子供はかまってくれない

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映画「ハンナ」:ジョー・ライトVS.ケミカル・ブラザーズ

2011年09月14日 23時31分50秒 | 映画(新作レヴュー)
「つぐない」で見せた戦場シーンの長廻しは,ジョー・ライトという監督の資質を余すところなく示す,けれんたっぷりの「見せ場」だった。物語そのものは,前作の「プライドと偏見」同様の「文芸もの」としての体裁を纏いながら,このシーンで突如として「見せ物屋」魂を全開にするというチャレンジは,観客の度肝を抜くに充分の荒技と言えた。
そんなジョー・ライトの新作「ハンナ」は,「つぐない」で姉を悲劇のどん底に突き落とす妹を演じて鋭い突破力を感じさせたシアーシャ・ローナンを主役に据えたアクション映画だが,ライトは格好の題材を得て「見せ物屋」としての資質を堂々と煌めかせている。

キューブリックの「フル・メタル・ジャケット」のように,脇役として描かれることは多くとも,リュック・ベッソンの「ニキータ」とそのリメイク作品である「アサシン」以外に,女性スナイパーを「主役」として取り上げた作品は寡聞にして知らない。それだけでも「ハンナ」はユニークな作品になり得た可能性は高いが,本作はその上に16歳で自らの出自を知らず,世間から隔絶された場所で育てられた少女,という設定を課すことによって,「青春の痛み」というスパイスをそこかしこで効かせている。
シアーシャ・ローナンは,そんな「痛み」を歯を食いしばって耐える少女として演じることで,「つぐない」とは異なる「静なる強さ」を感じさせている。

途中までは「父親」として登場してくるエリック・バナは国際諜報員らしい緻密さと父性を,二人の行く手に立ちはだかる敵役を演じるケイト・ブランシェットは電動歯ブラシで自分の歯茎を削り続ける偏執狂的な怖さを,共にリアルとファンタジーの境界線上で醸し出して,復讐譚としてはややひねりに欠けるプロットを救っている。

だがライトの持つ「けれん」に拮抗して緊張感と躍動感を生み出し,シアーシャやバナのアクションを後押ししているのは,実質的にはケミカル・ブラザーズの作り出す音楽だろう。
冒頭,シアーシャがモロッコの秘密基地から脱出するシーンから始まって,アクション・シークエンスの背景で刻まれる力強いビートは,切れの良いアクションとの相性も抜群で,停滞気味だった近年の彼らのアルバムよりも鋭い。
プロモーション・ヴィデオのような心地良さを堪能させる一方で,繰り返し「ワンカット長廻し」撮影に挑むことに象徴されるように,あくまで「アクション映画」の領域に留まって踏ん張ろうとするライトの活動屋精神と,映像とのコラボを復活のスプリング・ボードとして選んだケミカル・ブラザーズが作り出す硬質なビートとの,火花散る四つ相撲は,間違いなく一見の価値ありだ。
★★★☆
(★★★★★が最高)


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