19080年代後半、テレビでは日本企業・日本人がアメリカのビルや美術品を高額で買い漁る状況を、一方ではクレジットカードで破綻し苦悩するアメリカ人の生活が映し出した。時を同じくして、ジャパン・アズNO1が出版され日本は沸き返った。新聞や雑誌をはじめとするマスコミはアメリカに対する日本の経済的勝利をはやし立てた。日本の進む道を阻むような者はいないような書きぶりだった。今となってはそんな瞬間もあったかという昔の物語である。
ところが、アメリカにも日本のマスコミの報道は十分に伝わっていた。アメリカ人のすごいところは、その敗北を素直に認めたことである。(日本には未だバブル崩壊や中国の躍進=日本の敗北についての素直な反省・分析もない)。例えば、当時のアメリカ人著書では、必ずしもアメリカがすべての分野でリーダーを務める必要が無い、経済面では日本がリーダーであっても良いのではないかとの記述がある。アメリカではクリントンが大統領になり、直轄のCIAを経済政策に組み込み、日本の調査と分析が始まる。そこで、次々と明らかになったのは、商社などの賄賂型ビジネスであり、多くの企業のモラルや法律を無視した暴走だった。そこで、勇気百倍、アメリカの猛烈な巻き返しが始まる。
世界一の諜報機関・軍事力・経済力を持つ国にとって賄賂やいかさまのビジネスを暴き、潰すとともに、自国や旧英連邦のビジネスに置き換えることはたやすいことだった。日本に代わってアメリカや旧英連邦の繁栄がもたらされる。賄賂やいかさまを指摘された日本企業は文句の言いようがないし、表にも出せない。取引の相手も痛いところを突かれ、アメリカの主張を全面的に受け入れざるを得ない。かくして、世界各地にひるがえっていた日本の旗は勢いを失い、降ろされることになったのである。
トヨタ、キャノン、シャープなどが世界企業に躍進した原動力に優れた企業戦略が有ったことはことは紛れもない事実であるが、一方でこれらの企業に賄賂や不正・いかさまの無かったことが極めて重要だった。
アメリカはCIA(盗聴はお手の物)などが政府機関や日本の有力企業(殆どの企業が問題を抱えていながら、その深刻な状況を把握・理解できていない)の悪情報を集積することになる。これにより、日本を叩くことが非常に容易になった。例えば、上場企業の悪情報をちょろっと流すだけで、株価は暴落する。地検や検察庁が動きはじめる。日本のマスコミはリークされた情報の後追いを始め、袋叩きする。特にクリントン政権ではこのパターンが激しかったと推測される。共和党ブッシュ政権になったことは日本経済にとって幸いであった。このように日本のマスコミはアメリカの戦略の中で道具として利用され、報道が必ずしも日本の国益とは合致していない。
私は日本のマスコミに国家ビジョンを持てと言いたい。日本政府が適正なビジョンや国家戦略を持てないのはやむを得ない面もあると思う。それは自民党政権が長すぎた故に、官僚組織や大企業などが噛みこんで癒着・腐敗が起こり、がちがちの既得権維持管理構造が出来上がってしまっている。現状では、「日本とはこのがちがちの既得権構造」のことであるが、適正なビジョンを描こうとすると、この既得権構造を否定することになる。自らを否定することができないというのが、例えば安倍君の困惑する姿(国民の支持を得るには自らの既得権構造を壊さなければならないから、その温存のために中途半端な手を打たざるを得ない)である。
マスコミは何者にも影響されることなく、本来あるべき日本の姿をビジョンとして描き、国民に知らせる義務がある。マスコミ各社はそのビジョンの優秀性・合理性・実現性を競うべきだろう。ビジョンが国民の間に認識され浸透すれば、おのずから戦略が浮かび上がってくる。また、マスコミは適正な国家ビジョンを持った上で、報道して欲しい。鬱屈した感情のはけ口、イデオロギーで偏向された思想の押し付けなどではなく、日本のあるべき未来像を実現するための、したたかな戦略がマスコミにも求められる。
また、マスコミはその姿勢も問われている。中日新聞だったと思うが、新聞記者クラブの弊害を告発する本を出版したのは30年ぐらい以前のことであるが、その後、全く改善がなされていない。報道の中立性を保つなら、記者クラブのイスを既得権とするのではなく、記者であれば誰もが利用可能とし、むしろどんどん街に出てゆき自分で調査して記事を作るべきだ。記者クラブのイスを失いたくないために、官僚や公務員などの膨大な不正・汚職を追及せず握りつぶしてきたマスコミの罪はあまりにも大きい。
最後に一言付け加えるとしたら、政治家や官僚組織がダメでも、せめてマスコミが正常であったら、日本はここまでひどくはならなかったし、今でもアメリカと肩を並べるスーパー先進国として世界をリードしていたはずだ。
文責:吉井清明
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