子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「ブリューゲルの動く絵」:絵画好きな大人のための超高級アトラクション

2012年02月25日 12時13分31秒 | 映画(新作レヴュー)
近景の人や事物はすべて実写なのに,遠景の丘や山,高い塔や風車は,C.Gか筆で描かれた絵画という,凝りに凝ったショットが延々と続く。
そのうちに自分がいる場所までもが,ひょっとしたら誰かに描かれた絵の中なのではないか?という錯覚に陥るようなことは当然の如くなかったのだが,極めて不思議な作品であることは間違いない。
ショットが切り替わるたびに,実写はどこまでで,絵はどこからだ?と至る所に視点をずらしては集中して眺めているうちに,だんだん睡魔が襲ってくるという経験は,なかなか出来るものではないということだけは断言できる。

ウィーンの美術史美術館に所蔵されているブリューゲルの「十字架を担うキリスト(原題は『風車と十字架』)」をモチーフに,絵に描かれている数多くの題材から当時の社会を再現してみるという,一種の異種メディア混合プロジェクトだ。
冒頭に記したように,作り込まれたショットだらけで,何となく流れで撮ったようなカットは一つもないと言って良い。風車から見下ろした俯瞰ショットから,本家ブリューゲルの絵のようなロングショットの構図まで,画面構成に入れられた手数の多さは半端ではない。

更にブリューゲル本人(ルトガー・ハウアー,適役だが出番少なし)も出てくるし,あのシャーロット・ランプリングが聖母マリア役でお出ましにもなる。ブリューゲルのパトロン的な役回りで顔を見せるマイケル・ヨークも含めて,出演陣の重量にも不足はない。
この時代に使われていたと覚しき楽器で奏でられる素朴な音楽も,それらしい「雰囲気」は出している。

だがそんな映画本体を囲む装置の本格感は十分なのに,映画自体は残念ながらブリューゲルの絵が物語る饒舌なお伽噺にはほど遠い,退屈な出来に留まっている。
何より絵に描かれている断片を,手間暇かけて映画で描く物語へと昇華させるために必要とされる想像力が貧弱だ。「つつましい平民と残虐な支配者」というステレオタイプの描写が延々と繰り返されるだけで,個別のモチーフをつなぐ横糸が弱いために,いつまでたっても物語が膨らんでいかないのだ。
これならテレ東でやっている「美の巨人」なんかで紹介されている「名画誕生の秘密」みたいな取り上げ方の方が,よほど興味深いと思ってしまった。
作品完成のお披露目はルーブル美術館で行われたそうだが,この作品にとってはおそらくその場が,最初で最後でかつ最高の晴れ舞台だったはずだ。
★★
(★★★★★が最高)


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