やんまの気まぐれ・一句拝借!

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金の入日沼に沈めて春待たむ:角川源義

2021年01月31日 | 俳句
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金の入日沼に沈めて春待たむ:角川源義
入り日が沼に反射する。金色の輝きは鋭くもどこか春の気を感じさせる。寒く冷たい冬の終わりに明日来る春を思わせる光芒である。まほろばの大和に四季は巡り諸々の挫折すらご破算にして新生させる。落ちて行くのに燃えているのは太陽のみではない。二月に成れば節分・立春が直ぐにやって来る。<春待つや古き鞄に金平糖:やの字>角川書店「合本・俳句歳時記」1990年12月15日所載。
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許すとは許さるること日脚伸ぶ:山本あかね

2021年01月30日 | 俳句
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許すとは許さるること日脚伸ぶ:山本あかね
今日相手を許した。そんな眼差しに相手の眼からも怒りの光が消え去った。「熱燗や性相反し相許す:景山筍吉」とは吾が師匠の名言である。話は逸れるが私は妹を早く亡くして一人っ子の様なものであった。そのため兄弟喧嘩の経験が無いので生涯喧嘩には弱かった。そんな負け犬根性なので「許す・許される」感覚は持てなかった。ただ何をやっても母親からは許されて来た気がする。<生き延びて来た万歩計日脚伸ぶ:やの字>山本あかね句集「緋の目高」2018年11月27日所載。
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マフラーを巻いて強きなことを言ふ:井上弘美

2021年01月29日 | 俳句
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マフラーを巻いて強きなことを言ふ:井上弘美
寒さが心細さを募らせている。会話のやりとりがあってついつい強気な言葉を吐いた。首に巻いたマフラーが心の熱血を滾らせたのかも知れぬ。生存競争の激しいこの世の中では時に打ちのめされることもある。心細さに何かに縋りつきたいのだが恩師も父母も今では遠い人である。頼れる者は首に巻いたマフラー一本だけである。これが私の背中をとんと押す。「私にお任せなさい!」言った以上はもう引き下がれない。ま、いいでは無いか。結果は神のみぞ知るである。
<老人会手芸教室毛糸編む:やの字>現代俳句文庫「井上弘美句集」2012年1月3日所載。
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冬の堂慶派の鑿(のみ)の音響き:中島やさか

2021年01月28日 | 俳句
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冬の堂慶派の鑿(のみ)の音響き:中島やさか
門も伽藍も立派な古刹に金剛力士が凜として立っている。運慶快慶ら慶派の手に成ると言う。その迫力に圧倒されつつ像を彫っている姿に思いを巡らせる。正に鑿(のみ)の音が響いてきそうだ。これで無くては邪悪な存在は打倒できまい。この気迫が時を経た今に響いてくる。<温もれる小さき冬のつぶやく堂:やの字>読売新聞「読売俳壇」2011年1月18日所載。
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足許は宙のはじまり冬夕焼:山内健治

2021年01月27日 | 俳句
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足許は宙のはじまり冬夕焼:山内健治
足許に薄暗がり。西の空には冬の夕焼け。觔斗雲(きんとうん)が燃えながら飛んで行く。昼から夜への曲がり角。やがて直ぐ果てしない星々の宇宙が展開されるだろう。足許に自分の居場所を確かめる。そしてこの一時のアリバイ。我ここに今在り。<燃えながら落ちゆくものに冬夕焼:やの字>読売新聞「読売俳壇」2011年1月18日所載。
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みごとなるすってんころりんそぞろ寒:高根沢富代

2021年01月26日 | 俳句
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みごとなるすってんころりんそぞろ寒:高根沢富代
見事に尻餅をついてしまった。情けないやら恥ずかしいやら。辺りを見回したが幸い人影はなかった。とは言うものの心がそぞろ寒い。寒暖を繰り返す日々が続き路面の凍結が多くなった。老人の骨折は治りが遅いと言う。一歩一歩注意しながら歩こう。父の形見の杖もある。<忘れ物取りに帰るやそぞろ寒:やの字>読売新聞「読売俳壇」2011年1月18日所載。
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うとうとの中に句のあり日向ぼこ:菊地清人

2021年01月25日 | 俳句
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うとうとの中に句のあり日向ぼこ:菊地清人
気持ちの良い日向にいるとついついうとうととしてしまう。そんな中でも頭に俳句を漂わせている。これが自分にとっての至極の時間である。思えば今の日本は戦争に遠く身を置いて経済もほどほどのレベルに達している。幸せって何時?「今でしょう!」。さて今日はどんな一句を得られるのか。<余生なる命の限り日向ぼこ:やの字>朝日新聞「朝日俳壇」2011年1月17日所載。
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幾万が身を占ふや冬の星:朝広三猫子

2021年01月24日 | 俳句
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幾万が身を占ふや冬の星:朝広三猫子
人はそれぞれの星の下に生まれたと言う。幾万という星が瞬いている路上に星占師が座している。名前と生年月日を聴くとじっと客の瞳を覗き込む。「いやいやお客さん、数奇な星の下に生まれましたなあ。世が世であれば天下をとっている運命でしたのに。でも今はおとなしく誠実になさっていれば誰にも襲われず安泰にくらせます。鬼門は北、北斗に手を合わせましょう。」と言わば人生相談に乗ってくれる。人間の数だけ悩みがあり無限の星が悩みを引き受ける。<我が妹は我に瞬き冬の星:やの字>朝日新聞「朝日俳壇」2011年1月17日所載。
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やすませてもらふ切株冬あたたか:亀井よろこぶ

2021年01月23日 | 俳句
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やすませてもらふ切株冬あたたか:亀井よろこぶ
散策の途中切株を見つけた。これ幸いと休ませて貰う事とした。切株に座るなんて久しぶりである。身も心も暖かくなった。木には人を受け入れる温もりがある。学校も職場も都会にあった。コンクリートとアソファルト、硝子張りの建物に暮らした。人間の視線も冷たく感じる都会。これからは隈研吾さんに木を取り戻して貰おう。<君が居て一病息災冬あたたか:やの字>朝日新聞「朝日俳壇」2011年1月17日所載。
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日暮里や線路の束へぼたん雪:斎藤悦子

2021年01月22日 | 俳句
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日暮里や線路の束へぼたん雪:斎藤悦子
日暮里は東京の山手線にある駅名である。「にっぽり」と読む。上野駅が近く線路が込み入っている。近くに跨線橋があってその上から複雑多岐な状況がみてとれる。そんな風景の中へぼたん雪が舞い降りる。どこかアナログとデジタルの異質の交錯を感じさせる。別離と出会いの縁が川の様な線路をとうとうと流れて行く。今日は人の世がひどく寒い。<東京に仄かなる雪しずしずと:やの字>斎藤悦子編「かんちゃんと俳句の仲間たち」2010年2月24日所載。
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うたはねば冬のヒバリはさびしき鳥:筑紫磐井

2021年01月21日 | 俳句
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うたはねば冬のヒバリはさびしき鳥:筑紫磐井
鳥影が見えた気がして眩しい空を見上げる。高みにある影は雲雀とみた。黙々と上がり沈黙のまま地に落ちた。淋しい。俺は淋しい。雲雀よ高らかに唄え。思いやればこの淋しさも家を成し子を為して人生のどさくさに埋没してゆく我が人生の淋しさか。淋しき青春、それも又よかろう。人生多情多感であった。<天辺に届かぬ定め冬雲雀:やの字>筑紫磐井句集「我が時代」2014年3月31日所載。
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頃合も良し鰭酒の蓋をとる:篠崎義昭

2021年01月20日 | 俳句
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頃合も良し鰭酒の蓋をとる:篠崎義昭
いやご同輩、頃合いもよろしいようで。蓋を開ければ河豚鰭の香りがどっと鼻を突く。じっと温まるのを待った甲斐がある。代々飲み助の家系、夏冬も無く何かにつけて飲んでいる~冷奴酒系正しく亮け継げり:穴井太~。こん夜はとことん酔いそうだ。<鰭酒の匂いに酔うて痺れけり:やの字>読売新聞「読売俳壇」2021年1月11日所載。
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一面の霜一条の朝茜:片山知之

2021年01月19日 | 俳句
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一面の霜一条の朝茜:片山知之
大地一面の霜。そこへ一条の赤い朝日が射し込んだ。昨今の凍り付く様な寒さではある。しかし射し込んだ一条の光には明日への希望が宿っている。~もうすぐ春ですね~♪ちょっと気取ってみませんか~♪。東には茜色の空がある。人々はそれぞれの営みを開始する。<悪童の飛んで跳ねたり霜柱:やの字>読売新聞「読売俳壇」2021年1月11日所載。
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落葉焚火掻き棒くべ終りとす:石田わたる

2021年01月18日 | 俳句
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落葉焚火掻き棒くべ終りとす:石田わたる
積もる落葉を今日は燃やして地の肥やしにする。炎を見ているとどこか心の中まで熱くなる。通りすがりの人が加わり盛り上がってやがて果てる。終りは火を掻いた棒をくべればOK。勿論バケツの水もぶっかける。最後に焚火にあたったのは何時の事だったか。想い出の残滓だけが残っている。<落葉焚く炎に燃ゆる胸の奥:やの字>朝日新聞「朝日俳壇」2021年1月10日所載。
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歩かぬと寒いよ白の落椿:池田澄子

2021年01月16日 | 俳句
502
歩かぬと寒いよ白の落椿:池田澄子
昨今の寒さは身に堪える。歩いて身体を動かしていないと凍ってしまいそうだ。こつこつと歩く足元には白の落ち椿。目に鮮やかに輝いた。人と言う動物は動く様に創られいる。それなのに日向ぼこなどで横着を決め込んでいる自分が恥ずかしい。いざや歩かむ。何か拾うかも知れぬ。<陽は射せど心は寒し万歩計:やの字>現代俳句文庫「池田澄子句集」1995年6月1日所載。
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