兎に角、読みやすく明解な文章。ストーリーがダイナミックに展開し、読み出したら本を置いて一休みも出来ないくらい面白い。小説を一気に読むなどということは絶えて久しかった。今月号の文藝春秋に掲載しているので、是非ご一読をお勧めしたい。
1981年、鄧小平が政権を取り、改革開放のうねりの中で自由と民主化運動に身を投じた大学生、梁浩遠の孤独と挫折の物語である。1989年の天安門広場へ装甲車を送り込んだ鄧小平の「弾圧政策」で大学を追われる。中国から日本へ逃げ、そこで幸せそうな家庭を持つ。でも、心は学生地代の民主化運動から離れない。仲間達は器用に変身しながら上手に人生を渡って行く。しかし梁浩遠にはそんな賢さは持っていない。一見幸福そうな日本での生活のなかでの挫折感が読者の心へ切々と伝わる。
その間に中国の政治も社会もどんどん変わって行く。独り梁浩遠の気持ちだけを置き去りにして。
これは紛れもない本格的な小説だ。人間や人生が描かれている。社会の変化と、不器用な個人の関係を悲劇的に描いている。政治というものを考えさせる。中国と日本の社会の明暗をさらりと間接的に描いている。思わず目頭が熱くなる山場をあちらこちらに配している構成の絶妙さに感心する。最後は一応明るい結末にはなっているが「一体、梁浩遠は幸多い人生をおくれるのか?」。余韻豊かな小説である。
中国文がそこここに翻訳無しで散在して読み難いが、気にしないで飛ばし読みするのが良い。ご一読の価値があると信じてここに心からお勧めいたします。(終わり)