やんまの気まぐれ・一句拝借!

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はるかまで旅してゐたり昼寝覚:森澄雄​

2020年06月30日 | 俳句
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はるかまで旅してゐたり昼寝覚:森澄雄
随分遠くまで来てしまった。故郷を出でてあれから何年経ったろう。山深い里の暮らし、学生時代の都会の青春、人間関係に疲れていた会社勤め、ああしてこうして晩年は趣味の薔薇いじり。その時々に新しい自分を発見したりした。血の様に赤い夕陽が目に沁みる。と、ここで目が覚めた。みんな夢であった。梅雨が明けたら旅に出む。<日々の夢以下同文や昼寝覚:やの字>。:備忘録より。
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もてなしは山の水てふ夏館:黛まどか

2020年06月29日 | 俳句
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もてなしは山の水てふ夏館:黛まどか
暑い太陽の下人を訪ねた。まずはお水のお持てなし、何と山の滴る清水を汲んだ一杯である。都会のカルキ臭のある水道水に慣れてた舌や喉に染み通る美味しさである。こう言う水に接すると普段焼酎に汚された味覚が清められる気がする。避暑地に今は友人が居なくなった。愚妻などは上げ膳据え膳のホテルを憧れている。健康で歩ける内にもう一旅行してみたい。<カーテンに人影のあり夏館:やの字>。:俳誌「角川・俳句(2020年7月号)」所載。
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火蛾に寄る火蛾ありにけり信長忌:涼野海音

2020年06月28日 | 俳句
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火蛾に寄る火蛾ありにけり信長忌:涼野海音
山小屋の壁に火蛾が張り付いている。その火蛾に寄るもう一匹の火蛾がある。山小屋のランプの灯に様々な虫が集まって身を焦がす。ふと本能寺に焼かれた信長を思い浮かべる。信長忌は1582年(天正10年)の本能寺の変で自害した旧暦の6月2日である。身を焦がす程の情念を持った生き様があった。ただ凡々と戦う事の無いワタクシがキャンプファイアーの炎を眺めている。<火蛾落つる漆黒の闇ありにけり:やの字>。:俳誌「角川・俳句(2020年7月号)」所載。
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夏帽に亡き人の手の記憶あり:月野ぽぽな

2020年06月27日 | 俳句
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夏帽に亡き人の手の記憶あり:月野ぽぽな
使い込んだ夏の帽子が置いてある。帽子の主は今はもう居ない。亡き人の触れた手の記憶が残っている。そんな帽子を触れる度に彼の人の面影が甦る。この帽子と私の帽子が歩んだ長い行程があった。私がここに残されて彼の人はもう居ない。<青春は余生につづき夏帽子:やの字>。:俳誌「角川・俳句(2020年7月号)」所載。
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万緑を二軒で分けて狭暮らし:丹羽利一

2020年06月26日 | 俳句
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万緑を二軒で分けて狭暮らし:丹羽利一
辺り一面の緑。取分け狭の里には吹き渡る風も濃い緑である。少子高齢化社会に取り残されてたった二軒の村とはなった。ある者は都会へ出て行きある者はあの世へ旅立った。残された者は身動きできずにこの地に根ざしている。何処に居ようが住めば都でここより良い住家は無い。そう思って生きている。万緑を独り占めして仰ぎ見る。この世は全て我が物である。<万緑や今日の気分の酒選ぶ:やの字>。:朝日新聞「朝日俳壇(2020年6月21日)」所載。
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生涯にもつともくらし南風:筑紫磐水

2020年06月25日 | 俳句
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生涯にもつともくらし南風:筑紫磐水
外には南風、万物の命が活き活きと戦いでいる。そんな中に身を置いて我が生涯の何と昏い事だろう。きつと生涯で最も昏い時期なのだろう。人は時として自らを他と較べて嘆く。他人にはなれない事を知りつつも嘆く。そんな自分自身の中でも今が一番昏い時期だと思っている。自分だけが勝手に思っているだけなのに。<黒南風や挫折の我を貫けり:やの字>。:雄山閣「新版・俳句歳時記(2012年6月30日)」所載。
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少女来て少年さらふ木下闇:小島健

2020年06月24日 | 俳句
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少女来て少年さらふ木下闇:小島健
少女が少年を誘拐した、訳では無い。少女に誘われて少年が何処かへ行ってしまったのだろう。木下闇には仄暗い木漏れ日の下に残された者がいる。明るい未来に満ち溢れた少年少女たち。木下闇に残されたのは老人だとは考えたくない。青春は心の様と万年青年は考えるのである。<木下闇良くない事を考える:やの字>。:雄山閣「新版・俳句歳時記(2012年6月30日)」所載。
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立葵ひとりになればひとりの音:川崎雅子​

2020年06月23日 | 俳句
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立葵ひとりになればひとりの音:川崎雅子
道端に葵の花がすっくと立っている。この道を人を送って来た。何を話した訳では無いが途切れの無い会話が続いた。そして別れた今は一人の帰り道。風がさらさらと流れて行く。一人になって今まで気が付かなかった風の音が聞こえる。ひとりの音。聞こえて入るのに聞こえなかった音。足元に遅咲きの蒲公英がある。これもやっと目に入った。<呼ぶ声に振返えりせば立葵:やの字>。:俳誌「はるもにあ(2019年9月号日)」所載。
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羊蹄のつづくは土手の散歩道:浜風

2020年06月22日 | 俳句
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羊蹄のつづくは土手の散歩道:浜風
土手を歩くと羊蹄が続いている。植物なら道端に見られるタデ科の多年草。長い土手の道に続いている。ひょっとしたら本物のヒツジの蹄跡だろうか。いずれにしても何と牧歌的な風景だろう。コロナ自粛も解除されて何処か開放的な場所へ出かけたい気分になる。この暑くなりそうな夏の避暑に高原の風を浴びたら気持ち良いだろうな。都市近郊では舗装された道しかないが羊蹄が見られる土の道が恋しくもなる。川で鮒釣もして見たい。<疎開する幼き日々や羊鳴く:やの字>。:ネット俳句「つぶやく堂俳句喫茶店(2020年6月19日)」所載。
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せせらぎの昏るれば源氏蛍かな:内山しげき​

2020年06月21日 | 俳句
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せせらぎの昏るれば源氏蛍かな:内山しげき
せせらぎに沿っての夕涼み。暮れなずむ日もようやく暮れてきた。とぽつりぽつりと灯が点り舞い出した。蛍である。清流の蛍は源氏蛍でカワニナを食して成長する。因みに平家蛍は田んぼのタニシを食して成長する。野暮な解説はともかく「死のうかと囁かれしは蛍の夜:真砂女」蛍には恋が似合う。<あの頃の君の瞳や蛍狩り:やの字>。:俳誌「百鳥(2019年9月号)」所載。
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すずしさのいづこに座りても一人:藺草慶子

2020年06月20日 | 俳句
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すずしさのいづこに座りても一人:藺草慶子
昨日とは違って今日は涼しい一日で在る。何処に座っても涼しい。寛ろごうかと座ってみる。ふと「一人」である観念に襲われる。淋しいともさっぱりとも違う。寂寥に似た静けさを感じる。普段家族や社会の人間関係に囲まれていた自分があった。そうした中で取り繕っている自分とは別人を見つける。人間は所詮自分と言うたった一人の存在なのだ。何処へ座ろうとも。<気が付けば一人なりけり苔の花:やの字>。:角川書店「合本俳句歳時記(2019年3月28日)」所載。
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むかうから猫の覗きし水中花:岩淵喜代子

2020年06月19日 | 俳句
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むかうから猫の覗きし水中花:岩淵喜代子
コップほどのビンの中に人工の花が揺れている。猫が何だろうと覗き込む。何時か狙った金魚とも違うようだ。猫の興味が何に向けられたのか飼い主の眼がこちら側から覗く。そう言えば水に濡れる以前とは花の艶が活き活きとしている。程なく揺れも治まって、猫の眼がとろりとろける様に閉じられた。<紅ければいよいよ妖し水中花:やの字>。:俳人協会「自注現代俳句シリーズ:岩淵喜代子(2019年10月31日)」所載。
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ホームより梅酒作れと電話あり:かよ

2020年06月18日 | 俳句
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ホームより梅酒作れと電話あり:かよ
少子化高年齢社会も現実となった。一人っ子の私は家庭崩壊を防ぐため早期退職した。父と母を見届ける壮絶な生活も今は遠い話しである。昨今は多くの場合介護の施設で面倒を見て貰う。介護度数によって社会的負担もしてくれる。そうしたハードや制度があっても本質は生身の扱い方である。我が儘を言えるのは肉親を於いて他に無い。今日も「梅酒作れ」とのご要望。これを聴いてあげられるのも肉親の心をおいて他に無い。介護に疲れて介護者が倒れません様に願うのみである。孝行は親がある内にしか出来ない。<今年はブランデーにて梅酒漬く:やの字>。:ネット喫茶店「つぶやく堂(2020年6月16日)」所載。
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滝落ちて自在の水となりにけり:小林康治

2020年06月17日 | 俳句
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滝落ちて自在の水となりにけり:小林康治
流されて来た水が滝へとなって落とされてゆく。運命(さだめ)を感じさせる落下ではある。が、そのあとの奔放な流れに本来の性を見る事となる。「自由」の水。淵に淀み瀬に走り果てしなき旅路を行く。人は旅を夢見深山幽谷の霊気に憧れる。その滝の朗朗たる響きに神の姿を見ることすらあると言う。水は天地を巡り雨となって我を洗い賜う。<この滝の来し方行く末問はずをく:やの字>。:角川書店「合本俳句歳時記(2019年3月28日)」所載。
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夢の淵どよもしゐたる梅雨出水:藤本安騎生​

2020年06月16日 | 俳句
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夢の淵どよもしゐたる梅雨出水:藤本安騎生
夢の中で川音がろうろうと響いている。梅雨の水量が辺りにはみ出しながら流れてゆく。どよもす(響もす)とは声や音をひびかせること。天の運行を前に人間はただ立ちつくすのみ。梅雨が恵みの雨となる事もあり災害をもたらす事もある。この分では都会の水甕は安泰だろう。うるはしき大和の山々よ暴れません様に。雨音を枕に聞きつつ夢の世界へと陥ってゆく。<荒梅雨やてるてる坊主の泣きっ面:やの字>。:角川書店「合本俳句歳時記(2019年3月28日)」所載。
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