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映画「ジーサンズ はじめての強盗」:練り上げられた脚本と名優の邂逅

2017年07月07日 00時00分51秒 | 映画(新作レヴュー)
人類史上例を見ない高齢化が進展しつつある日本にこそ必要な,天晴れな老人礼賛映画が登場した。アカデミー賞受賞俳優3人をトップに置いた豪華な布陣が売りに見えるが,彼らを支える後方の守りも磐石。映画に常に芸術的なひらめきや新しいアプローチを求める人がどう思うかはいざ知らず,人生かくあるべしという思いが満たされる歓びとエネルギーに満ちた素晴らしい96分間だ。

1979年のマーティン・ブレスト監督作のリメイクということだが,「ヴィンセントが教えてくれたこと」で脚本・監督を担当したセオドア・メルフィが書いたシナリオは,細かなエピソードや伏線を巧みに配置しながら,誰もが幸せな気持ちを味わえる終盤の展開で,ひとつ残らずそれらの伏線を回収していく。
特に銀行強盗本番に出くわしてしまった少女が,まるで「社会は高齢者に敬意を払うべきだ」という持論を持つ強盗団のリーダーの言葉を知っていたかのように,真犯人であるウィリー(モーガン・フリーマン)を見逃し,その孫娘にウィンクするシーンは,「ラ・ラ・ランド」のラストシーンを彷彿とさせる。
つっけんどんな態度とは裏腹に,食後にパイは必要よ,とジーサンズに親愛の情を示していたウェイトレスが,注文書の下に置かれた札束を目にするシーンもまた,思いやりと目配せが交叉する幸福感に満ちている。

脇に回った俳優では「アウトサイダー」のマット・ディロンが成長して立派な警官になり,「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のドクことクリストファー・ロイドが良い具合に呆けているのも,共に物語に厚みを加える要素として上手く機能しているが,何と言っても往年のジャズマンに扮したアラン・アーキンをベッドに誘うアン・マーグレットの存在こそが,老人を主人公に据えただけの凡百のシニア向け作品と一線を画すこととなった要因だ。「愛の狩人」のあのむせ返るような香気が,76歳!の今も些かなりとも衰えていないことをスクリーンで確認するためだけでも,50代以上の映画ファンが映画館に足を運ぶ価値はある。年齢相応に枯れない人生を提示したこのサブ・プロットは,存外に重い。

メイン・キャストの3人が,カウチに寝そべりながらテレビに勝手な突っ込みを入れ合うシーン一つ取っても,立派に落語のお題になりそうなこんな映画,今の日本なら阪本順治あたりにチャレンジして欲しいがどうかな?
★★★★
(★★★★★が最高)


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