
映画史上ベスト5に入るといわれている悪女がいる。これが巨匠ビリーワイルダー監督の1944年の名作「深夜の告白」の女主人公バーバラ・スタンウィックだ。
保険金詐欺事件は映画やテレビの2時間ドラマで何度も繰り返し取り上げられている。そのはしりになったのがこの作品だ。時代背景こそ違うが、この映画のもつダークな匂いは何度見ても幻惑させられる。ウディアレン監督のベストワンはどうもこの映画らしい。
深夜のロサンゼルス。フル・スピードで走ってきた車が保険会社の前で止まり、勧誘員ことフレッド・マクマレイがよろめきながら下りてきた。彼は会社の自室に入り、テープレコーダーに向かって上役ことエドワード・G・ロビンソンに宛てた口述を始めた--。
数カ月前、主人公の保険勧誘員は自動車保険をかけている顧客を訪ねた。夫が不在で、夫人ことバーバラ・スタンウィックに会った。翌日再度顧客である夫へのアポイントで訪れたが、夫人しかいなかった。夫人から夫名義の保険が内緒で加入できるかの問い合わせがあった。勧誘員の主人公は保険詐欺の匂いを察知してその場を立ち去る。しかし、夫人は主人公のアパートを訪れ、後妻である自分の辛い身の上を話し、夫を殺してそれを事故死と見せ、保険金を取ろうともちかけた。
最初は当惑する主人公も、美しい彼女の魅力に負けて、ついに計画を手伝う破目になった。そして、経験上あるゆる事象を想定した完ぺきな計画を練る。夫から自動車保険の更新という名目で傷害保険のサインを詐取して保険に加入するが。。。
主要な出演者は少ない。主人公の二人、顧客である夫とその娘、娘の彼氏、保険会社の上司くらいだ。ミステリーの要素を強くもつこの映画ではその全員をうまく活用する。原作「倍額保険」を脚本化するにあたり、ビリーワイルダーは作家としても名高いレイモンド・チャンドラーと組んだ。二人の意見が合わなかったと噂で聞くが、お互いのいいとこどりをした匂いが感じられる。シリアスな雰囲気の中にもビリーワイルダー特有のユーモアのセンスも感じられる。またチャンドラーのきざなセリフも冴える。
保険詐欺を見破る調査員というべきクレームマネジャーを演じるのがエドワード・G・ロビンソンである。これが実にうまい。自分の第6感と綿密な調査に依り、数多くの疑わしい保険請求を退ける。しかし、その一面だけでなく、ユーモアのセンスを残す。ビリーワイルダー監督「情婦」で言えば、弁護士役のチャールズロートンを思わせる。ビリーワイルダーは晩年に入り、ジャックレモンを中心にしたコメディが中心となった。それまでは美男美女のハリウッドスターを中心に配置している。その時でも必ず、腰を据えた脇役に重要な役を演じさせ、その役のセリフに重要な意味を持たせる。そこがうまいと感じる。
世紀の悪女を演じるバーバラ・スタンウィックは2度結婚したけれどレズビアンのうわさがあったという。相手はなんとディートリッヒとジョーン・クロフォードという映画史上に残る名女優だ。ディートリッヒは「セックスは女とするほうがいいけど、女とは暮らせない。」といったそうな。クロフォードが死んだ時、部屋にあった写真はケネディ大統領とバーバラ・スタンウィックらしい。そういうキャラを持つ彼女は悪女にうってつけだ。そのクロフォードのライバルであったベティ・デイビスも悪女の極みをいっていた。
ベティ・デイビスは1908年生まれ、バーバラ・スタンウィックは1907年生まれだ。この二人がハリウッドの全盛時代に大女優として君臨した。日本が戦争で大変なことになっていた時代なのに、海の向こうはすごかった。
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映画史上に残る悪女 | |