日本は沖縄電力を入れて電力10社体制となっている。共通するのは電気エネルギーを発電し、供給する地域独占会社で、経済産業省の支配下にあるということ。同じくエネルギーを供給するガス会社が有るもの、規模は10分の1以下と勝負にならない。
電力10社の中で、中央3社(東京、関西、中部)が大きく、何事につけてもこの3社がリードするが、特に東電は規模が最も大きいだけでなく、全てにわたってイニシアティブをとる。続くのがミドルの3社(北から東北、中国、九州)、残りが小規模の北海道、北陸、四国、沖縄である。
大学を卒業して電力会社に入ると、初めは横並びで職級が上がる。最初の役が班長(発電所)や主任(関西電力には副主任が有る)で、そこまでは随分遠い。次に管理職、特別管理職、更に出世すると支配人、取締役・・となる。勝負は45歳ぐらいからで、特に50歳ぐらいから、出向するもの、取締役になるものが分かれる。
大学を出ていればいつか管理職にはなれる。新米の管理職は副長とか係長。係長は営業所などに僅かにある程度。新米の管理職は管理職教育を受ける。そこで教わるのは例えば職場のリーダーとしての役割やあり方などだが、これを忠実に守っていたら多分、良くて課長までかな。
電力会社では世の中の常識は通用しない。理想や理念、正しい判断は危険。最も危険なのは正しいことを発言し、実行する勇気。
電力会社の人事評価は、ま、自動車の免許試験みたいなもの。減点方式で、実績を積んでも、それを評価するかどうかは作文の世界だから上司次第。むしろ、手柄を立てるためにちょっとでも脱輪したらそちらの方が怖い。上司の言うとおり動くのが結局ベスト。
兎に角人事部が弱いので何でもアリ。例えば、常務から無理筋の人事を言われたら、人事部長は即座に「はい」を3回ぐらい言う。自分の出世に役立つ。(トップ人事は相談役や会長と言われている)
最近は表向き、実績評価を掲げているが名と実は別物。管理職以上にはポスト昇進が有り、成績や評価はともかくとして、「このポストに適する」の一言でジャンプ昇進できる。1つ上がると年収が100万円ぐらい上がるかな。
電力会社では事務屋と技術屋の世界はがらりと異なる。事務屋は広いネットワークを持ち、ただひたすら出世のための情報集めと、それ以上に実力者との人間関係作りに奔走する。アフターファイブや休祭日に上司にサービスする公私混同は当たり前で、それが出世を決める。
会長がテニス好きなので夫婦揃って日曜ごとにおつきあいしていた人がいましたな。おかげで取締役になった。社長や会長や相談役の家は、土日になると、社員がやってきては掃除やら片付けやら、一方では子供や孫の進学の世話したり。凄いですね。
前にも書いたが、出世に最も効果的なのは政治家。自民党政権時代は大臣クラスの国会議員が推薦する場合(原則1名)、常務取締役にはなってました。同様に、OB(最低でも部長)が裏で動いた場合。OBは親であったり元上司であったり。これもかなり強力。
上司に気に入られ、その上司がどんどん出世するのは理想的だが、一人の上司との人間関係だけだと、逆にその上司がこけると冷や飯を食わされる。
課長は県の支店、本店では特別管理職になる。副長など一般管理職は組合員。特別管理職になると、残業代はつかないがそれ以上の給料が約束される。本店の課長は、副長から上がってくるペーパーをいじくりまわしたり、色々調整したり。(部下の態度をみながらこいつの評価をどうしようかと常に人事をやっている)
それより、取締役以上からかかってくる電話を心待ちにする。この電話の回数が出世のバロメーター。課長以上はサービス業だと思った方が早い。某銀行では、上司が煙草を取り出す部下が間髪を入れずライターに火をつけて差し出すらしいが、電力では露骨を嫌がり、もっとスマートなサービスが喜ばれる。
私のようにバリバリ仕事したかった人間は全く出世の条件に合っていない。仕事すれば摩擦が起き、失敗もする。(失敗は命取り) 根も葉もないうわさを裏でゴーゴーと流される。能力のない人間がジェラシーで動くエネルギーはすごい。その根も葉もない噂が結構採用される。何しろ、闇から闇。
そして、電力会社に経営力を要しない原因に地域独占と総括原価方式があげられる。発送電分離が無い中では、実質的な競争が無く、ガス会社が頑張っても知れているから超ぬるま湯。総括原価は、自分で原価を見積もって、それに所定の利益率をかけるもの。何もしなくても受注が約束され、同時に利益も保証される。
東電では原価を水増しして利益を増やしていたことが分かった。東電社員は以前にも官僚(電気料金は事実上、経済産業省の管理下にある)は騙しやすいと言っている。これじゃ経営など必要とされない。一流の詐欺師が活躍する世界だ。
断っておきたいのは、①殆どの電力マンは大変まじめで(私の知る限り、世の中で最もまじめな人たち)、特に営業所や発電所などの献身的な仕事には頭が下がる。一部の連中(特に事務屋)が政治力を利用したやくざな世界を繰り広げている。②電力会社によって多少事情が異なり、温度差がある。
電力会社を支えている超まじめな人たち(出世は難しい)の給料と、上層に君臨する一部のやくざの給料(実質的な仕事をしていない割には異常に高い)とは全くバランスを欠いたものである。