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春あさく南方の傷うづく父 小野田健

2018年03月18日 | 俳句
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小野田健
春あさく南方の傷うづく父

第二次世界大戦が終わって73年の歳月が経とうとしている。春まだ浅き日本の日々は多少の寒さを肌に感じるがいたって平和裏に送られてゆく。南方戦線に展開した兵士の多くは死して帰らぬ者となった。生還した者の多くが心身ともに傷を負って帰った。父の傷が今寒さに疼いている。心の芯に響く疼きである。南方ジャングルに身を潜め人間である条件すらをかなぐり捨てて生き延びて来た。私の父は全滅部隊に属していたので戦死通達が届いていたが、ある日ひょっこり帰還してきた。多くを妻子に語らず左の脛に埋めた銃弾は死ぬまで処置をしなかった。:俳誌「はるもにあ」(2017年5月号)所載。