スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

これは凄い! 音楽番組「メロディー・フェスティヴァーレン」の手話通訳

2015-03-19 08:18:20 | スウェーデン・その他の社会
毎年、テレビで高い視聴率を獲得するスウェーデンの音楽祭典「メロディー・フェスティヴァーレン (Melodifestivalen)」。予選が4回、敗者復活戦が1回、そして、ストックホルムで開催される最後の決勝大会。この祭典は、ヨーロッパの音楽コンテストである「ユーロヴィジョン・ソング・コンテスト」のスウェーデン国内予選も兼ねているため、優勝者は5月に開催されるヨーロッパ大会(今年は前回の優勝国オーストリアが会場)にも参加する。最近では2013年にスウェーデンの歌手ロレーンLoreenがヨーロッパ大会で優勝したことが記憶に新しい。

そのスウェーデン国内大会「メロディー・フェスティヴァーレン」の決勝が先週末に行われ、男性歌手のモンス・セルメローヴ (Måns Zelmerlöw)が優勝。ヨーロッパ大会である「ユーロヴィジョン・ソング・コンテスト」にスウェーデン代表として出場することが決まった。しかし、今年は優勝者の彼だけでなく、決勝大会の手話通訳にも大きな注目が集まった。

そう、音楽番組の手話通訳である。とはいえ、曲の歌詞を淡々と通訳するのではない。曲の臨場感やテンポ、メッセージ性や喜怒哀楽を表情や体全体を用いて表現し、耳の聞こえない人にも番組を楽しんでもらう、という手話通訳なのである。だから、もはや単なる通訳ではなく、「アーティスト」もしくは「ダンサー」と呼んでも良いくらいである。



今年の優勝曲の手話通訳動画



この「メロディー・フェスティヴァーレン」の手話通訳のライブ映像は、実はこのブログでも2年前に取り上げたが、その時はまだ公共テレビSVTのウェブ上での放送だけだった。しかし、今年の決勝大会では、公共放送SVTのチャンネルの一つである「SVT24」でも放送された。その結果、より多くの人の目に止まることとなり、手話を必要としない人たちもこの芸術を楽んだのである。

【過去の記事】
2012-03-20: 初めて見た! ロック・ポップス音楽の手話通訳

ただ、音楽番組の手話通訳がスウェーデンで始まったのは、実は比較的最近のことである。しかも、偶然性の強いものだった。

「メロディー・フェスティヴァーレン」の2010年大会の予選(正確にはそれまでの予選で次点に選ばれた歌手のための敗者復活戦)がオーレブロー (Örebro)という街で開催された時のことだった。オーレブロー市は「ヨーロッパにおける手話言語の首都」を自称し、手話の普及に力を入れてきた自治体だったため、「メロディー・フェスティヴァーレン」の予選がこの街で開催されることが決まった時も、街独自のことを何かしよう、ということで、その予選大会を手話で同時通訳してライブ放送することになった。そして、その街に在住する男女二人の手話通訳がライブ放送を担当したのである。実は彼らは、歌詞を通訳するだけでなく、曲の雰囲気を体全体でアーティスティックに表現する手話通訳を、実験的に試していたパイオニアであり、本番でもそんな手話通訳をやってみたのであった。

この時は、大きくブレークすることはなかったが、公共放送SVTの担当者の目に止まり、その年の決勝大会でも手話の同時通訳をすることになった。しかし、人々の注目はほとんどなく、会場でも撮影の場所を確保してもらえなかったために、たまたま閉鎖されていたトイレを急遽、スタジオにして、ウェブ放送を発信したのだそうだ。(しかも、トイレが閉鎖されていた理由は、伝染性胃腸炎の人がそのトイレを使ったため、菌の拡散が心配されていたからだったという・・・)

その後、地道な努力が続けられ、2012年の「メロディー・フェスティヴァーレン」の決勝大会では、会場であるグローベン (Globen)に手話通訳ライブのための独自のスタジオを確保してもらえるようになった。しかもこの時の放送で、大きくブレークすることになった。あるロックバンドの曲を手話通訳した男性通訳者の体を張った通訳がすごい!と話題になり、Youtubeの画像がツイッターやフェイスブックで瞬く間に広まったのである(私もその時、フェイスブックで知った)。

その年に私が作成したメドレー(上記の【過去の記事】に添付)。話題になったのは1曲目、優勝曲は3曲目。私が個人的に気に入っているのは、3:40から始まる曲で幸せそうに手話通訳しているこの人の表情。5:55のところの演技も面白い。



耳の聞こえない人には、その曲がロックなのかバラードなのか、楽しい曲なのか悲しい曲なのかが分かりにくい。だから、音が伝えるメッセージを体を使って伝える。ただ、あまりに独創性を発揮しすぎると、手話そのものが伝わらなくなるから、そのバランスが重要だという。一般の人々にも手話に関心を持ってもらう良い機会となった、とこの手話通訳の男性はメディアの取材に答えている。

既にツイッターなどでは、「ヨーロッパ大会には、この手話通訳者をスウェーデン代表として送ったら良いと思う」というコメントまであるという。

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