事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

日本の警察 その91「走狗」 伊東潤著 中央公論新社

2017-10-14 | 日本の警察

その90「パイルドライバー」はこちら

初代大警視、川路利良のお話。毀誉褒貶が激しい人物で、出身の鹿児島県ではいまも「西郷隆盛を暗殺しようとした男」として憎まれ、しかし警視庁警察学校には彼の銅像が建っている。

日本の警察をこの男がつくったのは事実で、警察官とはどんな存在であるべきかを記した彼の語録は、いまもなお警察官たちによって読み継がれているとか。

鹿児島県警がいまもなお日本の警察の中で特別な扱いをうけているのは、創設時に東京府に邏卒3000人を採用したうち

・千人は東京にいた旧薩摩藩士から西郷隆盛が選び

・千人は諸藩出身者から希望者を募り

・千人は川路が鹿児島に行って徴募

だったという背景がある。つまり2/3は鹿児島県出身者で固められていたのだ。これは維新に功労のあった薩摩藩士への優遇策であると同時に、警察を薩摩閥で占めるための西郷と大久保利通の布石だったと「走狗」で語られている。

その川路がモデルとした警察はフランスのジョゼフ・フーシェによる秘密警察。個人情報を握り、政治家との緊張関係を維持しながらコントロールしていく……なるほど、最初から公安志向だったんだね。川路はその手法で大久保とともに不平士族の乱をあおり、西郷を西南戦争に追いやる。

フーシェとロベスピエールの関係を川路と大久保に求めたのはよくわかる。でもあまりに図式的過ぎないだろうか。この小説からは彼らの人間性が毛ほども見えてこないのだ。わたしが好きな大久保利通もこれではまるっきりお人好しだし。

むしろ冷静に、エッセイのようなタッチで描いたほうが効果的だったのでは?あ、それだと司馬遼太郎の「翔ぶが如く」になっちゃうのか。あの長大な作品のオープニングが川路のエピソードなのは、なるほど明治を総括するのに、彼ほどぴったりな人物はいなかったってことか。

その92「潮騒のアニマ」につづく

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青山文平でいこうPART8 「かけおちる」 文春文庫

2017-10-14 | 本と雑誌


PART7「鬼はもとより」はこちら

現代の「駆け落ち」は男女の逃避行だけれど、この作品における「かけおち」は(逃避行はもちろん描かれるが)集団から脱落する、という意味合いだそうだ。有能な主人公は妻が駆け落ちしてしまい、妻敵討ち(めがたきうち)として間男と妻を斬る。それから幾星霜……

彼に欠けていたものはなにか、と懊悩させて、最後にひっくり返す芸は、ちょっとやりすぎかな(笑)とも思いますが、いやーおみごと。

PART9「遠縁の女」につづく

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