子供はかまってくれない

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映画「博士と彼女のセオリー」:人生は思ったよりも長くて辛い

2015年04月07日 22時38分43秒 | 映画(新作レヴュー)
アルカーイダによるテロによって2001年9月11日に崩壊したワールド・トレード・センターがまだその威容を誇っていた頃,二つのビルに綱を渡し,そこを渡ろうと企てたフランス人の大道芸人を取り上げた「マン・オン・ワイアー」というドキュメンタリーがあった。高所恐怖症の私にとってはその意図すらも理解できない行為の一部始終を,実に丹念に追いかけてアカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門を受賞した監督が,本作「博士と彼女のセオリー」のメガホンを取ったジェームズ・マーシュであるということを知ったのは,本作を観終わってチラシを見た時だった。
ことの善し悪しや意義は別として,凡人にはなし得ない偉業の陰にあるものを追求するその姿勢に,どうやらブレはないようだ。

劇場で観た予告編とエディ・レッドメインのアカデミー賞主演男優賞受賞,それにホーキング博士に関する断片的な情報を総合すると,難病に打ち克って理論物理学の分野で偉業を成し遂げた天才と,彼を無償の愛で支えた妻の愛の物語,という先入観を抱いていたのだが,やはり映画は百聞は一見にしかず。監督のマーシュと脚本家のアンソニー・マッカーテンの二人はこの希有な物語に,私が抱いた先入観,すなわち「涙なくしては聞けない美談」に陥る危険を巧みに回避して,世界中至る所で繰り広げられているであろう夫婦間の歴史のひとつでもあるという普遍性を持たせることに成功している。
終盤の怒濤の展開ならぬ「転回」を,敢えて描いた判断こそが,作品に想像以上の深みをもたらしている。

その点で,「マイ・レフトフット」のダニエル・デイ=ルイスもかくやという演技を見せてオスカー戴冠という栄誉に輝いたレッドメインは,文字通りの女房役であるフェリシティー・ジョーンズの,安定感のある受けの演技に感謝すべきだろう。
同時に出番は少ないが,いつの間にかアクが抜けてしまって一見本人とは分からなかったデヴィッド・シューリスの柔らかな佇まいを筆頭とした,主役のレッドメインを取り囲む演技者のアンサンブルの妙こそが,エースの栄冠を生んだ要因かもしれないとも感じる。

ホーキング博士の偉業に対する理解が足りない,これでは博士の理論の何が革新的だったのかが観客に理解されない。そんな批判も寄せられていると聞くが,博士の理論を知るために劇場へ駆け付けようと思っている人には,劇中でも取り上げられる「ホーキング 宇宙を語る」を読むことの方をお奨めする。「The Brief History of Time」という原題とは裏腹に,「Brief」な内容ではないけれど。勿論,私は挫折しました。はい。
★★★☆
(★★★★★が最高)


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