(ダウ・ジョーンズ)ブラジル、ロシア、インド、中国(BRICs)は、新興市場のジョン(・レノン)、ポール
(・マッカートニー)、ジョージ(・ハリスン)、リンゴ(・スター)だ。全く異なる個性がうまく合わさった
ビートルズのように、時として熱狂を引き起こす存在といえる。
これら4カ国がBRICsと命名されてから今年で11年が過ぎた。これは10年間というビートルズの活動期間を上回
るものだ。そしてビートルズと同じく、BRICsは途方もない成功を収め続けている。2002年の時点では、国際取引
所連合(WFE)に加盟する取引所の時価総額のうちBRICsが占める割合はわずか3%だったが、11年には20%まで拡
大した。
だが4カ国にとって、12年は素晴らしいとは言い難い年になった。インド以外の3カ国の市場はS&P500種指数に
連動して大幅安となり、景気減速懸念も浮上した。
BRICsを高成長国と考えるのは依然として有効だが、その成長は弧を描き始めている。00年から08年まで、BR
ICsの国内総生産(GDP)成長率は平均して年8%と、先進7カ国(G7)の平均値を約6ポイント上回っていた。
今年については、国際通貨基金(IMF)はBRICsの成長率が平均4.5%になり、G7との格差が3.1ポイントに縮小
すると予想している。BRICsは、その象徴的存在である中国を含む4カ国全てが大幅な成長減速に陥っており、来
年の成長率は5.5%と、悪くはないが大幅な鈍化が見込まれている。
08年まで、新興市場は平均して年20%~30%の輸出拡大による恩恵を受けていた。これは信用拡大による消費
ブームに沸いていた欧州と米国が、新興市場からの輸入品を吸い上げた結果、同地域への投資が加速したことに
起因する。
現在、ユーロ圏は長期的な債務危機の渦中にあり、米国はまだましな状態だが、失業率の高止まりや財政問題
をめぐる政治的対立に悩まされていることに変わりはない。UBSのストラテジスト、バーヌ・バウェジャ氏による
と、12年は新興市場の輸出の伸びが鈍化し、来年は5%~10%の伸びにとどまる公算が大きい。輸出の鈍化は、企
業が生産能力を早期に拡大する必要がなくなるという意味なので、やはり投資の減少につながるだろう。
このような事態は全てのBRICs諸国に打撃を与えるだろうが、特にブラジルとロシアは即座に大きな影響を受
けるとみられる。いずれも世界有数のコモディティ(商品)輸出国だからだ。
ロシアは難しい状況にある。汚職問題や人口減少は誰もが知るところだ。しかし、ロシア株式市場の予想株価
収益率は(PER)は6倍程度と、他のBRICs諸国の15倍~18倍(あるいはS&P500種指数の14倍)と比べると非常に割
安だ。
問題は、ロシア経済に最も大きな影響を与える2つの要因、すなわち原油価格とユーロ圏経済が13年の大きな
リスクになっていることだ。強気筋は、先ごろ導入された汚職撲滅計画のような国内政策が奏功すると考えてい
る。だが仮にそれが成功したとしても、ロシアが言うところの「成功」程度にとどまるなら、12年を通じて悪材
料だった資本逃避が短期的に加速する恐れもある。
一方、ブラジルはロシアよりもましな状況にあるようだ。ここ数年間は投資先として人気が高かったが、12年
の衰退ぶりは目に余るものがある。株式市場は6%安と、BRICs中で最悪の騰落率を記録した。
7-9月期のGDP成長率は0.6%と、予想の半分にとどまった。最大の問題は、公共・民間投資が対GDP比で約19%
に低下したことだ。ドイツ銀行によると、ブラジルが過去10年間の大半にわたって達成していた4.5%のプラス成
長を取り戻すには、公共・民間投資の比率を22%まで拡大する必要があるという。
ブラジル政府は複数の大型投資プロジェクトを実施する予定であり、これには国内港湾施設の増強計画などが
含まれている。だが当局による厳しい締め付けも取り組むべき課題の1つだろう。ブラジルは複雑な税制度や度重
なる規制強化が原因で、世界銀行がまとめた「ビジネスのしやすい国」指数では中南米諸国中で最下位に近い。
石油販売価格に上限を設けるという形で補助金を交付していることも、市場の効率性を低下させるばかりか、ペ
トロブラスなどの石油大手が投資を手控える原因となっている。
一方、インドと中国は商品価格下落による恩恵を受けるはずだ。特にインドは、依然7%を上回るインフレ率の
抑制策として、この支援材料を利用する可能性がある。厄介なことに、今年の国内総生産(GDP)成長率は金融危
機前の平均8%を大きく下回る4.9%にとどまる見通しだが、インフレは高止まりしている。
根強いインフレは、投資の低迷に起因するインフラ設備のボトルネック現象を反映している。財政赤字は200
9年以降、国内総生産(GDP)比5%~6%と高水準で、クラウディングアウト(財政支出の拡大が金利上昇につな
がり、民間投資を圧迫)が生じている。純粋な投資であれば、生産性の改善やインフレの抑制につながり、金融
政策に緩和余地を与えるかもしれないが、政府歳出の中でこれに相当するものはほとんどない。
さらに、インフレに伴う負担軽減を目的とした燃料などへの補助金支給は、おそらくインドにとって最大の資
源である多数の若年層に対する投資の減少につながる。UBSのバウェジャ氏は、政策変更がなければインドの人口
資源の活用は不確実になるとした上で、インドには「2つの選択肢がある。1つは若年層の雇用、もう1つは若年層
に対する補助金支給だ」と指摘した。
他のBRICs諸国とは異なり、中国が抱えている問題は低投資という負の遺産ではない。中国の投資はこれとは
真逆の状況にあり、2003年~07年にはGDP比の約42%にも達した。ロンバード・ストリート・リサーチのチャール
ズ・デュマス氏によると、これは、工業化がピークを迎えた当時の日本(1974年までの10年間)や韓国(97年ま
での10年間)の水準を上回る。中国政府は金融危機に対応するため景気刺激策を実施し、11年にはこの比率を48
%まで押し上げた。
その副作用が、特に欧米との貿易摩擦という形で現れている。これは賃金インフレや金融システムに潜む不良
債権に加えて、鉄鋼から太陽電池パネルに至る工業製品の設備過剰が背景にある。中国政府の第12次5カ年計画で
は、国内消費が経済成長に果たす役割の拡大が求められているため、同国の新指導部はこの問題を認識している
ようだ。
こうした計画は称賛に値するが、問題もはらんでいる。第一に、成長の負担をGDPの51%を占める投資および
純輸出から、経済全体の3分の1をわずかに上回る程度にすぎない個人消費に移行すると、必然的に全体の成長率
が低下する。社会不安の可能性を警戒する一党独裁体制の中国政府は、国営企業に建設資金を貸し付ける旧来の
モデルに回帰したくなり、資本収益率は大きく低下するだろう。
逆に言えば、中国政府が取り組みを続けると、この移行は順調に進む可能性は低く、確実に建設関連部門に打
撃を与えるだろう。中国政府の決意が揺らぎ、建設投資に傾くようなことが何度かあると考えても、特に銅や鉄
鉱石などの原材料相場の高騰はそれほど長続きしないように見受けられる。
過去の危機とは異なり、バランスシートが比較的健全なため、BRICs諸国は不安定な状況にはない。しかし、
BRICsに陰りがほとんど見られなかった10年間はかなり前に本当に終わった。各国は世界の変化に合わせて、自国
の改革問題に取り組まなければならない。そして、BRICs諸国間の政治・経済面の違いは、強気相場ではあいまい
としていたが今後は徐々に明確になり、BRICsという枠組み自体に疑問を投げかけるだろう。
ビートルズのファンが、ソロ活動に転じたメンバーを必ず応援してくれるわけではないのと同じように、BRI
Csを選好していた投資家がこの先何年もブラジル、ロシア、インド、中国といった個別国に投資してくれる保証
はない。
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