東近江の石塔寺を訪ねた。
道中雨に見舞われ、“見送りか”とも考えたが、仲間の1人の強い懇請で足を向けた。
寺に着いたときにはほぼ雨もあがっていた。
五木寛之の『百寺巡礼』に記された視覚的な文章のまま、
ずらり並んだ五輪塔や石仏群は、その形容どおり“石の海”だった。
住職の話では、五輪塔と石仏はざっと1万体に上るという。凄い迫力だ。
☆『百寺巡礼』五木 寛之
こういう寺はこれまで一度も見たことがなかった。
門前から158段の急階段をのぼりきる。すると、風景が一変する。
最初に視界に飛び込んできたのは、巨大な石の三重塔だ。
・・そのまわりを小さな石の五輪塔や石仏が、
境内を埋め尽くすようにとりまいている。
いったい全部でどれくらいの数なのだろうか。まるで“石の海”だ。
☆『かくれ里』白洲 正子
近江には古いものが、古いままの形で遺っており、それが私の興味をひく。
未だに多くの謎を含んだ歴史上の秘境、
それが近江の宿命であり、魅力ではないかと私は思っている。
・・石塔寺へ最初に行ったのは、ずいぶん前のことだが、
あの端正な白鳳の塔を見て、私ははじめて石の美しさを知った。
☆『寂聴古寺巡礼』瀬戸内寂聴
思わず声をあげた自分に気がつき、雨の降りかかるのも忘れて、
塔の方へ駆けよらずにいられなかった。