、7年でもいいんだけど、つい5年って言ってしまう。そして着いた場所で、さらに2年ほど寿命が縮まった。こんかいの2年に、、、 もういいか。なんにせよのどから心臓が出てきそうなのを何度も飲み込んで抑えていた。
「あー、よかった、間に合って。マリイさん、ああみえても時間には厳しいんだから」
 あーよかった。死ななくて、、、 マリイさんなる人がどう見えるのか、まだお目見えしていない段階ではなんともいえないけど、つまりは時間に間に合わせるため、速度と、信号と、ルートを計算に入れて運転していたのかとわかればそら恐ろしくなる。
 
それもそうだけどココって。おれはあらためて建物を見渡した、、、 見渡すほど大きくはない、、、 描写がいいかげんだと、いろいろと混乱する、、、 おれのあたまも混乱しているからしかたない。派手な電飾が添えられ、日が暮れればスプレーで塗られたものではない赤、青、黄色のあざやかな色が灯るんだろう、、、 おれは緑が好きだ、、、
 
ここはつまりは大人のオトコが日頃の憂さ晴らしに、お金を払ってオンナのヒトと楽しくお酒を飲む場所のはずだ、、、 つまりキャバレーみたいな、、、 とおれが呆気にとられていると、たぶんマリイさんと思われる人が目の前に現れた。どうして、おれがこの女性をマリイさんだと思ったかというと、ああ見えてもって言われて、いかにもああ見えてしまったからで、それが某有名SF映画に出てくる、カエルの化け物のような体型だからって訳じゃない、、、 ホントだよ、、、
「もうーっ、エリナちゃんっ。遅っいわよ! 間に合わないかと思って、ヒヤヒヤしたんだから」
 エリナって誰だよと思いながら、朝比奈のファーストネームも知らないことに気づいた。もしかしたらここでの源氏名かもしれないけど、、、 そこに深入りする勇気はない、、、 朝比奈エリナちゃんでいいじゃないか。なんて首をタテに振り納得してたら、ロクなこと考えてないでしょ。といった鋭い目つきで朝比奈に睨まれた。
「あら、ヤダ、エリナちゃん。今日は同伴出勤? ちゃんとお花代もらった? なあんてそんなわけないか。ボクはエリナちゃんの彼氏なの? 心配で付いてきたのかしら。いいわ、入って、入って。ほら、エリナちゃんは早く準備して。バンマスがお待ちかねよ、機嫌損ねないようにね」
 ボク? ボクですか、ボクですよね、ジャバから見れば、、、 あっジャバって言っちゃった、、、 瞬間冷却されるのか。


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