保守はゴジラを夢見るかⅥ

　人間は自分の人生に関して、一つのまとまりがあって価値があって、ある方向に向けて進んでいると信じずにはいられないのです。これを”物語”といいます。
現実を、あるいは自分の人生を意味のある形にまとめた物を”物語”というのです。
よって、「現実を分析する」ということは、「その背後にある物語を分析する」事とほとんど同じことなのです。
現実だってどんどん変わっています。私自身だってどんどん変わっています。しかし、そこに共通性が十分ある物と見なして分析します。これを動態分析といいます。
動態分析とは、”物語”について説得力があるか辻褄が合っているかどうかをチェックするのとあまり変わりがありません。
現実を分析することと”物語”（映画、小説、芝居、アニメ等）を分析するのと何が違うのでしょうか。
後者ははっきりフィクションと言い切っている”物語”を分析することです。
つまりFictive Narrative、虚構である事がはっきりしている”物語”を分析することです。これが本来の物語分析です。
一方現実の分析は「これが嘘ですよ」と宣言していない、Fictiveでない物、「これこそがリアルなんだ」と言っている物を分析する事を現実分析といいます。
切り口は様々ですが、実は物語分析と現実分析は本質的に違いはないのです。
特に現実分析は根源的な部分に行けば行くほど価値観、世界観、パラダイム、ビジョンの問題に絡まざるを得ない故に物語分析に近くなっていきます。
逆に物語分析も、それがどういう価値観の元に作られているのかに注目して行った場合、そういった価値観を生み出す現実や時代の分析にもなるのです。
　中野さんの「保守とはなんだろうか？」にはコールリッジの文学的業績についてのコメントはありません。しかし、これも一種の物語分析です。
私の「震災ゴジラ」は物語分析、いわゆるFictive Narrativeの分析ですが、同時に現実の分析でもあります。
歴史的に見て、創作、現実両方の分野において傑出した業績を残した人物が少数ですが存在します。
ゲーテ、彼はファウストを始め文学的に有名ですが、実はワイマール公国の首相までやった人物です。
チャーチル、彼はイギリスを代表する政治家ですがノーベル文学賞まで取っているのです。
19世紀のイギリスの政治家、ディズレイリー、彼は帝国主義の必要性を説いて回った人物で、社会派の小説家でもありました。
現実の政治において重要な役割を果たす、あるいは大きなビジョンを持った人物が芸術的な意味での物語の語り部でもあったことは珍しいことではありません。
俳優が大統領になったりする国もありました。
　心理学の分野で、自己分析において「自分はこういう人間なのだ」と意識できる領域と意識できない領域を両方とも押さえておかなければ
本当の人間の内面は分からないというのが心理学の常識になっています。
同様に現実分析にも、例えば日本の現実を分析するとします。日本人が「今の日本の状態はこうである」と言っていることだけ見たらそれは話の半分に過ぎません。
日本人が認めたくない日本の現実も現実の一部だったりするからです。
認めたくないと意識していればまだ良いですが、全く意識せず、無意識に抑圧している、気づかないようにしようとしている物、これも日本の現実なのです。
長期的にはそちら側の方が影響力が強いことがあるほどです。
こういったことを探っていく上で、映画とか芝居、小説といったフィクションを分析することは鍵になるのです。
そういう意味で現実社会の分析と物語分析は非常に重なっています。前者は経済分析や政治分析、後者は映画評論や文芸評論と言うように分けることは間違いなのです。


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