やんまの気まぐれ・一句拝借!

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馬追や闇の深さを計るごと:星野高士

2020年09月30日 | 俳句
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馬追や闇の深さを計るごと:星野高士
漆黒の闇の中を馬追が鳴いている。この声は闇の何処まで届いているのだろう。闇の深さを計るが如く鳴いている。~あれ 松虫が鳴いている♩ちんちろちんちろ ちんちろりん♩~秋の夜長を 鳴き通す♩ああ おもしろい虫のこえ~秋の夜の漆黒は虫の世界である。<スイッチョの鳴いて闇夜の澄みわたる:やの字>:星野高士句集「無尽蔵」2006年3月3日所載。
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駅員に一人の時間秋の草:涼野海音

2020年09月29日 | 俳句
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駅員に一人の時間秋の草:涼野海音
草深いローカル線の駅舎が目に浮かぶ。日に何本かの汽車が通過して何人かの乗降りがあってまた一人の時間が戻って来た。やがて終電が終わり一日の精算事務を終えると宿直の時間となる。交代要員は明日の一番電車でやってくる。一人とは自由でもあり心底淋しい時間である。今宵も星が瞬いて銀河がぼうと流れている。<我が憂さを慰めくれよ秋の草:やの字>:俳誌「角川・俳句」:2020年10月号日所載。
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顔すこしつめたき昼の草雲雀:岩淵喜代子

2020年09月28日 | 俳句
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顔すこしつめたき昼の草雲雀:岩淵喜代子
自分の顔に少し冷たさを感じている。気温が低いせいか虫がリーリリリと鳴いている。小鈴を振わせる様な鳴声は草雲雀であろう。空の裏側には昼の月も浮いている。そう言えば物事を神経質に捕らえてしまう達なので、問題が深刻な時にはついつい恐い顔となってしまう自分がある。鏡の中の自分を眺めれば何の解決策を持たない冷酷な顔が映っている。リーリーリーと分ってくれるのは草雲雀だけのようだ。<哀愁に耐えられずして草雲雀:やの字>:句集「岩淵喜代集」:2018年10月31日所載。
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秋めいて空カンひとつ2つ3つ:如月はつか

2020年09月27日 | 俳句
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秋めいて空カンひとつ2つ3つ:如月はつか
気温もぐっと下がって大分秋めいてきた。そぞろ歩けば空き缶が転がっている。ひとつ2つ3つと数えた時に詩が生まれる。この空き缶、ゴミのぽい捨てではない。まさしくこれは子供達の遊具である。缶蹴り遊びや砂場のスコップ代りに使うあれである。路地裏の土の道、昭和への郷愁が湧き出した。ひとつ2つ3つ。<秋めくやそぞろに歩く万歩計:やの字>:如月はつか句集「雪降る予感」:1993年2月20日所載。
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真っ先に父がふはふは花野ゆく:前田倫子

2020年09月26日 | 俳句
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真っ先に父がふはふは花野ゆく:前田倫子
父と訪れた花野である。ウアッ綺麗と思った瞬間、父が真っ先に飛び込んで行った。それっと追いかけようとする父の後ろ姿はふはふはと飛ぶが如く舞うが如く漂っている。父が居て家族が揃って私が居る。夢の様な現実の一時が流れてゆく。<振り向かぬ父の背があり大花野:やの字>:前田倫子句集「翡翠」:2008年11月11日所載。
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謎々のやうに無花果食べ了へぬ:石井薔薇子

2020年09月25日 | 俳句
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謎々のやうに無花果食べ了へぬ:石井薔薇子
めったに食べたことの無い無花果を噛んでいる。む、これは何。初めての味である。例えようも無いこの味は謎々の様に問いかけてくる。カルピスは初恋の味、初鰹は旬の味、山菜は舌にほろ苦い味。やっと食べ終えたが評する言葉は見つからない。良いでは無いか何事にも答があっては詰まらない。<無花果をがばと噛みしは異人館:やの字>:石井薔薇子句集「夏の谿」:2012年9月20日所載。
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秋刀魚焼く煙の中の割烹着:鈴木真砂女

2020年09月24日 | 俳句
388
秋刀魚焼く煙の中の割烹着:鈴木真砂女
秋刀魚焼く煙が目に美味しい。割烹着が似合う女が煙の中に佇んでいる。現実の生活が煙の中に夢想をくゆらせる。恋多き日の様々な事が甦る。ひとを泣かせて自分も泣いた。これもあれも煙の中である。ところで今年は秋刀魚が高値だそうで我が家の食卓には乗りそうも無い。<水引の花や真砂女の割烹着:やの字>:鈴木真砂女句集「紫木蓮」:1999年7月2日所載。
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少年の夢老ひにけり鰯雲:皇竹

2020年09月23日 | 俳句
387
少年の夢老ひにけり鰯雲:皇竹
夢多かりし少年も気が付けばいまやお爺ちゃんと言われる年となった。空には若き日に見たおなし鰯雲が浮いている。空を仰ぎて青春の気概を取り戻さんと自分自身に叱咤激励する。曰く<青春とは心の若さである・信念と希望にあふれ・勇気にみちて日に新たな・活動をつづけるかぎり・青春は永遠にその人のものである・サミュエル ウルマン>。老境もまた青春なり。万歩計よガンバレ。<老いたれど我に夢あり天高し:やの字>:常磐恵一(俳号・皇竹)「退職記念句集」:1998年3月1日所載。
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瘡蓋になりかけてゐる秋思かな:金子 敦

2020年09月22日 | 俳句
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瘡蓋になりかけてゐる秋思かな:金子 敦
傷口が塞がって瘡蓋になりかけてゐる。大した傷では無かった。ちょっとした秋の憂いが血になっただけ。血が流れている肉体に宿る魂。魂が傷付いて出る血とは何色だろうか。真っ赤に焼けた夕焼け雲の色だろうか。それもこれも時の流れが消し去って、今は瘡蓋になりかけてゐる。秋思とはむず痒いものだ。<いいかげん諦めなさい秋愁:やの字>:句集「音符」:2017年5月5日所載。
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鉦叩たたきて命惜しみけり:牧野洋子

2020年09月21日 | 俳句
385
鉦叩たたきて命惜しみけり:牧野洋子
秋の夜は虫たちの時間である。鉦叩きの鳴声が命を惜しむように聞こえてくる。自分の気持ちがそうだからそう聞こえる。もっと言えば虫が哀しいなどと思っているとは思えない。哀しいのは他ならぬ自分自身である。命を惜しんでいるのは自分自身である。あ、難しい事は考えまい。今宵漆黒の闇を虫と共有し共鳴して過ごそう。命短し。<老いたれば命愛しや鉦叩:やの字>:牧野洋子句集「蝶の横顔」:2014年8月19日所載。
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木の実降る地球は自転速度上げ:柴田奈美

2020年09月20日 | 俳句
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木の実降る地球は自転速度上げ:柴田奈美
ぱらりぱらりと木の実が降ってくる。この加速性はきっと地球が自転の速度を上げているからに違いない。この自転に振り飛ばされて木の実が降ってくる。急速な秋の深まり。色落葉を美しいと思うか、どんぐりコロコロを楽しいと思うのか。何や彼やと秋の愁いに打ちのめされるのが落ちではあるのだが。<いつかきつと転ぶ大地や木の実降る:やの字>:柴田奈美句集「黒き帆」:2007年4月25日所載。
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ひとりづつ庭へ出てゆく子規忌かな:黒川 宏

2020年09月19日 | 俳句
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ひとりづつ庭へ出てゆく子規忌かな:黒川 宏
どこかの句会だろうか、いや子規庵見学時の事と考えておこう。東京は根岸に「子規庵」と言う正岡子規が最晩年を送った家がある。今は子規の記念館として公開されている。今頃は鶏頭の14、5本が見頃である。訪れた俳人たちがそれぞれに庭へ降り立ち空気を味わい往時を偲んでいる。遠く風に乗って山手線の鉄道の音が聞こえてくる。その先の上野公園の一角には子規記念野球場があってそれを含めてボランテイアガイドが廻ってくれる。余談だが林家三平邸は子規庵のすぐ近くにある。<偲ばむと我に酒あり獺祭忌:やの字>:雄山閣「新版・俳句歳時記」:2012年6月30日版所載。
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貝殻のうちがは白し秋のこゑ:小島 健

2020年09月18日 | 俳句
382
貝殻のうちがは白し秋のこゑ:小島 健
秋は白秋と言われ秋の色は昔から白である。貝殻の白い内側から秋の声を聴いた。真意はともかくそんな気がする。我が千葉県には九十九里浜という浜辺がある。夏の賑わいも去って静かな海となっている。若者が沖合でサーフィンを楽しんでは居る。浜昼顔の砂地には「海亀の産卵を温かく見守って下さい」と言う看板がたっている。こんな場所に暫し佇めば何処からと鳴く秋のこゑが聞こえてくる。<秋のこゑああ母さんの白き雲:やの字>:雄山閣「新版・俳句歳時記」:2012年6月30日版所載。
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秋風や翅あるもののみな清し:香田なを

2020年09月17日 | 俳句
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秋風や翅あるもののみな清し:香田なを
秋の風が清々しい。そんな風に晒されて虫が鳴いている。鳴声もその姿さえも清く感じられる。スイッチョンも銀やんまも法師蝉も心を清めてくれる。天高く馬肥ゆる秋食欲も復活した。昨日果たせなかった万歩を達成してみるか。気分の中では翅を持って軽やかに歩いてみよう。風は追い風。<秋の川お鰭(ひれ)あるもの流れゆく:やの字>:俳誌「はるもにあ」:2019年112月号所載。
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野分過ぐ「卯波」跡地の黒きビル:太田佳代子

2020年09月16日 | 俳句
380
野分過ぐ「卯波」跡地の黒きビル:太田佳代子
少し前に鈴木真砂女と言う女将が居酒屋「卯波」を営んでいた。かのお稲荷さんの横町である。小生も只の酔っ払いで出入りしていた。注文の魚が切れるとお隣の鮮魚店から直ぐ調達していた。壁際に俳誌「春燈」が何冊かあってこれを肴に親爺連中が喚いていたのが懐かしい。何時も隅の席には常連客が陣取って店内を見渡していた。女将の代も代りここも都市開発の波に飲み込まれ転居させられてしまった。跡地に建った黒きビルに台風一過の冷たい雨が降りしきっている。<居酒屋の仲居てる子や秋黴雨:やの字>:俳誌「春燈」:2019年12月号所載。
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