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子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「カフェ・ソサエティ」:ヴィットリオ・ストラーロを迎えて撮ったハリウッド絵巻

2017年05月27日 12時29分04秒 | 映画(新作レヴュー)
ほぼ毎年新作に接する歓びを味わえるヴェテラン・アーティストと言うと,私の場合はジェフリー・ディーヴァー,ウィルコ,KIRINJI,コーエン兄弟,といった名前が即座に挙がるが,中でもその創作ペースが最も安定しているのは,存外一番お年を召している本作の監督,ウディ・アレンかもしれない。毎回旬の女優を迎えて,冴えない主人公を「さあ,どうする?」的な状況に追い込んでは,カメラの横でほくそ笑んでいる姿を想像して楽しむというのが,私にとっての精神安定薬になっていることは疑う余地がない。

今回のディーヴァは,フライヤーを見る限りではクリステン・スチュワートとブレイク・ライブリーの「2枚看板」ということになっているのだが,実質的にはどっかと物語の真ん中に据えられるのはスチュワートで,その廻りを周回する主人公のボビー(ジェシー・アイゼンバーグ)が,回転運動の果てに自分の立ち位置を見失う,といういつものパターンを踏襲している。
異なるのは撮影監督にベルトルッチ監督とのコンビで知られるヴィットリオ・ストラーロを起用したこと。このところヨーロッパを舞台とする作品が多くなっている中,ハリウッドに戻ってきた本作で,敢えて明るい色の使い方やカメラを流麗に動かす術に長けたストラーロを据えた成否は,スチュワートを彩るシャネルの服の完璧な輝きに現れている。華やかでありながら落ち着きを失わない画面の質感は,アレンの映画にさして興味のないファッション業界の人々をも,必ずや魅了することだろう。

物語の中心で輝くスチュワートは,オリヴィエ・アサイヤスの魅力溢れるホラー「パーソナル・ショッパー」での度肝を抜かれるような大胆な演技には及ばないものの,大女優へのステップを確実に踏んでいることを証明してみせる。ジェシー・アイゼンバーグはやや紋切り型だが,アレンの影武者としての役割は充分に果たしていると言える。

それでもアレン作品の中では,上位に食い込むことは難しい,というのが率直な感想だ。どっちつかずの状況で下した判断の誤りが,じわじわと主人公を苛んでいく姿を楽しむという被虐的な歓びは,半ば消化不良のまま終わる。犯罪に手を染める兄が受け持つべきだったであろうブラック・ユーモアのパートも含めて,シナリオの練り方が足りなかったという印象だ。
しかしそれもとにかく81歳にしてなお毎年作品を作り続けられるアレンのエネルギーあってこその貴重な「残念」。どんな作品を撮ろうとも,お布施は払い続ける所存。
★★★
(★★★★★が最高)


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