どうやら世の中は子役ブームらしい。その最初の狼煙は「崖の上のポニョ」の主題歌を歌った大橋のぞみと,子供なのに店長になってしまった加藤清史郎あたりが上げたものと思われるが,今の「達者でなくては子役ではない」ブームは,「Mother」の芦田愛菜が作り上げたと言っても過言ではないだろう。喜怒哀楽の輪郭は明瞭かつニュアンスは豊かながらも,どこか儚げという,百戦錬磨の役者ともガチで渡り合えるような演技と佇まいは,正に衝撃的だった。
その後も「かつお武士」の加部亜門に,「名前をなくした天使」の5人の子役たちと,まるで男女を問わずドイツに渡る日本のサッカー選手のように次から次へと登場してくるに及んでは,まともなフォローも出来ない状態なのだが,そんな中,既に芸能歴では中堅所となりつつある漫才兄弟「まえだまえだ」の二人が,是枝裕和の新作「奇跡」でスクリーンに登場と相成った。
両親の別離によって離ればなれになってしまった小学生の兄弟が,再び一緒に暮らすというささやかな希望を叶えるべく,(田舎ではあるが)都市伝説を頼りに新幹線が出会う箇所を目指して旅立つ。様々な事情を抱えた同級生との二組の小旅行には,ロブ・ライナーの「スタンド・バイ・ミー」を彷彿とさせるような,思春期の子供が持つ黄昏の寂しさのような感情と,胸躍る冒険心とがきっちりと同居していて,観るものの心の柔らかい部分がくすぐられる。
主役の兄弟を演じる前田航基と前田旺志郎は,子供が持つ無邪気な奔放さと大人に対する思慮という,相反する要素を自然に表現して,見事に作品の推進力となっている。この二人でなければ,「引き裂かれた兄弟」というニュアンスがより浮き上がってしまい,作品全体のフワフワとしたトーンが変わっていたことは,想像に難くない。
本木雅弘の愛娘であり,樹木希林の孫でもある内田伽羅は,それなりに目立つ容貌でタレント志望だが,特段美しいという訳でもない,という彼女の地をキャラクターにしたような役を,一所懸命に演じていて好感が持てる。おじいちゃんが汚した内田家の名誉を,お祖母ちゃんと二人で挽回しようと奮闘する姿は,「ろっけんろーる」お祖父ちゃんにどう映ったのだろうか。
だが,作品全体を見渡すと,これまでの是枝作品に比べて描かれる舞台が拡がったことも影響したのか,稠密な空間から紡ぎ出されてきた,様々な色の感情の糸を見出すことは難しい。特に,阿部寛,原田芳雄,夏川結衣に樹木希林と揃った脇役陣を見て,「歩いても 歩いても」の手触りを想起した観客も多かったに違いないが,あの作品にあった,思いやりと愛情を互いに表現できないもどかしさ,といった細かなニュアンスを楽しむことは,ここでは叶えられない。
父親役のオダギリ・ジョーがやっているバンド仲間の緩い雰囲気や,子供たちがついた嘘がきっかけで泊めてくれることになった老夫婦(妻役はりりぃ)の会話等に,心和む瞬間はあるものの,それが「奇跡」かと問われれば,「ちょっと,ちゃうなぁ」と,まえだまえだなら,答えるような気がする。
★★★
(★★★★★が最高)
その後も「かつお武士」の加部亜門に,「名前をなくした天使」の5人の子役たちと,まるで男女を問わずドイツに渡る日本のサッカー選手のように次から次へと登場してくるに及んでは,まともなフォローも出来ない状態なのだが,そんな中,既に芸能歴では中堅所となりつつある漫才兄弟「まえだまえだ」の二人が,是枝裕和の新作「奇跡」でスクリーンに登場と相成った。
両親の別離によって離ればなれになってしまった小学生の兄弟が,再び一緒に暮らすというささやかな希望を叶えるべく,(田舎ではあるが)都市伝説を頼りに新幹線が出会う箇所を目指して旅立つ。様々な事情を抱えた同級生との二組の小旅行には,ロブ・ライナーの「スタンド・バイ・ミー」を彷彿とさせるような,思春期の子供が持つ黄昏の寂しさのような感情と,胸躍る冒険心とがきっちりと同居していて,観るものの心の柔らかい部分がくすぐられる。
主役の兄弟を演じる前田航基と前田旺志郎は,子供が持つ無邪気な奔放さと大人に対する思慮という,相反する要素を自然に表現して,見事に作品の推進力となっている。この二人でなければ,「引き裂かれた兄弟」というニュアンスがより浮き上がってしまい,作品全体のフワフワとしたトーンが変わっていたことは,想像に難くない。
本木雅弘の愛娘であり,樹木希林の孫でもある内田伽羅は,それなりに目立つ容貌でタレント志望だが,特段美しいという訳でもない,という彼女の地をキャラクターにしたような役を,一所懸命に演じていて好感が持てる。おじいちゃんが汚した内田家の名誉を,お祖母ちゃんと二人で挽回しようと奮闘する姿は,「ろっけんろーる」お祖父ちゃんにどう映ったのだろうか。
だが,作品全体を見渡すと,これまでの是枝作品に比べて描かれる舞台が拡がったことも影響したのか,稠密な空間から紡ぎ出されてきた,様々な色の感情の糸を見出すことは難しい。特に,阿部寛,原田芳雄,夏川結衣に樹木希林と揃った脇役陣を見て,「歩いても 歩いても」の手触りを想起した観客も多かったに違いないが,あの作品にあった,思いやりと愛情を互いに表現できないもどかしさ,といった細かなニュアンスを楽しむことは,ここでは叶えられない。
父親役のオダギリ・ジョーがやっているバンド仲間の緩い雰囲気や,子供たちがついた嘘がきっかけで泊めてくれることになった老夫婦(妻役はりりぃ)の会話等に,心和む瞬間はあるものの,それが「奇跡」かと問われれば,「ちょっと,ちゃうなぁ」と,まえだまえだなら,答えるような気がする。
★★★
(★★★★★が最高)