子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「ニュースの真相」:失敗を直視する姿勢に向けられたシンパシー

2016年09月25日 11時38分00秒 | 映画(新作レヴュー)
ブッシュ大統領(子)の再選時に突如浮上した従軍履歴に関するスキャンダルについては,報道側の勇み足だった,という朧気な記憶が残っている。しかし名前だけはよく知っていたニュースキャスターのダン・ラザーが,その報道スキャンダルで番組を追われていたとは知らなかった。しかもこの作品においては,そのスキャンダル自体がねつ造されたものだったのか,そうではなく報道された内容が真実であったのか,結論は最後まで明らかにされない。普通であれば,観客はもやもやした気持ちのまま劇場を出ることになるところだが,この作品に限ってはそうはならない。ダン・ラザーの決め台詞「Courage!」が,メアリー(ケイト・ブランシェット)の向こう側で見守る大勢の背中を押してくれる。

今年のオスカーに輝いたトム・マッカーシーの「スポットライト」が,協会内部のスキャンダルを追いかけるジャーナリストたちの奮闘を描いたのとは対照的に,ヴェテランの脚本家ジェームズ・ヴァンダービルトの初監督作「ニュースの真相」は,スキャンダルの報道後に巻き起こる「報道スキャンダル」への対応がテーマだ。「取材」という,いわばアグレッシブな「攻め」の作業とは異なり,報道へのバッシングに対してひたすら「受け」に回る報道チームの様子は,ドラマティックな映画的素材とはなりにくい。事実,本作は報道自体はチーム作業でありながら,物語としてはメアリー個人の苦悩に収斂しがちで,「スポットライト」に横溢していた,不正を暴くことに対するジャーナリズムの熱量のようなものは,なかなか水面下から浮上できない。その分画面も展開も「スポットライト」に比べるとはるかに地味。クライマックスとなるはずの検証委員会とメアリーの対決も,優れた法廷ものに欠かせない対決的な討論は慎重に排除されており,最後のメアリーの「ジャーナリスト宣言」まで盛り上がることはない。

にも拘わらず,映画を貫くメアリーのジャーナリストとしての信念は,深く画面に刻まれている。委員会からの最後の質問「裕福な家の子弟が,正規の手続きで入隊できた可能性があるとは思わないのか?」という至極真っ当な質問に対して,きっぱりと「思わない」と断じるメアリーの姿は,ブランシェットの神がかった演技によって,圧倒的な重みを獲得している。腰が引けそうになるメアリーに対して「それが君の仕事だ」と支える夫とのやり取りは,名作「ファーゴ」の署長夫婦の姿を想起させる。

唯一,レッドフォードがエネルギッシュなラザーを演じるには歳を取り過ぎていたことが残念だった。新人監督への注目度を考えればやむを得ない選択だったのかもしれないが,結果的にメアリーと組むチームの一体感が薄くなってしまったのは,明らかに誤算だろう。
とは言え,こうした作品がメジャーから生まれる土壌,やっぱり羨ましい。
★★★☆
(★★★★★が最高)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。