2020年のレコード大賞には「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の主題歌「炎」が選ばれた。新型コロナウイルスの感染拡大防止のために劇場の入場制限があったにも拘わらず，興行収入で「千と千尋の神隠し」を抜いたモンスター作品の主題歌が2020年の代表曲となったことは，まさにCOVID-19に翻弄された年を象徴する出来事だろう。テレビ版にトライしたものの，折り返しで挫折してしまい，いまだ劇場版を鑑賞していない身としてはこうした現実にもただ「凄い」という空疎な感想しか持ち得ないのだが，既に顕著になっていた「劇場をスルーして即配信」という潮流が，一層強まったことだけは確かだ。10本を選ぶに際してもNETFLIX作品を入れるかどうか非常に悩んだが，「劇場公開原理主義最後の10本」と決めて選んだのが以下の10本。例年通り洋画のみの鑑賞順。
1 リチャード・ジュエル クリント・イーストウッド
2 1917命をかけた伝令 サム・メンデス
3 レ・ミゼラブル ラジ・リ
4 ミッドサマー アリ・アスター
5 ストーリー・オブ・マイ・ライフ私の若草物語 グレタ・ガーウィグ
6 その手に触れるまで ジャン・ピエール＆リュック・ダルデンヌ
7 リトル・ジョー ジェシカ・ハウスナー
8 フェアウェル ルル・ワン
9 異端の鳥 ヴァーツラフ・マルホウル
10 ホモ・サピエンスの涙 ロイ・アンダーソン
一見なにげなく見えるショットの積み重ねによって，実録シリーズの集大成的な果実を収穫した１。助演のオリヴィア・ワイルドは，間違いなくイーストウッドの技を盗んだはず。
名手ロジャー・ディーキンスがサム・メンデスと組んで，劇場で観る「見世物」としての限界に挑戦して成功した2は，COVID-19禍での公開が気の毒になった大作。
まるでサッカーのフランス代表チームが幻想に過ぎないと言わんばかりに過酷な現実を突きつけた３のラストシーンの決着は，まだ着いていない。
A24の好調を象徴するような４の爆発的なエネルギーは，明るい陽光の下でも凄惨なホラーが立派に成り立つことを証明して見せた。アリ・アスター，恐るべき34歳。
今年を代表する１本は，秀作を量産した女性監督の代表たる５。「レディ・バード」から一転して，正統派のど真ん中で勝負を挑んできたグレタの気概と才能に拍手。
ヨーロッパが直面する過酷な現実を「レ・ミゼラブル」とは違った角度から捉えて見せたダルデンヌ兄弟の衰えぬ創作活動に敬服した６。
7は何よりもモダン・ホラーに雅楽を取り入れたハウスナーのセンスに一票。「ルルドの泉で」に続く実に個性的な作品に，もっと光を。
オークワフィナの不機嫌な顔が人を幸せにする8もまたA24の制作。本編終了後の説明ショットでのけぞった人は私だけではないはず。
舞台となった国も言語も不明な３時間に亘るモノクロームの少年虐待劇を普遍的な作劇で綴って，矛盾に満ちた世界の真理を抉った９の衝撃。
１年の掉尾を飾った10は，何度も見返したくなるロイ・アンダーソンの最高傑作。デビュー作の「スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー」も再見したくなった。
この他では昔ながらのスポ根ものに真っ正面からトライした「フォードVSフェラーリ」，伝記映画として見事な出来映えだった「リンドグレーン」，ヴィットリオ・ストラーロがニューヨークの夕暮れを完璧に捉えた「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」，あのフランソワ・オゾンが社会派ものに挑んだ「グレース・オブ・ゴッド」，爆笑させてもらったこれまたA24作品「ディック・ロングはなぜ死んだのか」，街と建築物と人間を，同じ次元で捉えるという着眼点が秀逸だった「コロンバス」，前述したオリヴィア・ワイルドの特筆すべき監督デビュー作「ブック・スマート卒業前夜のパーティーデビュー」，中高生必見のハードな青春映画「はちどり」，職人仕事って素晴らしい「ようこそ映画音響の世界へ」などが僅差で続いた。
新型コロナウイルスの根絶が望めない状況で，配信による供給が強まっていくことが確実な中，札幌で二つの大手シネコンとミニシアター「シアターキノ」の間を埋める役割を担っていたディノスが，「サツゲキ」として復活したことの意義は大きい。一定の距離を取りながらでも，人が集まる場所としての映画館の役割をしっかりと認識しつつ，映画産業がウィズコロナ時代の新しいステップを踏むこととなる2021年が良い年になるよう祈念しつつ，2020年のご愛顧に深く深く感謝。
1 リチャード・ジュエル クリント・イーストウッド
2 1917命をかけた伝令 サム・メンデス
3 レ・ミゼラブル ラジ・リ
4 ミッドサマー アリ・アスター
5 ストーリー・オブ・マイ・ライフ私の若草物語 グレタ・ガーウィグ
6 その手に触れるまで ジャン・ピエール＆リュック・ダルデンヌ
7 リトル・ジョー ジェシカ・ハウスナー
8 フェアウェル ルル・ワン
9 異端の鳥 ヴァーツラフ・マルホウル
10 ホモ・サピエンスの涙 ロイ・アンダーソン
一見なにげなく見えるショットの積み重ねによって，実録シリーズの集大成的な果実を収穫した１。助演のオリヴィア・ワイルドは，間違いなくイーストウッドの技を盗んだはず。
名手ロジャー・ディーキンスがサム・メンデスと組んで，劇場で観る「見世物」としての限界に挑戦して成功した2は，COVID-19禍での公開が気の毒になった大作。
まるでサッカーのフランス代表チームが幻想に過ぎないと言わんばかりに過酷な現実を突きつけた３のラストシーンの決着は，まだ着いていない。
A24の好調を象徴するような４の爆発的なエネルギーは，明るい陽光の下でも凄惨なホラーが立派に成り立つことを証明して見せた。アリ・アスター，恐るべき34歳。
今年を代表する１本は，秀作を量産した女性監督の代表たる５。「レディ・バード」から一転して，正統派のど真ん中で勝負を挑んできたグレタの気概と才能に拍手。
ヨーロッパが直面する過酷な現実を「レ・ミゼラブル」とは違った角度から捉えて見せたダルデンヌ兄弟の衰えぬ創作活動に敬服した６。
7は何よりもモダン・ホラーに雅楽を取り入れたハウスナーのセンスに一票。「ルルドの泉で」に続く実に個性的な作品に，もっと光を。
オークワフィナの不機嫌な顔が人を幸せにする8もまたA24の制作。本編終了後の説明ショットでのけぞった人は私だけではないはず。
舞台となった国も言語も不明な３時間に亘るモノクロームの少年虐待劇を普遍的な作劇で綴って，矛盾に満ちた世界の真理を抉った９の衝撃。
１年の掉尾を飾った10は，何度も見返したくなるロイ・アンダーソンの最高傑作。デビュー作の「スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー」も再見したくなった。
この他では昔ながらのスポ根ものに真っ正面からトライした「フォードVSフェラーリ」，伝記映画として見事な出来映えだった「リンドグレーン」，ヴィットリオ・ストラーロがニューヨークの夕暮れを完璧に捉えた「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」，あのフランソワ・オゾンが社会派ものに挑んだ「グレース・オブ・ゴッド」，爆笑させてもらったこれまたA24作品「ディック・ロングはなぜ死んだのか」，街と建築物と人間を，同じ次元で捉えるという着眼点が秀逸だった「コロンバス」，前述したオリヴィア・ワイルドの特筆すべき監督デビュー作「ブック・スマート卒業前夜のパーティーデビュー」，中高生必見のハードな青春映画「はちどり」，職人仕事って素晴らしい「ようこそ映画音響の世界へ」などが僅差で続いた。
新型コロナウイルスの根絶が望めない状況で，配信による供給が強まっていくことが確実な中，札幌で二つの大手シネコンとミニシアター「シアターキノ」の間を埋める役割を担っていたディノスが，「サツゲキ」として復活したことの意義は大きい。一定の距離を取りながらでも，人が集まる場所としての映画館の役割をしっかりと認識しつつ，映画産業がウィズコロナ時代の新しいステップを踏むこととなる2021年が良い年になるよう祈念しつつ，2020年のご愛顧に深く深く感謝。
