(© 東洋経済オンライン アメリカ株高を支えているのは、好調な企業業績だが…(写真:Brendan McDermid/Reuters) )

① ""アメリカ株はいつ「崩落」してもおかしくない 企業業績について過剰に好反応している""
ロバート・J・シラー 2018/10/20 15:00
アメリカ株は2009年3月に底を打ってから3.3倍も値を上げている。筆者が提唱してきた景気循環調整済み株価収益率「CAPE」(割高感を測る指標)によれば、アメリカ株は世界で最も割高だ。この株高は正当化できるものなのか、それともバブルか。
株高の根拠とされるのが、好調な企業業績だ。2009年第1四半期〜18年第2四半期に株価指数S&P500の構成銘柄の1株当たり利益は3.8倍になった。トランプ政権が発足した2017年1月からの20カ月間でS&P500は24%上昇。この間、企業の1株当たり利益も20%増と、株価と同じくらい伸びている。
② 市場参加者は時折、教訓を忘れる
つまり株価と利益はほぼ1対1の対応を保って、共に拡大してきた。
これをもって、現在の株高は単にアメリカ経済の力強さを反映しているだけでバブルではない、と結論づける向きもあろう。
だが、企業業績とはそもそも不安定なものだ。業績拡大はわずか数年で終わることも珍しくない。実際、アメリカの株式市場は劇的な局面変化に幾度となくさらされてきた。たとえば2008年第4四半期にS&P500構成銘柄の1株当たり利益はリーマンショックで減損が相次ぎ、赤字に転落した。
市場参加者は企業業績に過剰反応してはならないことを知っているはずだが、時折、教訓を忘れる。ある見方が世の中で支持を集めると、そうした見方に惑わされて、誤った考えを抱くようになるのだ。
1世紀前の事例を見てみよう。1914〜1916年の2年間で企業の利益は2.6倍になったが、株価は16%しか上がらなかった。これに対し、「狂騒の20年代」には2029年までの8年間で企業の利益は5倍超拡大、株価も4倍を超える上昇となった。
市場の反応が分かれたのは、株価を取り巻くストーリーが違ったからだ。1916年当時は、企業業績の拡大は第1次世界大戦勃発に伴う欧州からの戦争特需によるもので、すぐに元に戻ると考えられていた。一方、1920年代に株高を支えたのは外国の戦争の話ではなく、自由と自己実現の物語だった。だが、このような時代のムードにもかかわらず、1920年代末には株価と企業収益は共に大暴落した。
1982〜2000年には、企業の利益が2倍程度しか伸びない中、株価は7.5倍にもなった。しかし株価と企業収益は2003年までにいずれも半減する。この時代の最終局面は「ドットコム・バブル」と呼ばれる。
③ 現在の株高と企業業績の関係は?
その後に続く2003〜20007年には企業収益は3倍近くに拡大したのに、株価は2倍にもならなかった。投資家がドットコム・バブルの二の舞いとなるのを恐れて、慎重になっていたからだ。とはいえ、結果的には金融危機が発生し、企業収益と株価はまたもや暴落した。
では、現在の株高と企業業績の関係はどうなのか。どうやら、投資家は上げ相場が続く(少なくとも、ほかの投資家がそのように考えている)と信じ込んでいる。だからこそ、好業績に派手に反応し、株価を押し上げているのだ。
この自信がどこから来ているのかは、よくわからない。ただ、企業業績に対する健全な懐疑心を失ってしまった点に、その源があることだけは間違いなさそうだ。貿易戦争などトランプ大統領の突飛な行動は企業業績のリスク要因だが、少なくとも今のところ、業績見通しにこのようなリスクが十分に織り込まれているとは思えない。
そもそも下げ相場は、何らかの前触れや明確な理由があって訪れるとは限らない。不況にならなくても、弱気相場になることもある。今後の展開は確約できないが、現在の株高は企業業績に過剰反応してきた過去のパターンと一致するように見えてならない。
※ 知りたいのは、ただ一点! 長めのリポートを読んでいるのも、いつ下げ相場が
始まるかですが、それは相場の神様だけが知っているようです。(笑)