やんまの気まぐれ・一句拝借!

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ひぐらしの傾ぐたましひ哭きたる木:鳥居真理子

2020年08月31日 | 俳句
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ひぐらしの傾ぐたましひ哭きたる木:鳥居真理子
慟哭している様な蜩の声である。まるで魂が震えて哭いているやに聞こえる。縋り付いたその樹木全体で鳴いているのかも知れぬ。魂って何だろう。「心身共に」健康とは言うものの魂となると朦朧としてくる。<たましいの暗がり峠雪ならむ:橋閒石>。一寸の虫にも五分の魂がある。蜩の魂が慟哭している。<蜩を聴いて一日を過ごしけり:やの字>:俳誌「角川・俳句」(2020年9月号)所載。
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走馬灯オンザロックの中廻る:永瀨十悟

2020年08月30日 | 俳句
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走馬灯オンザロックの中廻る:永瀨十悟
走馬灯が廻っている。オンザロックのグラスに映って廻っている。とかくこの時期には亡き人の顔が思い浮かぶ。一つ一つの顔にそれぞれの人格と笑顔が浮かぶ。走馬灯が廻る。オンザロックの氷が廻る。頭の中で面影が廻る。<走馬灯誰そすすり鳴く窓の闇:やの字>:俳誌「角川・俳句」(2020年9月号)所載。
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犬小屋に傾ぐコスモス日は落ちぬ:武石静子

2020年08月29日 | 俳句
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犬小屋に傾ぐコスモス日は落ちぬ:武石静子
コスモスが犬小屋に傾く頃日が落ちてゆく。清楚なコスモスが血の様に赤い夕陽に染まる。いっとき近隣の河川敷にコスモスの群落があったが今では巨大物流センターに取って代わられた。残された螢の田んぼの行く末が心配だ。風もようよう秋の風となった。犬小屋のワンちゃんもこれからは熟睡出来るだろう。<土手一本風に戦ぎて秋桜:やの字>:俳誌「春燈」(2020年9月号)所載。
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薄紅葉悟りの窓のただ円く:山本あかね

2020年08月28日 | 俳句
361
薄紅葉悟りの窓のただ円く:山本あかね
寺社の丸窓だろうか。薄っすらと紅らんだ葉がみえる。この句の隣りに<秋蚊博つ迷ひの窓は真四角に>とある。悟りの円と迷いの四角。悟りの境地から見える風景は円満な風景であろう。古川柳に<丸い世を四角に生きる無骨者>と言うのがある。小生も丸くなったねと言われるがこれは只の老化現象で物事が面倒くさくなっただけ。それも良いでは無いか凡人は凡人らくしているのが楽ちんである。<鳥声の澄み渡りけり薄紅葉:やの字>:百鳥京都句会「春の気球」(2020年8月1日)所載。
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新型コロナウイルスには彼岸花が似合ふ:七田谷まりうす

2020年08月27日 | 俳句
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新型コロナウイルスには彼岸花が似合ふ:七田谷まりうす
何故か新型コロナウイルスには彼岸花が似合う、とふと思う。このウイルスに人々は死へ誘はれている妄想を抱く。持病の或る高齢者は特にそうだ。彼岸花には別の名が多々ある。曼珠沙華は楽しいが死人花では恐くなる。人は何時かは死ぬ。それがどんな形で来るのか分らない。分らないから生きてゆける。<西へ行く我が花道に曼珠沙華:やの字>:角川「俳句」(2020年9月号)所載。
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秋さびし九官鳥も今日無口:玉田憲子

2020年08月26日 | 俳句
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秋さびし九官鳥も今日無口:玉田憲子
秋は淋しい季節である。日暮れになれば♪知らず知らずに涙が出るのよ♪と言う唄が無っかたかしら。人真似をする九官鳥も今日は無口である。飼い主もあまり話し掛けないのだろう。人には誰も話したく無い一日がある。<秋さびし老いの涙目独り言:やの字>:俳誌「はるもにあ」(2019年11月号)所載。
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田仕舞の煙ひと筋夕鴉:佐俣まさを

2020年08月25日 | 俳句
358
田仕舞の煙ひと筋夕鴉:佐俣まさを
収獲を終えて秋の農事も今日で仕舞いとなる。作業の最後に散逸して藁屑を燃やして一切が終わる。腰を伸ばして。遠く眺めやれば煙がひと筋立ち上っている。我が関東平野に遠く筑波を眺めつつ一筋の煙を眺めやれば秋の深まりが感じられ感慨深い。そんな人様の一部始終を高みの見物をしていたのが鴉くん。今年も事無く農事が過ぎた。西空が真っ赤に焼けてきた。<耕運機納屋にどつかと秋収め:やの字>:俳誌「春燈」(2019年12月号)所載。
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蜩の声や木陰に乳母車:増山節子

2020年08月24日 | 俳句
357
蜩の声や木陰に乳母車:増山節子
カナカナカナと蜩の声が聞こえる。空気が澄んで風はすっかり秋のものである。だが残暑がうっすらと残ってもいる。今木陰に乳母車が止められている。母の子守唄に赤児の寝息も聞こえそうな一時である。戦争の顔も遠くなった。今と言う時間日本と言う空間の平和である。<蜩や人哀しむに目をつむる:やの字>:俳誌「百鳥」(2019年11月号)所載。
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ジョギングのゼッケン清し初紅葉:近藤雅恵

2020年08月23日 | 俳句
356
ジョギングのゼッケン清し初紅葉:近藤雅恵
早朝散歩をしているとジョギングの団体とすれ違った。紅葉にうっすらと照らされていてみな健康美を誇っている。胸のゼッケンが清らかにひかっている。それに引き換え我が早朝散歩は昨夜の深酒を覚ますためだけのもの。そう言えば公園の桜紅葉が色付いた。一念発起公園を五周でもしてみるか。お隣の未亡人の散歩タイムは何時からたろうか。<休肝日故の散歩や初紅葉:やの字>:雄山閣「新版・俳句歳時記」(2012年6月30日)所載。
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鯊釣りの水に光のあるばかり:有角正巳

2020年08月22日 | 俳句
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鯊釣りの水に光のあるばかり:有角正巳
鯊釣の人の目に水の光が眩しい。潮の加減もあるが釣れ盛る時とぱたっと釣れなくなる時間帯がある。上げ潮は釣れ引き潮は釣れない。それでもボートを出した釣り人は飽きる事なく時を待っている。そんな水面の眩しい光の中を釣り人は堪えて待つ。一度江戸前鯊釣の会の船に便乗した事があった。釣れ頭は10束(1000匹)を越えていたが小生は15匹であった。何をやっても不器用で未熟なままの小生である。<皆に釣れ我に釣れぬ日鯊恨む:やの字>:雄山閣「新版・俳句歳時記」(2012年6月30日)所載。
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辞書入れて残暑の重さ革鞄:山田真砂年

2020年08月21日 | 俳句
354
辞書入れて残暑の重さ革鞄:山田真砂年
残暑が厳しいが出掛ける用が出来た。辞書を革鞄に入れたのはよいがこの重さ。暑さ重さが身に堪える。途中の水分補給に注意しながらも軽い熱中症は避けられない。それにしても表で働いている方々のご苦労が偲ばれる。今日も宅配便があったが汗だくの宅配業者に頭が下がる。辞書や革鞄の重さなんぞはどうってことないか。人生は重荷を負うて坂を上る如し。<残暑かな途中で帰る万歩計:やの字>:角川「合本俳句歳時記」(2019年3月28日)所載。
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木道のひとり分の音秋高し:ひであき

2020年08月20日 | 俳句
353
木道のひとり分の音秋高し:ひであき
高原を歩いている。湿原に入ると環境保護などの為に木道が敷かれている。さっきから響いているのは自分の足音である。一人ここまでやって来た。不意に襲う淋しさは孤愁と言うものか。自分と言う魂を肉体に宿らせて歩く。肉体の重力が木道を響かせている。魂だけが天高く舞ながら漂って行く。<無で良しと悟れば軽し秋の空:やの字>:ネット喫茶店「つぶやく堂」(2020年8月17日)所載。
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遅れ来て忙しく使ふ秋扇:的場秀恭

2020年08月19日 | 俳句
352
遅れ来て忙しく使ふ秋扇:的場秀恭
何かの会合に一人が遅れてやって来た。座るやいなや忙しく扇子を扇ぎだした。この残暑、年々厳しくなって来た気がする。座の視線を浴びて短く遅刻の事情を語る。気のせいか部屋の熱気が高まった。小生も落ちこぼれ人生で遅刻や挫折が多かった。そんなこんなの挙げ句に余生はぼーっとのんびり暮らしている。<ややこしき話となりぬ秋扇:やの字>:俳誌「角川・俳句」(2020年8月号)所載。
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秋螢がつてんしょうちとも行かず:加藤哲也

2020年08月18日 | 俳句
351
秋螢がつてんしょうちとも行かず:加藤哲也
夏が過ぎ風薊♪そんな唄を聞いた気がする。今はもう秋♪と言う唄もあったか。今年の夏も過ぎ去った。そうは言ってもこの暑さ。「合点承知!」とは行かない。宵闇にはまだまだ螢が舞って、遠く銀河の薄明かりに呼応している。我が終活に於いても心残りばかりで合点承知とは行かないのである。<秋螢哀れ名残の灯を点す:やの字>:俳誌「角川・俳句」(2020年8月号)所載。
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門火焚き終へたる闇にまだ立てる:星野立子

2020年08月17日 | 俳句
350
門火焚き終へたる闇にまだ立てる:星野立子
暫くお迎えしていたご先祖様の御魂を今宵お帰しした。炊き上げた門火が消えれば辺りはすっかり暗くなっている。それでもまだ呆然と立っているのは様々な面影が燻っているからだ。あれやこれやと名残を惜しみつつこの盆も暮れてゆく。<どの顔も煙の中や門火焚く:やの字>:角川「合本・俳句歳時記」(2019年3月28日)所載。
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