「Cosmo- Eggs| 宇宙の卵」 アーティゾン美術館

アーティゾン美術館
「第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館展示帰国展 Cosmo- Eggs| 宇宙の卵」 
2020/6/23~10/25



アーティゾン美術館で開催中の「第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館展示帰国展 Cosmo- Eggs| 宇宙の卵」を見てきました。

2019年にイタリアで開催された「第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展」の日本館を再現した展示が、東京・京橋のアーティゾン美術館にて公開されました。

それが今回の帰国展で、服部浩之をキュレーターに迎え、美術家の下道基行、作曲家の安野太郎、人類学者の石倉敏明、そして建築家の能作文徳の4名のアーティストが協働して制作した、「Cosmo- Eggs| 宇宙の卵」が展示されていました。



日本館の空間を設計したのは建築家の能作文徳で、アーティゾン美術館では現地の90%のサイズで再現されました。また実際の日本館の建築はコンクリート造であったものの、再現に際してはエントランスを段ボールで作り、展示室を木造の書割りとし、大理石の床をパネルにするなど、いくつかの異なる素材へ置き換えていました。

まず目を引くのが、部屋の中央に設置された円形のバルーンで、中には空気が満たされていました。そして腰掛けたり、手で触れることもできましたが、オレンジ色にもよるのか、救命ボートを連想させる面もありました。



バルーンを囲む4面のスクリーンには、下道基行の映像「津波石」が映されていて、上部には安野太郎による自動演奏の12本のリコーダーが吊るされ、空気の管がバルーンへと繋がっていました。また壁には、石倉敏明の創作神話「宇宙の卵」のテキストが直接彫り込まれていました。

いずれも全く異なる素材とアプローチによる作品でありながらも、映像も音楽ともに、互いに呼応し合うように展開しているように思えました。こうした異なる分野の協働こそ、今回の日本館の制作で重要なポイントなのかもしれません。



「Cosmo- Eggs| 宇宙の卵」の起点となったのは、下道基行の「津波石」でした。下道は2015年から大津波によって海底から陸上に運ばれた巨石である津波石を調査し、撮影し続けていて、2019年に初の映像作品として発表しました。



「津波石」は災害の痕跡でありながらも、地域の人々の信仰の対象になったり、鳥などの生き物の棲み家になるなど、自然や文化を行き来する独特の景観を築き上げました。確かに海を背にした石の存在感は圧倒的で、何らかのモニュメントのようにも見えました。



この「津波石」に音楽で答えたのが、安野太郎のリコーダーによる楽曲「COMPOSITION FOR COSMO-EGGS "Singing Bird Generator”」でした。ここで安野は下道と一緒に訪ねた宮古島のリュウキュウアカショウビンという鳥の鳴き声をモチーフとした曲を作曲していて、ソプラノ、アルト、テナー、バスの12本のリコーダーが、自動にてリズミカルな響きを奏でていました。



ちょうど頭上にてリコーダーが展開しているからか、確かに鳥が羽ばたきながら鳴いているような気にさせられるかもしれません。



一方で石倉敏明のテキスト「宇宙の卵」は、下道の撮影した津波石の点在する宮古列島から八重山諸島、それに台湾などをフィールドワークし、津波などの災害や創世にまつわる神話や民話に取材して制作したもので、3つの異なる部族が共存する物語を表しました。

神話を読みつつ、展示室内のバルーンに座っては「津波石」の映像を見やり、リコーダーの音に耳を傾けていると、さも石のある海岸へと誘われるような錯覚に囚われるかもしれません。一方で胎内空間を思わせて瞑想を誘うような、内省的とも呼べる空間が築かれてもいました。



会場では下道の「津波石」の調査ファイルや能作によるスタディ模型、また安野の楽曲のスコアなども併せて展示されていました。また「Cosmo- Eggs| 宇宙の卵」の制作プロセスを示したタイムラインの資料も興味深いかもしれません。



そもそも現地ヴェネツィア・ビエンナーレの日本館は、1956年にアーティゾン美術館を運営する石橋財団の創設者である石橋正二郎が建設し、寄贈して開館しました。それまでの日本は独自の建物を持っておらず、中央館の一区画を間借りして展示を行っていたそうです。



本展会場の5階の1つ下、4階の展示室では、日本館の開館した1956年の第28回のヴェネツィア・ビエンナーレの一部の出展作品と、今回の「Cosmo- Eggs| 宇宙の卵」の現地の光景などを捉えた映像も紹介されていました。そちらもお見逃しなきようにおすすめします。



同展は「ジャム・セッション 鴻池朋子 ちゅうがえり」と「石橋財団コレクション選 特集コーナー展示 新収蔵作品特別展示:パウル・クレー」と同時開催中の展覧会です。上記2展と共通のチケットで観覧することができます。


撮影も可能です。10月25日まで開催されています。

「第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館展示帰国展 Cosmo- Eggs| 宇宙の卵」 アーティゾン美術館@artizonmuseumJP
会期:2020年6月23日(火)~10月25日(日) *会期変更
休館:月曜日。(但し8月10日、9月21日は開館)。8月11日、9月23日。
時間:10:00~18:00
 *毎週金曜日の20時まで夜間開館は当面休止。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:【ウェブ予約チケット】一般1100円、大学・高校生無料(要予約)、中学生以下無料(予約不要)。
 *事前日時指定予約制。
 *ウェブ予約チケットが完売していない場合のみ当日チケット(1500円)も販売。
住所:中央区京橋1-7-2
交通:JR線東京駅八重洲中央口、東京メトロ銀座線京橋駅6番、7番出口、東京メトロ銀座線・東西線・都営浅草線日本橋駅B1出口よりそれぞれ徒歩約5分。
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