スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

Nordic Green Japan (その1)

2011-11-24 01:23:15 | スウェーデン・その他の環境政策
10月、11月と日本を2度往復しました。少々の長旅は大丈夫だと思っていたものの、時差が体にこたえ、しかも日本滞在中のネット環境が良くなかったため、ブログの更新が滞ってしまいました。さらに、日本滞在中にヨーテボリ大学の同僚に不幸がありました。いろいろな場で私のことを推してくれた人だったので非常に悲しかったと同時に、スウェーデンに戻ってみたら仕事がたくさんあり、また、先日はストックホルムを訪れた日本の元大臣のヒアリングの通訳もお引き受けしたため、今日まで全く更新できませんでした。

どこから始めようかと迷ったものの、まずは東京で11月7~8日に開催されたNordic Green Japanという北欧5カ国の在日大使館が主催した環境技術シンポジウムについて。私もスピーカーの一人として参加しました。以下はその時のメモ。

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環境技術といってもこのシンポジウムの焦点は、自然・再生可能エネルギーの技術や、それを支えるインフラ面での技術や制度設計だ。このシンポジウムの企画そのものは1年前から始められたというが、その後、東日本大震災とそれに続く原発の大惨事があったため、結果として、今後の日本のエネルギーをどうして行くかを考える上で、非常にタイムリーな企画となった。シンポジウムが意図するのは、環境技術(グリーンテク)の分野での日本と北欧諸国の企業や研究機関のビジネスや連携を促進することだ。

さて、通常は北欧というと4カ国を考えるが、今回は北欧5カ国の大使館による主催イベント。5つ目の国とはどこかというと、アイスランドだ。人口30万人の小国だが、自然・再生可能エネルギーという面では、地熱エネルギーの大々的な活用を忘れてはいけない。

ただし、やはりシンポジウムでの関連講演の数を見ると、他の4カ国と比べて存在感は薄い。そのため、バランスを少しでも保つためだろうか、開会の挨拶はアイスランドの駐日大使だった。「日本は原子力なしでは絶対にやっていけない、と専門家は言ってきた。しかし、原子力への依存を減らすための選択肢はたくさんある」と彼は始める。

(訂正:開会の挨拶がアイスランドの駐日大使だったのは、一番駐日大使として長いことが理由だったそうです。)

その上で彼は、北欧5カ国それぞれの自然・再生可能エネルギーへの積極的な取り組みを一つ一つ紹介していく。アイスランドは地熱エネルギーの活用、デンマークは風力エネルギー、フィンランドはバイオエネルギー技術、ノルウェーは水力と風力と太陽光の発電技術、そしてスウェーデンはバイオエネルギー、スマートシティー、そしてスマートグリッド。

しかし、興味深いことにスウェーデンにはまだ原発がたくさんあり、フィンランドに至っては原子炉を新たに建設中であることは、一言も触れない。彼に続いてウェルカムセッションの基調講演をした北欧からのスピーカーもその点には全く触れない。もちろん、このシンポジウムのテーマは自然エネルギーを中心とした環境技術なのだけど、原子力については全く素通りなので、傍からみているとそのテーマを敢えて避けているようで滑稽にも思えた。

しかし、休憩を挟んだ後半のウェルカムセッションで、スウェーデンの元エネルギー長官であるトーマス・コバリエル氏がズバッと一言、指摘してくれた。

「フィンランドは原子力発電所の増設を積極的に行っているが、彼らはその行動を通じて、原発の新規建設コストが実は非常に高いものであることを、非常に明確な形で私たちに示してくれた」

彼の英語のスピーチは皮肉たっぷりだったが、後で動画録画を確認したところ、同時通訳ではこのアイロニーがうまく訳しきれていない様子だった。


トーマス・コバリエル氏(元スウェーデン・エネルギー庁長官、現・孫正義の自然エネルギー財団の理事長)の基調講演の概要】(私のメモより)

○ 風力・太陽光・バイオマスといった自然エネルギーの積極的な普及と、つなぎとして天然ガスの活用

○ 日本における地熱エネルギーの大きな潜在性。エネルギー庁長官時代にアイスランドを訪れたとき、同国のエネルギー庁長官は「地震国・火山国に住んでいる短所を逆に生かして、そのエネルギーをうまく活用しているんだ」と説明してくれた。地震があると地下活動が活発になり、地熱の発電量が増えるから、発電者は「地震をむしろ楽しんでいる」と表現していた。

○ 風力発電の急速な伸び。中国は過去2年間を通して、1時間当たり1.5基の風力発電所(風車)を建設してきた。
スウェーデンは、1日あたり1基を建設してきた。しかし、小国なので建設数で見た競争で世界有数になることはない。ただし、スウェーデンの人口を中国の人口に換算してみると、1時間当たり5基に相当(コバリエル氏、小さくガッツポーズ!)
日本は、中国の人口に換算すれば2時間に1基


○ スウェーデンは経済的にみても効率的に自然エネルギーの普及を進めてきた。林業や農業の廃棄物や家庭ごみを有効活用し、それを用いて発電するだけでなく、熱の有効利用も行っている。同時に、これらの産業の競争力も高めてきた。バイオマスの活用度合いを人口比で見れば、おそらく世界一になるだろう。

フィンランドについても言及しておきたい。
フィンランドは原子力発電所の増設を積極的に行ってきたが、彼らはその行動を通じて、原発の新規建設コストが実は非常に高くつくものであるということを、非常に明確な形で私たちに示してくれた。

電力の送電線網を各国間で統合することによって、発電者間の競争を促し、発電コストを抑えることができるし、供給安定性を高めることも可能となる。
自然エネルギー(風力・バイオマス・水力)の供給量が増え続けていく中、様々なタイプの自然エネルギーを共有し、融通しあうことで導入可能量が大きく伸びる。送電線網で統合された各地域がそれぞれの特性を生かす。風が強い地域からは風力発電の電力、日照時間の長い地域からは太陽光発電の電力、林業廃棄物のある地域からはバイオマスによる電力、といった具合に。

(続きは次回に)

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4 コメント

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ご講演・ご協力ありがとうございました! (主催者)
2011-11-24 14:02:58
主催者の1人です、、このたびはご講演・ご協力ありがとうございました!

原子力の件確かに素通りでした。
スウェーデン・フィンランドの実状を考えると原子力に関しての話が少なすぎた(なかった)ことは不自然かもしれません。

おっしゃる通り自然エネルギーがテーマであったこと、
またエネルギー媒体の1つである「電力」に絞るのではなく、
エネルギーシステム全体で北欧が持っている強み、と言った際に原子力はその(強みの)1つに入らない、と言うことでもあるかと思います。

実はこの「電力」と「エネルギーシステム」との違いの点、個人的には会議全体を通じて少しジレンマを感じていました。
現在、日本の関心は電力の「グリーン化」の方が高いからか特に全体会合ではこちらに議論が集中しましたが、
上記の通り北欧の本当に強みは熱供給などエネルギーシステムであるのではないか、と言う点を。

また来年も開催することになりそうです。ご協力・支援いただけたら嬉しいです。

あ、開会の挨拶がアイスランドの駐日大使だったのは、
一番駐日大使として長い、から5国を代表してご挨拶させて頂きました。
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Unknown (よしこん)
2011-11-25 05:51:14
初めまして。いつもためになる内容をありがとうございます。
「ちいさくガッツポーズ」のところがおもしろかったので
ついコメントを残したくなりました。
どうぞお体にお気をつけて、今後のご活躍も楽しみにしています。
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Unknown (Yoshi)
2011-11-28 08:59:00
主催者の方から直接コメントを頂き、光栄です。(会場、もしくは以前お会いした方でしょうか?)

私が書いたのは批判ではなく、参加者・聴衆者としての率直的な感想です。でも、原子力が強みの一つとならない、という点はその通りだと思いました。その点については、コバリエル氏をはじめ、他の北欧参加者が共通して持っていた認識だと感じました(フィンランドがどうかは別として)。

私としては、このシンポジウムでは「電力」と「エネルギーシステム」のバランスがうまく取れていたと思いました。やはり、震災後の電力逼迫という現状を前に、エネルギーのなかでも特に電力に人々の関心が行くのは仕方がないと思います。もし、震災がなければ、エネルギー全般を包括するシステムについてもっと議論していたかもしれませんが。

来年も開催を予定されているとのこと。何らかの形でお力になれれば幸いです。今回は大使部を通じての依頼、ありがとうございました。
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Unknown (Yoshi)
2011-11-28 09:00:53
コメントありがとうございます。

>「ちいさくガッツポーズ」のところがおもしろかったので

一般的に、北欧からの参加者はプレゼンテーションが上手な人が多かったです。やはり、若いときからいろいろな場で訓練させられている結果だと思いました。
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