子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「あの日,欲望の大地で」:乾いた大地に染み込む涙

2009年10月10日 00時06分00秒 | 映画(新作レヴュー)
産んだあとすぐに別れた娘と12年振りに再会したシルヴィア(シャーリーズ・セロン)の,遂に娘に受け容れられた歓びを捉えたショットから,ゆっくりと暗転していくラストシーンが見事だ。母を失い,子供と恋人と別れてからの長い年月,感情を殺し,息を潜め,自分を苛むような生活を続けてきた女が,家族の温かい絆の一部となって,「燃え上がる平原(原題)」の呪縛から救われる瞬間。!フェリシダーデス!

「バベル」の脚本家であるギジェルモ・アリアガの初監督作は,得意としてきた「時空の飛翔」という武器を最大限に活かしながら,ひとりの女の,運命としか言えない業と悲しみと救済を描いた骨太の人間ドラマとなった。技巧的でありながらも力強い脚本と演出が,女優の花道を一直線に歩き続けるシャーリーズ・セロンの覚悟を強力に後押しし,彼女の演技はオスカーに輝いた「モンスター」よりも広く深い人間描写に到達している。

崖っぷちの母を演じたキム・ベイシンガーも背中で「8Mile」を凌ぐような切羽詰まった女の凄みを見せる。しかし彼女も1953年生まれということは,小林幸子と同い年なのか。どう比較して良いのかは,分からないが。
この二人に誘発された,二人の新人女優(ジェニファー・ローレンスとテッサ・イア)の哀しさを湛えた演技も素晴らしい。やはり若者がちゃんと育つためには,優れたメンターが必要なのだろう。

現在の舞台となるポートランドと,シルヴィアの少女時代を描いたニュー・メキシコで,画面のタッチを完璧に使い分けることによって,観客は頻繁な時間軸の変更にも戸惑うことはない。荒涼とした平原の描写に冴えを見せる撮影監督は,同様の腕を「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」でも発揮したロバート・エルスウィット。加えて,エンド・クレジットには「アディショナル(追加)」撮影者として,大ヴェテランのジョン・トールの名前もあった。
WBCで初めて指揮を執った原監督のために投げるは,先発松坂,抑えはダルヴィッシュ,みたいなラインナップか。あ,ちょっと,違うか。

それにしても,買い物の最中に愛人に会いに行って戻ってこない母(キム・ベイシンガー)を待つ家族の姿を捉えたショットに漂っていた寂しさに呼応するような,ラストの温かさよ。
受け容れられることの歓びに満ちたハッピー・エンドの余韻は,実に得難い。
★★★★
(★★★★★が最高)


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