スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

再び問題発生 - リングハルス原発

2011-10-02 03:28:19 | スウェーデン・その他の環境政策
ヨーテボリの南方にあるリングハルス原発の4基の原子炉は、現在そのすべてが定期点検や火災にともなう停止のために運転が完全に止まっている。うち3基は10月初めまでに運転が再開される予定だったが、先月終わり、原子炉を監督する放射線安全庁4基すべての再稼動の禁止を命じた。

その理由は、スプリンクラーなどの冷却装置の内部で、溶接の残滓が見つかったからだという。しかも、この残滓は定期点検で発見されたものではなく、今年5月に発生した2号機の火災を受けて、内視鏡を使った綿密な検査を行っていたときに発見されたものらしい。過去の作業の記録をさかのぼると、スプリンクラー部分での溶接作業が行われたのは1980年代終わりから1990年代初めにかけてであり、残滓はおそらくその時から放置されていたようだ。

<過去の記事>
2011-05-12:定期検査中のスウェーデンの原子炉にて小規模の火災

残滓が見つかったのは2号機と4号機だが、定期点検のために停止している1号機と3号機にも念のために再稼動の禁止が発令された。放射線安全庁は、この原発を所有する電力会社に対して、新たな安全点検を行うとともに、どうしてこれまでの定期点検や安全装置の確認などで、この問題が発見されず20年近くも放置されたのかを調査するように命じた。それが発表されるまでは、再稼動の禁止が解除されることはない。

ただし、同様の安全点検はスウェーデンの他の二つの原発、フォッシュマルク原発オスカシュハムン原発にも命じられたが、こちらでは運転の停止が命じられることも、停止中の原子炉の再稼動が命じられることもなく、通常運転のかたわらでスプリンクラーの安全確認が行われるという。

スウェーデンは夏に電力需要が一番低く、暖房の必要性の高い冬に一番高くなる。だから、通常は定期点検が夏の間に行われる。この点検は秋にまで差し掛かることもあるため、現在でも国内10基の原発のうち6基(うちリングハルス原発が4基)が運転を停止しているが、放射線安全庁が今回発令した再稼動の禁止によって、リングハルス原発の運転再開はずれ込むことが予想されるため、電力需要の高い冬場にどれだけの原発が運転できるのかが不明確になってきた。

スウェーデンでは、今年初めの冬とその前の冬厳冬であった上、原子炉の多くが不調で停止を繰り返したため、需要曲線と供給曲線の双方が通常よりも大きく変動し、電力価格が高騰することになった。「この冬はそうならないように、原発をちゃんと動せるように精一杯努力する」と電力会社の代表者が意気込みを語っていた矢先の再稼動禁止となった。


原発への依存度が着実に減ってきているとはいえ、スウェーデンはまだ電力需要の4割弱を原発に頼っているから、需要が高まる冬場の原子炉の動向によって価格が大きく変動するという、非常に脆弱な電力供給システムとなっている。

「原発の調子が悪いのは古いからであって、それならば新しく建て替えればよい」という意見も国政政党の自由党を中心に根強いが、今から計画を立てたとしても完成までに少なくとも10年はかかるというから、今の問題を解決できるわけではない。また、経済的なリスクを恐れて、大手の電力会社は原子炉の新設(← 既存の更新という意味で)に尻込みしている。

だから、より現実的なのはバイオマス発電や風力発電などを着実に増やしていくとともに、省エネ・節電を総合的に行っていくことだ。そして、そのための条件をスウェーデンはきちんと整備しつつある。それについては、また別の機会に。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿