「モダン・アート,アメリカン」 国立新美術館

国立新美術館
「モダン・アート,アメリカン 珠玉のフィリップス・コレクション」
9/28-12/12



19世紀後半から1960年代後半までのアメリカ美術の流れを総覧します。国立新美術館で開催中の「モダン・アート,アメリカン」展へ行ってきました。

ヨーロッパの印象派絵画でも定評のあるフィリップス・コレクションですが、そうした名画とともに、アメリカ人美術家たちの絵画を積極的に蒐集して来たことも、同館のコレクションの重要なポイントとして知られてきました。


エドワード・ブルース「パワー」(1933年頃)

今回はそのアメリカ美術がテーマです。会場にはアメリカ人の手によって描かれた印象派絵画からモダニズム、そして抽象絵画などの全110点の作品が一同に介していました。

構成は以下の通りです。

第1章 ロマン主義とリアリズム
第2章 印象派
第3章 自然の力
第4章 自然と抽象
第5章 近代生活
第6章 都市
第7章 記憶とアイデンティティ
第8章 キュビズムの遺産
第9章 抽象表現主義への道
第10章 抽象表現主義


基本的にはアメリカ美術の系譜を時系列で辿っていますが、必ずしも全てそうでないのが興味深いところです。アメリカの自然や文化、そして生活、また時にヨーロッパ絵画の動向にも留意しながら多様な作品を紹介していました。


ウィンズロウ・ホーマー「救助に向かう」(1886年)

ロマン主義の時代にいきなりの優品が登場します。海辺を歩く三人の男女を描いたのが、ウィンズロウ・ホーマーの「救助に向かう」(1886年)です。

タイトルを読めば、確かに海の事故に対して救助に向かう人間の姿を捉えた作品に見えますが、どこか寒々しい砂浜と海、そしてそこに立ち向かおうとする男の背中などからは何とも言い難い哀愁を感じます。敢然と立ちはだかる大自然と、それに弱くもひたむきに向き合う人間が対比的に示されていました。


ジョージア・オキーフ「ランチョス教会、No.2、ニューメキシコ」(1929年)

人気のオキーフもそうしたアメリカの景色を描いています。ニューメキシコの教会を表した「ランチョス教会」(1929年)は一風変わった印象を与えるかもしれません。

単純化された建物のフォルムはおおよそ教会には見えませんが、そこへ差し込む強い陽射し乾いた空気などは画面上からもダイレクトに感じられるのではないでしょうか。

なおオキーフはこの作品の他に3点、あわせると計4点ほど出ていました。ちらし表紙の「葉のかたち」(1924年)も、オキーフの個性的な自然への眼差しが伺い知れる作品と言えるのかもしれません。


アーサー・G.ダヴ「赤い太陽」(1935年)

またオキーフと同時代の画家ではアーサー・G・ダヴが忘れられません。山裾へ夕日の沈む光景を捉えた「赤い太陽」(1935年)の輝きは眼に焼き付きはしないでしょうか。モニュメンタルにまで簡略化された太陽の迫力には思わず後ずさりしてしまうほどでした。


エドワード・ホッパー「日曜日」(1926年)

自然から一転、都市の光景を描いたのが大人気のホッパーです。とりわけどこかくたびれた都市の日常を示した「日曜日」(1926年)は忘れることが出来ません。

看板も文字もない一種、異様なまでの静けさに満ちた街の一角で腰をかける男は、どこか憂鬱な印象を与えはしないでしょうか。人で賑わう街の随所に潜む暗部、またはその中の孤独を見事に表現していました。


エドワード・ホッパー「都会に近づく」(1946年)

ちなみホッパーではもう1点、「都会に近づく」(1946年)も、そうした都市の中で取り残された場所を表した作品と言えるかもしれません。同じく人気のない空間にて、ぽっかりと口を開けた地下鉄のトンネルを見ていると、それこそ吸い込まれて二度と戻れない冥界への入口のようにも思えました。


ジョン・スローン「冬の6時」(1912年)

そうした静けさに満ちた都市とは異なり、都市本来の賑わいを表したのがジョン・スローンの「冬の6時」(1912年)ではないでしょうか。ニューヨーク3番街の夕方のラッシュアワーはまさに喧噪に溢れ、行き交う人々の声や駅のベルや鉄道の騒音までが聞こえてくるかのような臨場感をたたえています。

所々に点る明かりがまた効果的です。その灯火にひかれながら、おもわずパブで一杯引っ掛けてしまいたくなるような一枚でした。これは一推しです。


ジェイコブ・ローレンス「『大移動』シリーズ、パネル No.3」(1940-41年)

さてアメリカと言えばいわゆる開拓や移民の問題なども見過ごすことが出来ません。その関連として1940年頃、アメリカの南部から北部へと移りゆくアフリカ系アメリカ人労働者を表したのがジェイコブ・ローレンスの「大移動」(1940-41年)でした。

ローレンスは農村を離れ、北部の都市を目指して歩く人達の姿を、計60枚のパネルの連作にて表現しています。会場にはそのうちのごく一部が展示されていますが、テンペラという素材を使い、時に鉄道に乗る人々を、また時には私刑を受ける人達を描いた姿からは、彼らが背負った過酷な生き様がひしひしと伝わってきました。

こうした絵画を通し、アメリカ社会の持つ様々な問題点が見えてくるのも、この展覧会の一つの見どころでもありました。


ジャクソン・ポロック「コンポジション」(1938-41年頃)

ラストは抽象表現が登場します。定番のロスコにサム・フランシス、そして愛知県美術館でいよいよ一大回顧展のはじまるポロックなども出ていましたが、いずれもやや小粒な印象は否めません。

全体としてもそうした有名どころの大作をじっくり味わうというよりも、知られざる画家を見出していった方がより楽しめるような気がしました。


モダンアート展鑑賞ガイド

冊子形式の鑑賞ガイドがよく出来ています。作品への理解を深めてくれました。


サム・フランシス「ブルー」(1958年)

既に会期も半ばを過ぎていますが、それほど混雑はしていないようです。新美の大型展にしてはゆったりとした気持ちで見ることが出来ました。

12月12日まで開催です。派手さはありませんがおすすめします。

「モダン・アート,アメリカン 珠玉のフィリップス・コレクション」 国立新美術館
会期:9月28日(水)~12月12日(月)
休館:火曜日
時間:10:00~18:00 *毎週金曜日は夜20時まで開館
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
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