阪口直人の「心にかける橋」

衆議院議員としての政治活動や、専門分野の平和構築活動、また、趣味や日常生活についてもメッセージを発信します。

イスラム国に口実を与えた安倍政権の失態

2015年01月23日 01時47分48秒 | 政治

 昨日に続いてイスラム国による日本人殺害予告事件について書きます。

 『イスラム国』を生み出した最大の構造的要因は、グローバリゼーションが進む中で広がる格差、そして様々な不公正に対する人々の怒りであり、仮にイスラム国を壊滅させても、この構造が変わらない限り同じような勢力が現れるだけだと思います。一方、今回の事件の引き金要因は、イスラム国に口実を与えた外交上の様々な失態だったと思います。

 ひとつは安倍総理のスピーチの英訳に問題があったこと。

 首藤信彦衆議院議員の政策秘書をしていた時、外務省は外国語を都合良く訳して日本の世論をミスリードするので、原文も気をつけて読みなさいと教えられました。今回も英文を読まなきゃと思って探していたら、偶然、三谷英弘前衆議院議員のブログを見つけました。安倍総理のスピーチの英訳に問題があることを、三谷前議員はとても明確に指摘していますので、私もエジプトでのスピーチの原文(日本語)と英訳を丹念に読んでみました。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/me_a/me1/eg/page24_000392.html(日本語)

http://www.mofa.go.jp/me_a/me1/eg/page24e_000067.html(英訳)


 問題は第4章の「日本の約束」の後半部分です。阿部総理のスピーチの全体のタイトルは"The Best Way Is to Go in the Middle" つまり、中庸こそが最善の道とした上で、日本はそこに果たすべき大きな役割があると訴えています。アベノミクスで格差を作り出す張本人の安倍総理が言うには首をかしげる内容になっていますが、その直前では、このように言っています。

 イラク、シリアの難民・避難民支援、トルコ、レバノンへの支援をするのは、ISILがもたらす脅威を少しでも食い止めるためです。地道な人材開発、インフラ整備を含め、ISILと闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します。

 ところが、この部分は英語では下記のようになります。

 We are also going to support Turkey and Lebanon. All that, we shall do to help curb the threat ISIL poses. I will pledge assistance of a total of about 200 million U.S. dollars for those countries contending with ISIL, to help build their human capacities, infrastructure, and so on.

 これを今度は日本語に訳せば「トルコとレバノンにも支援を行います。ISILの脅威を食い止めるためです。ISILと対決している国々には人的能力やインフラ開発のために2億ドルを供与します」との解釈ができます。もともとの日本語とは異なり、人道支援目的であることが後退し、ISILと闘う国を支援すると解釈され得る内容になっています。

 一方で、日本とイスラエルとの関係についても配慮が足りません。この写真のようなセッティングの中でスピーチをすることが、それ自体、イスラエルと敵対する国々を挑発しているかのような誤ったメッセージを与えることになってしまいます。

 負けに不思議の負けなしとは、名将・野村克也監督の言葉。何も起こらなければ見逃されていたと思いますが、構造的要因に加え、後藤健二さんの家族がまさに身代金を要求されている時に、このようなメッセージを発信してしまうとはイスラム国に口実を与える大きな失態だったと言わざるを得ません。

 テロリストには屈しない姿勢と人命優先。両方を追い求める中、限られた時間の中でどのように交渉すべきなのでしょうか? 

 身代金を払ってテロリストの力を強めることは断じて許されません。しかしギリギリの選択肢としては、あらゆるルートを通してイスラム国の中にいる、もっとも弱い立場の人たちを対象に人道援助を約束することではないでしょうか。北朝鮮への対応と似て本当の交渉相手がわからない、本当に支援が届いたかどうか確認できないなどの難しさがあります。しかし、有効な対応を講じることもなく人質が殺されていくのを座視することはできません。リミットとされる数時間後までに少なくとも交渉に入り、人命優先の立場で最後まで解決の可能性を探るのが政府の使命です。

 自分自身が国会にいれば、先頭に立って政府に問題提起をするのですが、自分の力不足が口惜しいです。でも、議員であろうとなかろうと、自分にできることを見出して微力を尽くしたいと思います。