(ウォール・ストリート・ジャーナル)中国での企業監査の監督権をめぐり米国と中国両当局が対立している
ことを受けて、米電子機器受託製造(EMS)大手のサンミナSCI(Nasdaq:SANM)などの米多国籍企業もそのあおりを食
いそうだ。
カリフォルニア州サンノゼに拠点を置くサンミナは中国で大規模な事業を展開しており、大手国際会計事務所
KPMGの中国メンバーファームである卒馬威華振会計師事務所に監査を一部依頼している。卒馬威華振は、監査書類の提出を拒んだとして米証券取引委員会(SEC)が訴えた中国の会計事務所5社の1社。
SECが勝てば、5社は米国市場に上場する多数の中国企業の監査を行うことを禁じられる可能性がある。同時に、大規模な中国事業を持つ米アップル(Nasdaq:AAPL)や米無線通信技術大手クアルコム(Nasdaq:QCOM)、米日用品大手キンバリークラーク(NYSE:KMB)といった米多国籍企業にも影響を及ぼす恐れがある。米監査法人の中国メンバーファームはほとんどの場合、多国籍企業の監査に貢献しているが、監査が禁じられれば、これを続けることはできなくなる。完全な監査済み財務諸表がなければ、企業は米国市場で有価証券を売ったり、上場を維持したりすることができない。
かつてSECの執行部門に所属し、今はメリーランド州ポトマックのシャルマン・ロジャーズ・ガンダル・ポー
ディー・アンド・エカーに勤める弁護士、ジェイコブ・フレンケル氏は「中国企業だけでなく、米多国籍企業の
中国子会社にとっても影響は極めて大きい」と述べた。
サンミナはコメントを避けた。KPMGなどの会計事務所5社は、監査書類を渡せば中国の「国家秘密」法に基づ
き処罰される恐れがあるとして、SECと中国政府の間で問題を解決するよう要請している。
KPMGは声明で「当社は、協力と適切な情報共有を実現できる前向きな解決策が見いだされるとまだ期待してい
る」と述べた。
同じく中国メンバーファームがSECに訴えられているプライスウォーターハウス・クーパース(PwC)は、「当
社は、両国政府が合意せず、この問題を解決しなかった場合に想定される資本市場への影響を踏まえ、両政府が
何らかの方法を見つけてくれることを今も願っている」と語った。
ほかのアーンスト・アンド・ヤング(E&Y)、デロイト・トウシュ・トーマツ、BDOの3社はコメントを控えた
。SECの広報担当者からはコメントを得られなかった。
SECは今月、5社がSECの調査への協力を拒み米国法に違反したとして行政訴訟を起こした。SECの行政法判事は来年9月までにこの件の審理を行い、判決を下す予定だ。
行政法判事は5社をけん責処分にしたり、5社が新規顧客を獲得するのを一時的に禁じたりすることができる。
だが多くの観測筋が懸念している処分は「登録抹消」だ。これはSECの面前で営業し、米国上場企業の監査を行う
権利を剥奪するものだ。
登録抹消となった場合、これほどの規模は史上初となり、数百万ドルの報酬損失や混乱を招く可能性がある。
中国など世界各国にある5社のメンバーファームは法的に独立しており、中国メンバーには現地の法的義務があるため、各社の国際部門が簡単に乗り込んで、米当局に監査を禁じられた中国メンバーに取って代わることはでき
ない。
米政府の会計監査当局、公開会社会計監視委員会(PCAOB)のデータによると、中国メンバーファーム5社が現
在監査を担当している米国上場企業は計126社。うち中国の検索エンジン最大手、百度(Baidu.com)(Nasdaq:BIDU)はE&Yのメンバーファームである安永華明会計師事務所に監査を依頼している。百度の広報担当者、郭怡広氏は
「事態の推移を注意深く見守っている」と述べた。
卒馬威華振がPCAOBに提出した年次報告書によれば、サンミナの主要監査法人はKPMGの米国メンバーファームだが、卒馬威華振はサンミナの子会社1社の監査を行うなど2011年9月期決算の監査では「重大な役割」を果たし
た。
PCAOBの首席会計検査官、マーティン・バウマン氏によると、多国籍企業を担当する米監査法人は「大抵」、
別の国のメンバーファームを利用して、多国籍企業の中国など現地事業の監査を手助けするが、監査法人と顧客
は通常、こうした仕組みを明らかにしないという。これらのメンバーファームは、顧客の監査で「重要な役割」
を果たす場合はSECへの登録が義務付けられている。
大規模な中国事業を持ち、その監査に影響が出そうな多国籍企業にはアップルやクアルコムも含まれる。アッ
プルの12年9月期の中国売上高は228億ドルに達し、クアルコムは中国部門が売上高全体の42%を占めた。アップルはE&Y、クアルコムはPwCに監査を依頼している。両社ともコメントを拒否した。
キンバリークラークなどデロイトの多国籍企業顧客の一部は提出書類で、メンバーファームとデロイトの系列
事務所が自社の監査に参加していることを示唆しているが、中国メンバーファームが関与しているかどうかは明
らかにしていない。キンバリーは北京、南京、上海に製造施設を構えており、ウェブサイトでは「中国での長期
発展戦略を維持することに専念している」としている。同社はSECの訴訟に関するコメントを避けた。
想定される影響が合意をもたらす可能性があるとの見方もある。SEC執行部門の副責任者を務めていたシンプ
ソン・サッチャー・アンド・バートレットの弁護士、ピーター・ブレスナン氏は「資格剥奪の恐怖が中国当局を
再び交渉の席に着かせるかもしれない」と語った。
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