やんまの気まぐれ・一句拝借!

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ふりかぶり着てセーターの胸となる 不破博 

2018年11月30日 | 俳句
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不破 博
ふりかぶり着てセーターの胸となる
昨日今日と朝晩が大変冷え込んできた。小生にもセーターが供された。早速振り被って来てみる。風のない時の散歩には軽くてとても着心地が良い。着てはもらえぬセーターを♪寒さこらえて編んでます♪かも知れぬが小生には母の手編みのセーターが懐かしい。さてここでは胸と言う身体表現からして着たのはきっと女性であったろう。:角川「新版・俳句歳時記」(1990年12月15日版)所載。
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葉の落ちて落ちる葉はない太陽 山頭火

2018年11月29日 | 俳句
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種田山頭火
葉の落ちて落ちる葉はない太陽
枯れ葉がすっかり落ち切って大地に還った。枯れた枝先にはもう一葉も残っていない。見通しの良くなった大空から太陽が燦燦と注いでいる。そんな中を今日も独りてくてくと歩いて行く。カアと鳴いた烏が唯一の友である。余談だが烏は何処にでもいるのでこの友は何時でも心の話相手になる。しかしてこの烏<鳴いて鴉の、飛んで鴉の、おちつくところがない>のである。:筑摩書房「山頭火句集」(2014年4月5日)所載。
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鰯雲組体操の完成す 宇陀草子

2018年11月28日 | 俳句
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宇陀草子
鰯雲組体操の完成す

空には鰯雲が広がり地には運動会が催されている。折しも男子生徒の組体操が完成した。運動に芸術に気持ちの良い気候である。先日も文化祭のイベントで学生の演技を見てきたが見学の爺婆の目頭が一様に潤んでいた。近所の高校生テイアガールの空を舞う演技には、ああ青春よと甦る思いに感銘することであった。果てし無く広がる鰯雲を見ていたらふと旅心が疼いてきた。:俳誌「ににん」(2018年冬号)所載。
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教会の扉を押して寒き貌 山本あかね

2018年11月27日 | 俳句
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山本あかね
教会の扉を押して寒き貌
教会の扉を押して寒そうな容貌の列に並んだ。日頃世間の垢に塗れ暮らしているがふと心を清めたくなる時がある。そんな時教会は絶好の場所である。静かだし隣人と話さずに過ごせる。黙して座せば人々が自分とおなし淋しさにいる錯覚さえ覚えて親しい。時に説教タイムや冠婚葬祭に出くわすが例え他人であろうが共に悲しみ共に祝福する。そう言えば人の顔は十人十色ではあるが誰彼と寒そうにみえる季節ではある。:山本あかね句集「緋の目高」(2018年11月27日版)所載。
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町深く潮満つ川や都鳥 吉田小次郎

2018年11月26日 | 俳句
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吉田小次郎
町深く潮満つ川や都鳥
ユリカモメが大川と言われる隅田川を飛び交っている。東京では都鳥の愛称で親しまれている鳥だ。町深くといっても浅草は東京湾も比較的近く潮の上げ下げもはっきりしている。橋上からも潮が満ち今が満潮だと見て取れる。スカイツリーは指呼の間である。言問橋の橋桁辺りから遊覧船やバス代わりの船の通いがある。一度こたつ船で酒を楽しんだ記憶がある。観光も佳し何もしなくても浅草は一日過ごせる場所である。またあの金の泡ビルでビールが飲みたくなった。:創元社「俳句の鳥」(2010年6月10日)所載。
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冬滝のきけば相つぐこだまかな 飯田蛇笏

2018年11月25日 | 俳句
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飯田蛇笏
冬滝のきけば相つぐこだまかな
滝の前に立って滝を見ている。厳粛な迄に寒い冬の中に身を置きながら。滝のこだまが相ついで耳に響いている。凍りそうで凍らぬ水の命が迸る。どっこい俺も凍ってはいないぞ。冷え切った肉質の真ん中を走る熱い血潮に燃えている。命の限りわれ燃えん。厳しければ厳しいほど燃えねば生きてゆけぬのだ。胸の中まで滝音がこだましている。:山本健吉「定本・現代俳句」(1998年4月30日)所載。
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気張らずに素直に生きて根深汁 神坂光生

2018年11月24日 | 俳句
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神坂光生
気張らずに素直に生きて根深汁
気張らずに素直に生きている自分がある。三度の食事に喜びを感じて今日の根深汁も美味しく戴く。この根深汁ただの味噌汁ながら何故か罪深い自分への自戒の響を感じてしまう。人が生きる為には争いが発生し避けられぬ。そんな根の深さを感じてしまうのである。凡愚に生きて争わず、そんな生き方を貫きたいものだ。:雄山閣「新版・俳句歳時記」(2012年6月30日版)所載。
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盛切の粋な飲み振り新走り 小林文良

2018年11月23日 | 俳句
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小林文良
盛切の粋な飲み振り新走り
升の中のコップを溢れさせて酒が注がれた。新米で醸造した酒、新走りである。豊かな香りがつんと鼻を衝く。呑み助にはたまらない一瞬である。相方もぐいと一息に粋な飲みっ振りである。澄み渡る空には月が煌々と照っている。過ごしやすい季節の中で今日かくある健康にただただ感謝である。:俳誌「春燈」(2018年1月号)所載。
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指先の皺まで染めて芋茎むく 寂仙

2018年11月22日 | 俳句
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寂仙
指先の皺まで染めて芋茎むく
あまり食用にしない芋の茎だか戦後の食糧難の時は何とか工夫して口にした。農家へ買い出しに行っても碌なものは分けてもらえない。なけなしの衣服とか金目の物との物々交換でやっと手にした。指先の皴まで染めてむく貴重な芋茎なのである。今や日本は飽食の時代戦後は遠くなりにけりとの実感あり。もう戦争はまっぴらだ。どうでもいい事ですが、「藷」は甘藷、薩摩藷、「芋」は里芋、「薯」は自然薯、馬鈴薯(じゃがたら薯)と書き分ける。:つぶやく堂ネット喫茶店(2018年10月28日)所載。
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夕日いま滅びの色か吾亦紅 瀬﨑憲子

2018年11月21日 | 俳句
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瀬﨑憲子
夕日いま滅びの色か吾亦紅
西空が血の色に染まり一日が終わってゆく。吾亦紅の錆た色がまるで滅びゆくものの色彩に思えて来る。私事ではあるが一病を得て老いてゆく身にしてみればひとしお身に沁みることとなる。ただこんな思いは夕陽の時だけではない。花が咲けば泪し鳥が鳴けば愛しみ風が吹けば身を縮め月を見れば哀しむこととなる。生涯の時の一期一会が全て滅びの彼方へ流れてゆく。:俳誌『百鳥』(2018年1月号)所載。
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ともしたる一灯白く冬に入る 望月喜久代

2018年11月20日 | 俳句
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望月喜久代
ともしたる一灯白く冬に入る
灯した一灯が白くみえる寒々とした冬に入った。昨日から今日へと連続する時間の中である時ふっと昨日と違う今日を感じる事がある。寒い!そういえば立冬今日からは立派な冬である。昔は裸電球のオレンジ色に家路を急いだものだった。今では白色のLED灯が多いのだろうか。季語季節感覚に敏感な俳人ならではの一句であろう。遠い昔に犬を飼っていた事がある。愛犬ポンチに連れられて早朝散歩は辛かったが今となっては甘酸っぱい思い出となっている。冬の朝晩往時茫々。:朝日新聞「朝日俳壇」(2018年11月18日)所載。
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がちゃがちゃの奥の一つを聞きすます 渡辺桂子

2018年11月19日 | 俳句
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渡辺桂子
がちゃがちゃの奥の一つを聞きすます
がちゃがちゃと虫時雨が姦しい。姦しいが耳にとても優しい。深まる秋の夜の楽しみである。今宵もがちゃがちゃと鳴きその合唱の不調和和音に感嘆している。とどうもその中の一つが弱弱しく哀し気に聞こえて気になった。鳴きては止んでまた鳴き出して。暫しの沈黙に頭が冴えて眠れない。あ、また鳴いた。秋の夜は永い。:山本健吉「鑑賞俳句歳時記」(1997年1月15日)所載。
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小春日や庭師の鋏澄み渡り 田井中椎太

2018年11月18日 | 俳句
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田井中椎太
小春日や庭師の鋏澄み渡り
暦の上では冬に入ったのにまるで春の様なポカポカ陽気である。庭師は来春の成長前に枝の選定に余念がない。ここで枝ぶりを決めれば葉が繁るころにはごっと見栄えが良くなる。空は底抜けに明るく色鳥の囀りも軽やかである。白壁の塀に寄りかかって日向ぼこりも懐かしい。剪定する鋏の音もリズミカルで庭師の心の内が聞こえそうだ。ところで我が冬支度が終わっていない。:俳誌「はるもにあ」(2018年1月号)所載。
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青きものひとすじ混じる落葉焚 柴田多鶴子

2018年11月17日 | 俳句
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柴田多鶴子
青きものひとすじ混じる落葉焚
落葉を焚いている。黄色茶色や赤い落葉が混ざっている。ふと一筋の青いものが目に留まる。まだ枯れきらぬ内にくべられたか。この小さな発見が今日一日の幸福をもたらした。よく見ると穴の開き具合もまた面白い。この一枚あの一枚と拾い集めて作業はなかなか捗らない。通行人が立ち止まり火に手をかざす。心もほっこり温まってきた。:俳誌「角川・俳句」2018・11月号より。
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重陽や出逢ひ約せし日の遥か 蒲みつる

2018年11月16日 | 俳句
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蒲みつる
重陽や出逢ひ約せし日の遥か
陰暦9月9日は重陽の節句である。今頃がそれにあたるのだろうか。宮中では菊の花びらを浮かべた「菊酒」を飲み長寿を祝う「観菊の宴」が行われたとされている。その人とは互いに健康長寿でまた逢おうと別れてから久しい。往時茫々の感ありである。ま先に行って待っているとの事だから皮の袋に酒でも詰めて持ってゆくとしよう。:雄山閣「新版・俳句歳時記」(2012年6月30日版)所載。
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