編集委員 清水功哉
2014/5/31 6:00
世界の金融市場関係者が注目する欧州中央銀行(ECB)理事会が6月5日に迫るなか、外国為替証拠金取引(FX)を手掛ける個人投資家(通称、ミセス・ワタナベ)のユーロ買いが膨張している。ECBはユーロ高防止・修正効果を狙った金融緩和を決めそうだが、個人はそれが「空振り」してユーロ相場がむしろ上がるシナリオに賭けているようだ。有力業者でのFX利用者のユーロ買い越し残高は過去1年間で最大の規模に拡大。もし「空振りシナリオ」の通りになれば大きなもうけを手にできそうだが、逆になれば損失を被る。果たして勝つのはECBかミセス・ワタナベか。
■キプロス金融危機後以来の水準に
筆者が定期的に集計している有力FX業者4社(取引額首位とされるGMOクリック証券や口座数首位とされる外為どっとコムのほか、セントラル短資FXとマネーパートナーズ)のデータを合計すると、FX投資家のユーロ買い越し残高(買いの持ち高から売りの持ち高を差し引いた値,週次ベース)は5月28日時点で約4億5000万ユーロ。2013年3月のキプロス金融危機によるユーロ相場下落を受け、「逆張り」的なユーロ買いが増えたとき以来の水準だ。ほんの1カ月前には、1億ユーロ以上の売り越し(買いの持ち高より売りの持ち高の方が多い状態)だったのだから、様変わりである。
ユーロ圏では物価上昇率の縮小傾向が続いており、それを問題視するドラギECB総裁はかねて、6月5日の理事会で追加緩和を検討する姿勢を示してきた。従って何らかの対応が決まる可能性が高く、それを見込んでユーロ相場もやや下落してきている。対円では1カ月前の1ユーロ=141円台が今は138円台だ。
つまり、追加緩和が一定程度相場に織り込まれてしまっており、ECBが市場を驚かす踏み込んだ決定をしない場合には、材料出尽くし感からむしろユーロが上がる可能性もある。いわゆる「噂で売って事実で買う」展開だ。ミセス・ワタナベが想定するのはこのシナリオとみられる。
現時点で多くの市場参加者が予想しているのは、利下げなどの比較的「伝統的」な政策の実施決定だ。経済の刺激に向けて銀行貸し出しを促す方策も決まるとする声もあるが、いずれにせよ市場が想定する範囲内の決定であれば、逆にユーロは買い戻されるかもしれない。そうなればミセス・ワタナベは利益を手にして勝利する。
■意外感あればユーロ売りも
もっと踏み込んだ政策としては国債はじめ様々な資産を買い入れる量的緩和があるが、すぐに導入されると見る向きは少ない。財政ファイナンス(財政赤字の穴埋め)になってしまうという批判がドイツで根強いし、ユーロ圏のどの国の債券を買うかの選別も簡単ではないからである。ECBがこの種の意外性のある対応を決めたり、いずれその方向に向かうことを示唆したりすれば、驚いた市場参加者がユーロをさらに売る可能性もある。
ドラギECB総裁は昨年11月にはサプライズ的な緩和を決めており、単純に市場の後手にまわるタイプではない。仮に6月5日の決定内容が予想外のものになりユーロが下洛するなら、ミセス・ワタナベの負けだ。仮にFXのロスカット(含み損が一定規模に達すると、自動的に反対売買をして損失を確定する機能)が次々と発動される展開になれば、ユーロ下落に拍車がかかりそうだ。