子供はかまってくれない

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映画「しあわせはどこにある」:曲者を揃えた自分捜しの顛末は?

2015年08月16日 11時25分12秒 | 映画(新作レヴュー)
ピーター・チェルソムが監督した「しあわせはどこにある」は,「幸福とは何か?」を研究するため旅に出た精神科医を主人公に据えた,一種の自分捜し劇なのだが,小さなバジェットの作品とは思えない程,出演者が豪華だ。アフリカの麻薬王にジャン・レノ,中国で主人公に一夜の夢を提供する資本家にステーラン・スカルスガルド,それに主人公の脳波を分析する学者にはクリストファー・プラマー。
大ヒット作を持っているという訳でもなく,映画祭に愛されたシネアストでもないのに,これだけのキャリアを誇る名優達を集められた理由の一つには,おそらくチェルソムのフィルモグラフィーに心に訴えかける独自の魅力があったから,ということもあるのだろう。

そんな信頼に応えるべく「しあわせはどこにある」は,寅さんもかくやという夢のイントロデュースから,波瀾万丈の世界旅行まで,破綻なく進んでいく。
主人公が世界中を旅しながらも,最後は「青い鳥は自分の足元にいた」というオチなのかという予感は,比較的早い段階から漂うのだが,それでも最後まで旅に随行してみようという気持ちが薄れないのは,作劇の巧みさと名優達の堅実な演技の賜物だろう。特に,最初は単に嫌味なエグゼクティヴかと思っていたら,どうしてどうして,酸いも甘いもかみ分けた達人として場面をさらうスカルスガルドの相も変わらぬ達者な演技は実に心地良い。

それでも観終わって,良いものを観たという充足感を感じられないのは何故なのか。それはやはり主役のカップルを演じた,サイモン・ペッグとロザムンド・パイクという,当代きっての曲者役者ふたりを活かしきれなかったという恨みに尽きる。
かたや「ショーン・オブ・ザ・デッド」から「宇宙人ポール」まで,オフビート・コメディの秀作に立て続けに出演,「ミッション・インポッシブル」シリーズでも欠かせない役割を確立し,自ら脚本も書く才人と,「ゴーン・ガール」で前代未聞の魅力的な悪女を作り上げた才女。曲者中の曲者ふたりを主人公に配しながら,冒頭の「ハピネス」≒「オペニス」騒ぎとパイクがED治療薬のネーミングで稼いでいる,という下ネタ2題くらいしか笑わせ所がない平板な脚本に,根本的な問題があったのだろう。

ベストセラーになった原作があるとは言え,このキャスティングに対して観客が抱えたであろう期待に応える水準には残念ながら「しあわせはどこにある」は達していない。
でも,チェルソムを庇う訳ではないが,特に「ゴーン・ガール」以後のパイクに対する映画ファンの期待値に応えるのは至難の業であることは間違いない。
ここは,そこまでハードルを上げてしまったデヴィッド・フィンチャーに責任を取って貰うしか方法はないように思うのだが,果たして?
★★
(★★★★★が最高)


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