阪口直人の「心にかける橋」

衆議院議員としての政治活動や、専門分野の平和構築活動、また、趣味や日常生活についてもメッセージを発信します。

ヨルダンへの原発輸出について

2011年10月28日 00時14分43秒 | 政治

 臨時国会が再開される前、3日間ヨルダンを訪問し、首都アンマン郊外マジダルの原発建設予定地などを視察してきました。

 エネルギー政策についての私の基本的な考えとして、できる限り再生可能エネルギーを推進すること、国内においては新規の原発は建設せず、原発に依存しないエネルギー供給体制に再構築すべきと考えています。

 一方で、与党の国会議員として社会・経済の血液とも言うべきエネルギーを確保する責務は大きいと考えています。残念ながら現時点では、原発に一定程度は頼らざるを得ませんが、天然ガスのコンバインド・サイクルシステムなど、エネルギー変換効率が飛躍的に向上した技術を駆使して、再生可能エネルギーが一定の割合を占めるまでの間をつないでいくことが必要と考えています。

 悩ましいのは原発輸出です。

 野田総理は原発の輸出を政府の方針として掲げていますが、福島第一原発の事故処理は現在も終息しておらず、解決に向けて国を挙げて全力を注いでいるところです。同義的には、今、原発輸出を積極的に推進べきではないと思います。

 一方で、日本には原発事故を乗り越えようとしている経験と知見を世界の原発における安全対策に活かすべき責任があるとも思いますし、安全性の高い第4世代原発を世界に主導して開発する上でも、原発技術を進化させ得る環境を海外に作る戦略があっても良いと思います。

 実際に、原発事故が発生したとは言え、日本の技術に全幅の信頼を置いている国が沢山あります。ヨルダンもそのひとつで、現在、日本・フランスの連合チームが、ロシア、そしてカナダと受注を争っています。原発を建設するには、原子力の平和利用を定めた原子力協定を国会で締結する必要がありますが、日本とヨルダンの原子力協定については未だ締結されていません。

 この件では、私は外務委員会などで何度か質問しています。8月に行われた専門家に対する参考人質疑を前に事前に建設予定地について調べたところ、アンマン市の下水処理場で浄化した水を冷却水に使用する予定であることがわかりました。原発は大量の冷却水を必要とするため、アリゾナ州の一例を除いては必ず大きな川や海の近くに建設されています。福島第一原発では冷却水の問題で大きな困難に直面し、未来の世代に対して、さらに世界に対しても迷惑をかける結果になりました。その日本が中心になってこれから建設するかもしれない原発が、世界で最も乾燥した国のひとつでもあるヨルダンで、冷却水へのアクセスが難しい場所に建設されるなどあり得ない選択だと思いました。安全性に関しては、妥協の余地はなく、水の確保の困難が予想される現在の原発建設予定地は変えるべきではないかと、委員会では慎重論を述べました。

 従来「協定」は粛々と処理されるのが一般的ですが、今回の協定締結の政治的メッセージの大きさを考えると、誰もが納得できるような最高レベルの安全が担保されていることが最低条件と考えました。結果的に、協定の締結は通常国会では実現しなかったのですが、建設予定地を実際に見て、担当大臣を含めた関係者と意見交換しなければならないと思い、ひとりでヨルダンに行くことを決めました。



写真:アンマン郊外マジダルの原発建設予定地


 ヨルダンの原発予定地を視察したのは日本の国会議員としては私が初めてとのこと。私は現地で原子力発電所開発のサイト部長・ジハード氏の説明を受け、また、マサチューセッツ工科大学で原子力工学の博士号を持つ専門家で、長年ヨルダンの原子力委員長を務めているトウカン資源エネルギー大臣(担当大臣)からも詳しい説明を受けました。


写真:サムラ下水処理場



写真:下水処理場には反対派の方々も集まってきました。「原発建設には賛成だが、この場所はやめて欲しい」との声でした。



写真:ジハード部長から説明を受ける私。


写真:建設予定地を後にする

 二人は最高レベルの安全を確保することに妥協するつもりは一切なく、その視点で日本の技術がもっとも優れていると強調していました。福島第一原発の事故は、津波による電源の喪失で起きたが、地震に対してはしっかりと緊急停止したこと。また、今回予定される加圧水型炉はより安全性の高い第3世代型で、非常時に溶けた炉心を受け止める設備があり、今回のような事故は起きないと自信を持っていました。また、水源の確保については、下記のようなバックアップ体制を用意するとのことでした。

1.下水処理場の水を浄水化する
2.地下200メートル地点にある水を汲み上げる
3.ジャンボジェット機が衝突しても耐えられる強度の施設にし、必要な水タンクも内蔵する

 またテロリストなどからの攻撃に備え、近くにある基地で24時間体制で対応するとのことでした。IAEAの専門家からも前向きな評価を受けていて、日本の原子力協定締結を必死の思いで待っているとのことでした。


写真:トウカン資源エネルギー大臣から説明を受ける


写真:トウカン大臣は身長2メートルの長身でした!

 ヨルダンのエネルギー問題は水の問題でもあり、水がない生活は人権問題でもあると感じました。最終的にはヨルダン国民が国民投票に諮って決めたいとのことですが、原子力協定が締結されていないとの理由で最初の段階から「日本」という選択を失わせるのは国際信義上問題ではないかと思いました。
ロシアなどは約5000億円の建設費用を肩代わりするなどの破格の条件で攻勢をかけているようですが、大きな原発事故を起こした日本の技術に対する信頼が揺らいでいないことは驚きでした。

 さて、ヨルダンとイスラエルの国境には死海という湖があります。マイナス400メートルと世界で一番の低地にあるため塩分濃度が海水の約10倍と高く、体が浮いてしまうことでも有名です。聖書にも記述があるという死海ですが、この30年で30メートルも水位が下がり、面積が小さくなり続けているとのことです。

 この問題を解決するため、168キロ離れた紅海と死海を水路で結び、さらに一度220メートル地点まで揚水した後、高低差を活かして水力発電を行うとともに、淡水化事業を行うプロジェクトが計画されています。すでにフィージビリティースタディー(事前調査)も世界銀行とともに行い、後は事業者を決め、100億ドルとも試算される資金調達をどのように行うかとの段階だそうです。

「ヨルダンのみならず、この地域全体の平和につながる歴史的プロジェクト」と水灌漑省の副大臣は胸を張っていました。

 インフラ輸出の中でも、日本が最も得意とし、今後の可能性が大きいのが水事業です。この事業も何とか受注できるように政治的後押しをしていきます。


写真:副大臣は1975年に入省して以来、ずっと水事業に取り組んできたそうです

 これらの事業をパッケージで行う可能性など、日本の国益をトータルで考えると、ヨルダンとの原子力協定は締結してもいいのではないでしょうか。その上で、ヨルダン政府が判断し、もし受注したなら世界最高レベルの安全を提供するべく全力を挙げるべきです。しかし、ヨルダンのような現在進行形のもの以外は、輸出について慎重であるべきとの考え方は変わりません。



写真:大学時代の恩師にそっくりなんですよ!と言うと満面の笑顔を見せてくれました