「バイス」が湾岸戦争を主導した為政者たちを主人公に据えた「表」の顔だとすれば,ロブ・ライナーの新作「記者たち 衝撃と畏怖の真実」は,マスコミが担うべき責任を自覚し,その実態をスクープしようと奔走した現場の記者たちの姿を描いた「裏」湾岸戦争作品と言える。複数の異なる視座から現代史を検証する試みを立て続けに鑑賞できる幸せと,「腐っても鯛」ではないが,国のトップが一万回を超える「嘘」を並べ立てながら,一方でこうして表現者の良心を結集した作品を産み出す国の凄みを改めて噛みしめることとなった。
職人ロブ・ライナーは昨年ようやく劇場公開された「スパイナル・タップ」でデフォルメされて表現されたジャーナリスティックな性向と,「スタンド・バイ・ミー」や「プリンセス・ブライド・ストーリー」などで明らかなストーリー・テラーとしての資質を持ち合わせているが,本作ではその双方が絶妙なバランスで並び立っている。政府の陰謀を暴くジャーナリズムを描いた政治スリラーの古典中の古典「大統領の陰謀」の二番煎じにならぬよう,あえて導入部に車椅子に乗った若い黒人兵士のエピソードを配し,その後取材合戦がヒートアップしてきた頃合いを見計らって負傷前の兵士のエピソードを挟み込む技などは,まさにライナーならでは。ご丁寧に「記者はみんな『大統領の陰謀』の影響を受けている」旨の台詞まで登場するとは,念が入っている。
ライナー自身が演じる支局長以下,ウディ・ハレルソンとジェームズ・マーズデンの記者コンビ,更に元従軍記者として3人をサポートするトミー・リー=ジョーンズからなるチームは,政府に追随するメジャーなマスコミとは異なる主張を行うことによって次第に孤立していく。しかし,次第にペンタゴンを始めとする政府機関から,良心に従って本当の情報を提供する者たちが現れ,やがて彼らとチームが繋がっていく様子は地味ではあるが,実際の映像を盛り込みながら91分というコンパクトな尺にまとめ上げたジョーイ・ハートストーンの素晴らしい脚本と,手練れの役者と演出ががっちりと噛み合った見事な成果と言える。
こんな職人芸と臆すことなく政権批判に踏み込む意気込みがタッグを組んた作品に接すると,改めて我が国のこのジャンルの貧しさに思いが至る。熊井啓の後を襲ってチャレンジすべき冒険者よ,今いずこ。
★★★★
(★★★★★が最高)
職人ロブ・ライナーは昨年ようやく劇場公開された「スパイナル・タップ」でデフォルメされて表現されたジャーナリスティックな性向と,「スタンド・バイ・ミー」や「プリンセス・ブライド・ストーリー」などで明らかなストーリー・テラーとしての資質を持ち合わせているが,本作ではその双方が絶妙なバランスで並び立っている。政府の陰謀を暴くジャーナリズムを描いた政治スリラーの古典中の古典「大統領の陰謀」の二番煎じにならぬよう,あえて導入部に車椅子に乗った若い黒人兵士のエピソードを配し,その後取材合戦がヒートアップしてきた頃合いを見計らって負傷前の兵士のエピソードを挟み込む技などは,まさにライナーならでは。ご丁寧に「記者はみんな『大統領の陰謀』の影響を受けている」旨の台詞まで登場するとは,念が入っている。
ライナー自身が演じる支局長以下,ウディ・ハレルソンとジェームズ・マーズデンの記者コンビ,更に元従軍記者として3人をサポートするトミー・リー=ジョーンズからなるチームは,政府に追随するメジャーなマスコミとは異なる主張を行うことによって次第に孤立していく。しかし,次第にペンタゴンを始めとする政府機関から,良心に従って本当の情報を提供する者たちが現れ,やがて彼らとチームが繋がっていく様子は地味ではあるが,実際の映像を盛り込みながら91分というコンパクトな尺にまとめ上げたジョーイ・ハートストーンの素晴らしい脚本と,手練れの役者と演出ががっちりと噛み合った見事な成果と言える。
こんな職人芸と臆すことなく政権批判に踏み込む意気込みがタッグを組んた作品に接すると,改めて我が国のこのジャンルの貧しさに思いが至る。熊井啓の後を襲ってチャレンジすべき冒険者よ,今いずこ。
★★★★
(★★★★★が最高)