子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「グレイマン」:自分探しは一旦保留し,まずは走って撃って殴って殴られ。

2022年08月18日 09時09分20秒 | 映画(新作レヴュー)
MARVEL弱者の私にとっては,初見参となるルッソ兄弟のアクション作品。加入者数の減少が話題となっているNETFLIXが,過去最高額の制作費を注ぎ込んだ大作,ということが喧伝されているが,それなのにこのタイミングで「劇場先行公開」という手に出たのは何故なのか。これだけの派手なアクションであれば,是非とも大スクリーンで観たい,という声が上がったことは容易に想像できるが,劇場の興行収入がサブスク会費の落ち込みをカバーするレヴェルに達することが難しいだろうことは明らか。その辺りの経営戦略は措いても,これだけ派手でキレの良いアクションを,小難しいエゴサーチを飛び越えて観られたのは嬉しい驚きだった。中心市街地を文字通り蹂躙されたプラハには「災難でした」と言うしかないけれど。

DC程ではないにせよ,スーパーヒーロー達が闘う理由や隠された出自を問う物語が延々と語られる展開を敬遠してきた私のような少数派の観客にとって,主演が内向指向が顕著なライアン・ゴズリングと聞いて,腰が引けてしまったのは事実。けれども主人公が幼時に父親から受けた虐待に起因する犯罪で服役していたことが終盤で明かされる以外,終始身体を張ったアクションをスクリーンの真ん中に鎮座させる思い切りが見事に功を奏して,飽きさせない。ラスト,武器を捨てて生身で敵と闘う過剰なお膳立て感はいただけなかったが,東欧の古都プラハの美しい街並みを,市電の暴走によって破壊し尽くす壮大な暴挙は,スーパーヒーローものに距離を置いていた冷めた観客にも手汗を滲み出させる迫力があった。

更にバディとして配置されたアナ・デ・アルマスが息を切らせて必死に走る姿も美しかった。時代錯誤のセクハラ台詞で揺さぶられてもビクともしない背筋は,#MeToo以降の時代の息吹を感じさせる。彼女には是非ともアンジェリーナ・ジョリーの「ソルト」を越えるようなスピン・オフ作を期待したい。
そのジョリーの元夫であるビリー・ボブ=ソーントンが,主人公のメンター役を演じて物語に厚みを与えていた。ソーントンと言えばいまだに「スリング・ブレイド」を想起してしまう私のようなオールド・ファンにとっては,「ブリジャートン家」の伊達男レジェ・ジーン=ペイジの復活と併せて,キャスティングの妙も楽しめた。

それにしてもドローンによる撮影もここまで来たか,と思わせるショットの連続には嘆息。撮影監督の腕前はフィルムの感度の見極めから,コントローラーの操作技術へ,ということなのでしょうか,ゴードン・ウィリス師匠?
★★★☆
(★★★★★が最高)

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