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映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「ぼくのお日さま」 

2024-09-16 08:44:53 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「ぼくのお日さま」を映画館で観てきました。


映画「ぼくのお日さま」フィギュアスケートを題材にした小学6年生の少年の成長物語だ。長編2作目の奥山大史監督作品で第77回カンヌ国際映画祭への出品作品だ。主役の少年少女は無名で観るのは初めて、主演級俳優であるコーチ役の池松壮亮、その恋人役の若葉竜也の2人が脇を固める。春先の雪解けの町の風景も映すが、全般的に雪国の風景をパステル調の映像にして見せてくれる。こんな町で育ったら自分はどうなったんだろう感じながら主人公の姿を追う。

雪が積もる田舎町に暮らす小学6年生のタクヤ(越山敬達)は、すこし吃音がある。アイスホッケーでケガをしたタクヤは、フィギュアスケートの練習をする少女・さくら(中西希亜良)が「月の光」に合わせ氷の上を滑る姿に目を奪われる。さくらはコーチの荒川(池松壮亮)のもと、寡黙に淡々と練習をしていた。荒川は恋人・五十嵐(若葉竜也)の住む雪国の町に越してきたのだ。


荒川はリンクの端でアイスホッケー靴のままフィギュアのステップを真似て、何度も転ぶタクヤを見つける。荒川はフィギュア用のスケート靴を貸してあげ、タクヤの練習につきあう。 徐々にうまくなったところで、荒川はタクヤとさくらにペアでアイスダンスの練習をしたらどうかと提案する。

思春期の少年少女のスケーティングを観てさわやかな印象をもつ。
フィギュアスケートを題材にしたこの映画に既視感はない。いい発想だ。奥山大史監督はフィギュアスケートを子ども時代にやっていたそうだ。男の子から少年になろうとする頃の主人公タクヤがまだかわいい。中学に入った時のシーンでは学生服がブカブカだ。同じく、少女になろうとするさくらは少しだけお姉さんでフィギュアスケートの練習をする姿が素敵だ。

雪景色と2人の少年少女がマッチした印象深いシーンがいくつもある。2人がアイスダンスをするシーンで目線を10代の感覚に落として観ると、あの時代にこんな楽しいことあればよかったなあとひたすらうらやましくなる。ドラマ仕立てとしては物足りない部分もあるが、映像美は肌に感じる。


⒈雪国の小さな町
雪がかなり降り積もる町だ。教室から校庭を見ると雪景色で、雪の積もった学校の屋上でたたずむシーンを観ていると別世界だ。そんな町にスケートリンクがある。山が見えているのに、海を見渡す坂の町が映ることもある。一緒の町には見えない。陸屋根の家も多く北海道と推測できたが、架空の街にしていいとこ取りをしているのは徐々にわかってくる。ロケハンに成功している映画だ。

映画を観終わって調べると、どうも小樽近郊のいくつかの場所を中心にロケ地にしているようだ。父が幼少期まで小樽だったのでなぜかうれしい。加えて、雪解けした春先の風景での小さな灯台や昔の赤い郵便ポストが印象的だ。


⒉ペアで踊るアイスダンス
主人公タクヤは雪国育ちでアイスホッケーをやっているので、スケートは普通にできる。ただし、フィギュアスケートは初心者である。しかも、フィギュア用の靴でないとクイックなどの技巧はできない。コーチからフィギュア用の靴を借りての基本指導よろしく徐々に熟達していく。

コーチから2人はアイスダンスをやらないかと言われた時、無口なさくらは本当はイヤだったように見える表情をした。でもだまってコーチに従った。2人の腕前には巧拙があったが、徐々に2人のタイミングがあってくる。タクヤも成長していく。

コーチが2人を凍った湖に連れていく。そこでアイスダンスを踊るのだ。池松壮亮が雪道を運転するクルマでかかるのは60年代のポップス「Goin' Out Of My Head」だ。誰しもが一度は聞いたことがあるだろう。それをバックグラウンドミュージックにして少年少女が湖で踊るアイスダンスのシーンは格別にすばらしい「Goin' Out Of My Head」の組み入れ方が絶妙だ。このシーンとスケートリンクでの2人のアイスダンスを観るだけで映画館に行った価値がある。

⒊少女の複雑な想い
さくらを演じる中西希亜良は鼻筋がきれいな美少女である。麻生久美子が12歳だったらこんな顔をしていたのかと思う顔立ちだ。清純でみずみずしい。演技は素人だけどオーディションで選ばれたようだ。さくらはフィギュアスケートの実技は何度も見せるが、セリフは少ない。自分の想いを表情で見せる。


コーチのへのひそかな恋心、仲間である少年へコーチが指導している姿への嫉妬心、ひそかに思いを寄せる先生が男同士でイチャイチャするのを偶然見た時の嫌悪感をいずれもセリフなくわれわれに表情で示す。この年齢の女の子の心理状態は複雑だ。当然演技は素人なのでむずかしいセリフが控えめでうまくまとめられていると思う。

対するタクヤも話し出すとたどたどしくしか話せない。ウブな感じで好印象を与える。コーチが男性同士のカップルだという男色系の匂いは抑えられた。それはよかった。最小限のセリフで魅せてくれた良品の映画である。
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映画「箱男」 永瀬正敏&浅野忠信

2024-08-27 20:16:58 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「箱男」を映画館で観てきました。


映画「箱男」安部公房が1973年に書いた原作を石井岳龍監督により映画化した作品。裏路地の片隅にあるダンボール箱から世間を覗く男をクローズアップする。安部公房の小説は好きではない。それでも昭和の匂いがする予告編で見る箱男のパフォーマンスが気になる。配役は豪華で永瀬正敏、浅野忠信、佐藤浩市の主演級が揃う。怖いものみたさの感覚で選択する。


ダンボールを頭からすっぽりと被り、街中に存在し、一方的に世界を覗き見る『箱男』。カメラマンである“わたし”(永瀬正敏)は、偶然目にした箱男に心を奪われ、自らもダンボールをかぶり、遂に箱男としての一歩を踏み出すことに。

しかし、『箱男』の存在を妨害する連中に囲まれる。箱男の存在を乗っ取ろうとするニセ医者(浅野忠信)、箱男を追う元軍医の老人(佐藤浩市)、 診療所の看護師葉子(白本彩奈)がわたしを取り囲む。

よくわからない映画だった。
スケールの大きい娯楽作品を見た後で、単純明快でない世界に入り込むのは少々キツイ安部公房の世界だけにわけのわからない人物が登場する。わかって観たはずだが、快適な気分にはなりづらい映画だった。1973年という年号が出てきて、てっきりその時代だと思ったら違う。ノートパソコンに写真映像がおさめられたり、福沢諭吉の一万円札も出てくるので現代だ。室内の照明設計は同じ石井でも石井隆監督作品によくある怪しいネオン街片隅の店で見る薄気味悪い暗さだ。どんよりしたムードで映画は進行する。

「箱男を意識するものは箱男になる。」
世間から逃避した箱男はお気楽でいいなと思ってしまう気持ちはある。ダンボール箱の小窓から世間をながめて、ノートに思ったことを書き殴る。そんな観察自体はしてみたい気持ちもある。でも、風呂に入れないし、不潔だ。身体中がかゆくなるだろう。永瀬正敏が身体にかゆみに耐えられないシーンもある。町で寝そべるホームレスオジサンをいたぶる意味不明な人物がいるようだが、ここでも訳もわからず暴力を振るわれる。さすがに自分からは乖離してしまう世界だ。


ニセ医者も軍医も正体不明。世捨て人の箱男にこだわる。主人公はCONTAXのカメラで写真を撮るし、ニセ医者も町にいる箱男の写真を撮る。暗室でフィルム現像する。古さびれた医院の奇妙な空間になぜか美女が1人いる。セリフに意味不明な発言が多く、もう一歩のれない作品だった。


唯一の収穫は資格のない看護師役の白本彩菜だ。初めて知った。まだ若いけど、3人のメジャー俳優に囲まれても存在感を示す。ブラジャーをとって脱いでいくシーンにはドキドキするし、最近の屁理屈ばかりで脱がない女優陣の中で、美しい裸体と小ぶりなバストトップを見せてくれるのはうれしい。ボリューム感はないけど、男にやる気を起こさせるしなやかさを持つ。数百人の中からオーディションで選ばれたのはうなずける。白本彩菜の今後の活躍を期待する。
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映画「そして僕は途方に暮れる」 藤ヶ谷太輔

2024-08-21 17:17:27 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「そして僕は途方に暮れる」は2023年公開の藤ヶ谷太輔主演のドラマ映画。監督は三浦大輔だ。フリーターの若者が同棲相手とのケンカの後飛び出して、友人や先輩などの家に居候しては飛び出す話だ。公開した時この映画の主人公が滅多にいないだらしのない奴とのコメントを読んで、観るのをやめた作品だ。


Netflixのラインナップに入って何気なく作品紹介を観てこの主人公と自分にある共通点があるのに気づく。ちょっと観てやろうかと思った作品だ。豊川悦司、前田敦子、原田美枝子と脇役はそれなりに揃っている。

フリーターの菅原裕一(藤ヶ谷太輔)は、長年同棲している恋人の里美(前田敦子)に合コンで知り合った女とのLINEのやり取りを見られてしまう。言い合いになり、家を飛び出してしまう。その夜から、同郷の友人、バイト先の先輩や後輩、姉のもとを渡り歩く。

どこへ行っても、ちょっとしたことでキレて飛び出していく繰り返しだ。仕方なく母(原田美枝子)が1人で暮らす北海道苫小牧の実家へ向かう。歓待されるが新興宗教にハマる母にあきれて飛び出す。1人になった裕一が偶然家を飛び出した父(豊川悦司)と久々に再会して誘われて父の家に居候することになる。

いかにもダメ男の物語。同情する要素はあまりない。
でも、登場人物のキャラクターの特徴をうまくつかんでいて割とあきずに観れた。
東京の片隅で暮らす若者と田舎暮らしの老人両方をそれぞれ追っていく。どちらも現実離れはしていない。大きな工場の煙突が目立つ苫小牧の寂れた感がいい。

⒈藤ヶ谷太輔(主人公 裕一)
居酒屋のバイトで暮らすフリーターで恋人名義のアパートで同棲する普通の若者。先輩の紹介の女の子とLINEのやり取りがバレて大目玉をくらって、キレてしまう。そして、一人暮らしの同郷の友人宅に居候させてもらった後も次々と住まいを変える

どこへ行っても、ちょっとしたことでキレる。まったく普通の若者なんだけど、自分のだらしなさを指摘されるとムカついてしまうのだ。荷物をまとめて飛び出してしまう。就職氷河期における非正規雇用の増加で、こんな奴が増えたのかもしれない。人手不足による労働需給の改善で仕事もある現状だけど、正規雇用の安定性とは無縁の若者は今もいる。藤ヶ谷太輔は現代の若者らしく演じる。


⒉原田美枝子(母)
夫が家を飛び出し息子と娘両方とも東京に行ってしまったので苫小牧で一人暮らしだ。クリーニング屋で働いている。冬の北海道は寒い。しかも、リウマチで足が悪い。息子のことを心配してたまに電話する。息子はでない。ところが、息子が実家に帰ってくるとわかるとうれしくて仕方ない。裕一くんは何食べたいと言ってやさしい。姉の話だと、息子はこれまで母親にカネの無尽をしてきたようだ。

そのまま居てもよかったのだろうが、母親はある新興宗教にハマっている。おそらく息子も心の痛手を持って実家に帰ってきたのかと思いあなたも楽になるよと入信を勧める。ありがちな話だ。ヤバイと思って息子は寒い北海道の夜に飛び出す。

原田美枝子は母親役で時おり映画で見かける。認知症の母親を演じた「百花」はよかった。「ぼくたちの家族」でも認知症の母親を演じている。温厚な母親だ。自分と同世代なので、どうしても若い頃のボリューム感あふれるヌードを思い出す。


⒊豊川悦司(父)
妻と別れて一人暮らし。朝から晩までパチンコ三昧で気楽に暮らす。以前カネを借りた人をパチンコ屋で見かけると逃げるように店を出る。偶然あった息子を家に引き込み説教するが、堕落した生活から抜け出す気はまったくない。でも、息子に「電話をすると何かが変わる」と、同棲していた彼女への電話をさせる。確かに変化が生まれる。このいい加減なオヤジとの出会いが何かを変える。この辺りが映画のキモかもしれない。


豊川悦司はいつもながらの長髪姿だ。毎日をパチンコ三昧で暮らす社会の底辺のお気楽男だ。「ラストレター」や「パラダイスネクスト」の役柄が近いかな。先日観たNetflixドラマ「地面師たち」でも同じ長髪だけど、セレブな香りがする。こんな感じで両刀遣いできる俳優も他にいない。昨年の「藤枝梅安」は抜群に良かったな。気がつくと、豊川悦司が出演する映画はほとんど観てしまっている。行きつけの新宿の飲み屋のママが大好きだからというわけではない。演じる役に一貫性がないのもいい。ここでは単なるグータラ男だけど存在感がある。
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映画「ブルーピリオド」眞栄田郷敦

2024-08-11 10:27:39 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「ブルーピリオド」を映画館で観てきました。


映画「ブルーピリオド」山口つばさの人気漫画の実写映画化作品だ。普通の高校生が200倍もの高倍率の東京藝術大学油絵科を目指す姿を描く。眞栄田郷敦が主人公矢口を演じる。一瞬ピンとこないが、千葉真一の次男だと気づく。予告編を何度も観ていたが、最初デカい文字で東京藝術大学と出てきて驚く。ドキュメンタリーかと一瞬思ったが東京芸大(以下簡略化する)を目指して奮闘努力する話のようだ。若い人が目標に向けて一意専心努力する話は好きで映画館に向かう。

高校2年生の矢口八虎(眞栄田郷敦)は仲間と酒を飲みながら夜更かしするのに成績は優秀な要領のいい高校生だ。母親(石田ひかり)からは家計がきびしいので国立大学に行ってくれと言われている。美術の佐伯先生(薬師丸ひろ子)から「自分の好きな風景」を課題に出されるが、ピンときていない。

そんなある時、美術教室で先輩の女子生徒が描く絵に目を奪われる。絵に関心を持ち、普段明け方までの夜遊びで見慣れた渋谷の朝を課題にして絵を描く。その後、関心が深まりロングヘアの同期鮎川(高橋文哉)が所属する美術部に入部する。年がら年中絵を描くようになり、美大志望を考える。家の家計を考え東京芸大の志望を考えるが実力は遠く及ばない。それでも、こっそり父親に頼み美大入試の予備校東京美術学院に入り、東京芸大受験を目指す。


若者が努力する姿は美しい。おもしろく観れた。
東京芸大が東大とは別の意味で超難関であることは誰もが認めている。「ドラゴン桜」とは違うおもしろみがある。既視感はない。原作者山口つばさ東京芸大出身の才女のようだ。単に取材だけでは描けない漫画だろう。主人公眞栄田郷敦と原作者の対談記事を映画を観た後に読んだが山口つばさは顔出ししていない。男と女と設定変わっているが、私小説的要素はあるだろう。本名は非公開のようだ。

これまでの自分の人生で東京芸大の美術系学科出身者には4人出会ったが、年上で同世代ではいない。出会った人たちが合格に向けてどんな努力をしたかは聞いていない。合格まで努力する話が新鮮だ。

主演の眞栄田郷敦がパワフルだ。父千葉真一も兄も格闘技系できっと本人も元来はアクション系だろう。映画を観て長身の江口のりこを見下ろすパターンは珍しいほど身体も大きい。東京リベンジャーズのような不良映画の方が得意なのかもしれない。でも巧みにこなした感じがする。意外に映画館には若者より自分の年齢に近いような熟年も目立ったが、薬師丸ひろ子と石田ひかりの登場には安心感を覚える。もちろん大ファンの江口のりこの美術予備校の教師もいい感じだ。

⒈高校生の渋谷での夜遊び
もともと主人公の矢口八虎は渋谷のスポーツバーで酒を飲みながら観戦して、その後始発までセンター街付近をウロウロする高校生として描かれる。自分も高校時代から文化祭や運動会の打ち上げで仲間と飲んでいたのでまったく抵抗がないOB含めた飲み会では宴会芸もやらされ飲まされた。この映画の高校生のように嘔吐する連中は自分も含めて多かった。

選挙権を18歳としたにも関わらず、飲酒は20歳のままにしているのは愚策と感じる。今回のオリンピックで体操の代表が飲酒と喫煙を理由に代表から外された。今の50代(40代?)から上は奇妙に思った人は多いだろう。自分たちはコンパなどで散々飲んだわけだから。ネット上などで議論されているが、結局は根本的に選挙権与えたのに飲酒が厳禁という矛盾かなと感じる。もっともこの映画は高校生の飲酒だけど。


⒉魅力的な薬師丸ひろ子
美術教師で生徒に対して気の利いたセリフを言う先生が出てきたなと思って、しばらくして薬師丸ひろ子と気づく。髪型がいつもと違い、これがまた魅力的な美術教師だ。萩原健太郎監督の年齢からすると、当然薬師丸ひろ子の全盛時は知らないはずだ。いい起用だと思う。

昔のながらの専業主婦的なお母さん役が多かった。新垣結衣「ハナミズキ」でも「三丁目の夕日」でも「あまちゃん」でもお母さんだ。今回のようなキャリアのある女性役は珍しい。別にファンというわけでもなかったのに、彼女が出てくると心ときめくのは同年代のよしみなのだろう。「セーラー服と機関銃」紅白歌合戦に出てきた時には涙が出た。


⒊高校の美術室と美術の予備校
高校時代、芸術科目は音楽選択だったので、石膏の像などがある美術教室は中学以来で記憶も薄くなっている。主人公は途中から美術部に入ってひたすら絵を描く。画面分割の手法で対比させる映像もいい。「オレは天才ではないので、天才と見分けがつかないくらい描いて」というセリフには予告編から惹かれる

原作者山口つばさも通っていたモデルになる美術の予備校があるようだ。友人と遊ぶシーンでは渋谷ロケだが、新宿ロケのシーンが増える。新宿に予備校があるのだろう。美大受験のためひたすら課題の絵を描く予備校教室という世界は自分が知らない。教師は江口のりこが演じる。親の収入が少なくて国立大学目指すというが、美術系予備校の学費は通常の文系理系よりはるかに高いだろうし、高くないと予備校は絶対もたないだろう。


4.東京芸大受験
エンディングロールでロケ地が気になっていた。さすがに東京芸大ではないようだ。多摩美や名古屋の芸術系の学校などが列挙されていた。スタッフのロケハンの苦労を感じる。

試験を受ける東京芸大入試の課題も容易ではない。数日間にわたる2次試験の課題の完成は精神的にも肉体的にも限界への挑戦だ。裸のモデルもずっとポーズをとるなら安いモデル料ではワリに合わない。過酷な試験というのは変わらないようです。音楽系は幼児の頃からすごい音楽の先生についてスパルタ教育が前提の世界だが、美術はどうなのかなあ?

ただ、この映画を観て違和感を感じたのは、共通のセンター試験に触れられていないこと。合格配点に共通試験が影響がないのか知識がないが、時間の関係で割愛したのか?と感じる。あとは、試験に受かったのはふり出しで大学入学したあとの方がもっと重要なのにと映画が終わった時感じた。実際には入学以降のことも漫画原作では続いているようなのでそれはそれでよかったと感じる。

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Netflix「地面師たち」 豊川悦司&綾野剛

2024-08-04 13:45:35 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
Netflix「地面師たち」を見ました。


Netflixドラマ「地面師たち」を一気に見た。渋谷駅ハチ公口上の大きな看板に「地面師たち」の広告があった。なんとなく気になる程度だったけど、Netflixの画面を見ると気になる。冷やかし半分で見ると、これが止まらない。原作は新庄耕の同名小説で、脚本監督は「SCOOP」「パクマン」大根仁だ。個人的にはファンである。それにしても配役は地面師集団のリーダー豊川悦司、綾野剛をはじめとしていずれも主役級で予算がふんだんに使えるNetflixならではの作品だ。これが抜群におもしろい!

恵比寿ガーデンプレイス裏の古い一軒家がある。その広い土地を巡り、地面師集団が狙いを定める。不動産業者に売りつけようとして架空の不動産取引を仕掛ける。首謀者のハリソン(豊川悦司)はバックで仕切り、デリヘルのドライバー上がりの辻本(綾野剛)、司法書士崩れの後藤(ピエール瀧)が買い主との交渉に立つ。情報屋の北村一輝となりすまし男を用意する手配師麗子(小池栄子)を含めた集団は売主に見せかけた男を用意して、予行演習をして土地決済に臨む。まんまと成功した後、軽いインターバルをあけて次の取引に向かう。


今度は港区高輪の土地だ。高輪ゲートウェイ駅近くの開発エリアに近い女性住職のお寺に目をつける。100億もの大型取引を大手に売りつけようとする。逆に、開発用地を狙っていた大手住宅メーカー開発部門にコネクションをつけ接近していく。開発部長青柳(山本耕史)も別の計画地での開発が没になり待ってましたとばかりだ。

むちゃくちゃ面白い!
これまで見た日本を舞台にしたネットフリックスドラマで1番面白いのではないか。

世間ではいいとされている鈴木涼平のNetflixドラマ「シティハンター」はストーリーが稚拙すぎていいと思えない。感想すら書く気になれなかった。裏社会を描いたNetflix映画もいくつかあったが物足りない。深みのあるストーリーやサスペンス仕立てで、その場の我々の予想を裏切る展開など抜群の出来だ。

実名を隠しているけれども,明らかに積◯ハウスの地面師事件を題材にしているのがわかる。自分も新聞報道だけでなく、書籍などで概要は大筋知っている。舞台になった五反田の土地は自分が生まれた産婦人科から歩いて3分の場所だから人ごとに思えなかった。

当然このドラマで狙った土地は五反田ではない。港区高輪のお寺を舞台に、なりすまし女住職を用意して100億の不動産取引を成立させようとする話だ。地面師たちのキャラクターの前提となるストーリーも用意して、単純にはまとめていないのも深みを持たせる。地面師の首謀者がその悪さを隠すためにこっそりと殺人を犯して関係者を消していく。そのあたりの過程も描く。最後まで残りそうな人物まで消えていく意外性もある。舞台設定をきっちり固めて制作費にお金をかけているのも映像から理解できてリアル感も増している。たいしたものだ。

自分がもうしばらくして鬼籍に入った時の棲家は高輪の寺だ。実は我が家の寺は高輪なのだ。祖父母も両親も眠る。自分につながることが多いので不思議な気分になる。


監督の大根仁も日本映画界にこの企画を出したけれども、断られたとインタビューで答えている。日本映画の場合いろんなしがらみがあって、作れない場合が多い。例えば、「ラストサムライ」「太陽」など皇室がらみのタブーに触れる映画も含めて海外資本でないとつくれない映画が多い。いつも残念だと思っている。今回は土地購入検討のライバルに野村や東急いるよと言ったり、モデル企業は別として実名がずいぶんと出る。Netflixだとやり放題だ。

地面師集団の首謀者豊川悦司は影の実力者らしい雰囲気を出していた。すべてに用意周到で抜け目がない。彼にしかできない役柄だ。綾野剛もいい。地面師になるまでのバックストーリーもよくできているし、偽造師(染谷将太)の使い方も上手い。刑事役のリリーフランキーもワルの匂いを嗅ぎつけるベテラン刑事らしさを醸しだす。コンビの池田エライザも最初はチャラく見えたが、途中から存在感をだした。


日本でメジャーの実力ある俳優が出演して、それなりの予算でいけば、レベルの高い韓国クライムサスペンスに劣らない上質の作品ができるいい例だろう。Netflix頑張れとエールを送りたい。
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映画「大いなる不在」藤竜也&森山未來

2024-07-22 06:51:21 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「大いなる不在」を映画館で観てきました。


映画「大いなる不在」藤竜也認知症の老人で、両親の離婚で疎遠になっていたその息子森山未來が演じるシリアスドラマである。監督は近浦啓で作品を観るのが初めてだ。認知症問題の映画は得意な部類ではないが、藤竜也が主演となると気になる。予告編を観ると、かなり重症のようだ。映画館内の周囲には70代より上で、ヨタヨタ歩くよくもまあ映画館に来るなという老人も目立つ。

映画は時間軸をずらしながら進む。施設に入った父と息子とのかみ合わない会話、父と再婚相手との家庭に息子が訪問した様子などを交互に映し出していく。いきなり機動隊のような面々が銃撃を恐れながら父親の家に侵入しようとするシーンで始まり何だと思うが、その謎は最後に明らかになる。

俳優の遠山卓(森山啓)は九州に住んでいる認知症でケア施設に入った父親陽二(藤竜也)の元へ訪れる。もともと大学教授だった陽二は卓の母親と離婚していた。長きにわたり父と息子は疎遠になっていたが、最近再会した。卓は妻夕希(真木よう子)とともに施設職員の説明を聞いたあと、陽二の自宅に向かう。そこで、再婚した直美(原日出子)と一緒に暮らしているはずだったのにいない。直美の携帯電話に連絡すると家の中で着信音が鳴る。

以前卓が訪問したときには、脈絡のない言葉を話す陽二の一方で後妻の直美は卓を歓待してくれた。家中にメモ書きが貼ってある。認知症映画にありがちで、あったことを忘れないためだ。改めて卓が父親に直美さんはどうしたの?と聞くと自殺したと言う。卓は真実は違うと察して家の中の日記を読み始める。


見応えある作品だ。しっかりとした脚本でセリフも練っている。
藤竜也は一世一代の名演技だ。セリフも多く、80歳を超えた俳優が容易にできるレベルではない。直近に主役を張った「高野豆腐店の春」よりかなり難易度が高いすばらしいとしかいいようがない。

理系の元大学教授でアマチュア無線が趣味。皮肉屋で人の話を素直に聞かない。認知症というより統合失調症的な誇大妄想を感じさせるセリフが目立つ。この大学教授は、いつどのようにして、頭の配線が狂ったのかと思わせる。夫婦仲良いように見えるが、妻に対して冷徹な一面もある。原日出子とのやりとりを見ながら、結婚の時点では藤竜也より格上だった愛妻芦川いずみさんのことを想う。


森山未來の役柄は俳優で一部の場面にその片鱗を見せている。でも、大勢の筋に影響はない。映画内の髪を束ねた自由人的な風貌と比較すると、話すセリフは常識人といった感じだ。自分が同じ立場だったら同じように話すだろう。長期間父親と暮らしていないので、父親の嗜好などはまったくわからない。それなのに父親の突飛な発言にも声を荒げることもなく寄り添う。

突然、父親の後妻の連れ子が来て応対したり、父の面倒も見た後妻の妹と連絡を取ろうとする。その部分には軽い謎を残しミステリー的要素も脚本ににじませる。真木よう子は脇にまわって、主役の時ほどの存在感はない。でも、悪くない。


初老の域に入った自分も映画を観て、今後について考えさせられる。ボケずにいられるにはどうしたら良いかと。舞台は北九州だ。ただ、九州らしいシーンは息子の卓が熊本に訪ねて行った時に映る。桜がきれいな季節に撮ったようだ。以前、自分が天草に行った帰りに熊本の三角から熊本駅まで特別列車A列車で行こうに乗った。海側を列車が優雅に走る。海に向こうに島原の山を見渡す景色だ。なつかしい。最後まで飽きずに観れてうれしい。
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映画「言えない秘密」 京本大我&古川琴音

2024-07-03 17:37:31 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「言えない秘密」を映画館で観てきました。


映画「言えない秘密」は、京本大我と古川琴音主演の青春ドラマ。台湾映画の同名映画のリメイクである。主人公の京本大我は初めて見る。京本政樹の息子だ。古川琴音濱口竜介監督「偶然と想像」とか今泉力也監督の作品で存在感を示してきた。芸能界では決して美女と言うルックスではないが,どこにでもいるその雰囲気に親しみを覚える。今回も古川琴音のパフォーマンスを期待して映画館に向かう。

主人公湊人(京本大我)は,音大の大学生。ロンドンにピアノで留学をして最近帰ってきたばかりで。解体が決まっている旧校舎にいると,素敵なピアノの音色が聞こえてくる。そこには今まであったことのない女子学生雪乃(古川琴音)がピアノを弾いていた。名前は教えてくれないし、携帯を持っていない。


恋人のように親しい女の子ひかり(横田真悠)からちょっかいを出されるが,湊人はピアノを弾いてた女の子の姿が気になってならない。するとその女子学生は教室に入ってきた。追いかけていくと古い校舎の中に入っていた。その後彼女は雪乃と自ら名乗り親しく付き合うようになる。ところが、ある時彼女は突然連絡が取れなくなる。自宅に行くと母親からくるなと言われる。

大学生の頃に目線を落として見ているとすんなり入っていけるラブストーリーだ。
ファンタジーの要素もある。

主人公がもともと付き合っている女性がそれなりに美人系であるのに対して,古川琴音普通の女の子ぽさを醸し出す。魅力的である。京本大我は父親の血を引いてイケメンだが最近どこにでもいる兄ちゃんという感じで普通

付き合っているのに突然いなくなってしまう設定は最近のラブストーリーではよくありがちだ。村上春樹の小説なんかにも多いパターンだけれども,今回はファンタジー的要素が入っていた。ひねりが効いている。それはそれで悪くはない。台湾映画のリメイクと言うが,テイストは先日見た「青春18 × 2」に近い。観客をかるくだましてやろうとする意思が強い。若い人には、こういうラブストーリーは受ける気がする。

主人公が音大の学生なだけに,ピアノを弾くシーンは多い。これはこれで軽快なピアノが聴けてよかった。品を変え、ショパンのピアノソナタが流れる。途中でピアノバトルと言って, 2つのグランドピアノで演奏の優劣を競うシーンがあった。これはこれで面白い。クリスマスのパーティーで主人公2人がロックンロールバンドをバックにダンスを踊るシーンがある。気分良さそうに見える。古川琴音も少しはピアノ練習をしたのだろうか。まともに弾けているようには見えた。

エンディングロールによると、主なロケ地は坂東市らしい。一瞬、どこかわからなくなったが,利根川を示す坂東太郎の坂東かなと思っていると、茨城県の合併でできた市だった。知らなかった。利根川だと群馬県を思い浮かべてしまうが違っていた。


映画の中で主演2人が肩寄せて自転車を気分良く走らせるシーンがある。
バックの清々しい風景やグリーンのサイディングの古めの校舎の雰囲気は自分の肌にあった。
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映画「明日を綴る写真館」 平泉成&市毛良枝

2024-06-20 18:12:36 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「明日を綴る写真館」を映画館で観てきました。


映画「明日を綴る写真館」は名バイプレイヤー平泉成が80歳にして初主演の作品だ。あるた梨沙による同名漫画を原作に、秋山純監督がメガホンを持つ。平泉成と過去に共演してきた主演クラスの盟友たちが脇役に回って共演している。佐藤浩市・吉瀬美智子・高橋克典・田中健・美保純・赤井英和・黒木瞳・市毛良枝とよくぞ集結したものだ。主人公が作品展に出展した写真を見て、若手人気写真家が感銘を受け弟子入りする話だ。心温まるストーリーと想像して映画館に向かう。

岡崎で写真館を営む鮫島(平泉成)が写真コンテストに出品した写真を見て、そのコンクールで最優秀賞を受賞したカメラマン・太一(佐野晶哉)が感銘を受ける。多忙なスケジュールの人気写真家なのに、新規の仕事をキャンセルして岡崎の写真館で弟子入りを志願する。鮫島の写真館に訪れる客と対話を重ね、深く関わる鮫島の姿を見て少しづつ写真を撮ることへの考え方を変えていくようになる。

欠点は多い映画だけど、映画を観た後味は良かった。
遠目に城が見える河川敷で写真を撮っている。いったいここはどこなんだろう?と考えていると、しばらくしてセリフで岡崎だとわかる。賞を連続して受賞する写真家が、地方で写真館を営むカメラマンのもとに弟子入りする構図は不自然だけど、それを言っちゃおしまいだ。

若手俳優がイマイチとの印象を持つし、80代と平泉成と70代の市毛良枝の子供がいくらなんでもこんなに若くはないだろうという不自然さもある。ピアノ基調の音楽がバックで流れつづける。フレーズは悪くないけど、ちょっと流れすぎ。ここまで多いと画面にあっていないフレーズもある。でも、それらの欠点を補うのがベテラン俳優の出番だ。

平泉成の独特の声は耳に残る。いったい何度であっただろう。芸名を知らなくても顔を見たことある人は多いだろう。人情味のある刑事役なんかお似合いだ。自分には西川美和監督「蛇イチゴ」の印象が強い。若い時に全盛時代の岡崎友紀とTV番組「なんたって18歳」でコンビを組んでいたと知り驚く。実は昔から見ていたんだ。ここでも渋い演技を見せてくれる。


市毛良枝が良かった。いかにもこれまでの日本人が理想とする専業主婦の雰囲気だ。好き勝手にやるカメラマンの主人公にピッタリ寄り添う。突然弟子入りしてきた若いカメラマンに対して、母親のように接するそのふるまいが素敵だ。余分なことだが、会社で自分の面倒を見てくれた女性に話し方までよく似ていてより好感度が上がった。


田中健が彼自身とわかるように目が慣れるまで時間がかかった。地元のケーキ屋の店主で、その娘である看板娘を平泉成が撮った写真を見て弟子入りしたのだ。店は流行っていない。店をたたもうかとした時にカメラマンの太一がこうやったらInstagramでよく見えると写真のコツを教える。一気に行列店に変貌する。平泉成はいい歳のとり方をしていて、幅広い役柄に起用されるけど、田中健の場合、逆かもしれない。


佐藤浩市は自らの遺影を撮って欲しいと来る役だ。白髪で最近の主演作「春に散る」「愛にイナズマ」と同じような雰囲気をもつ。その妻役の吉瀬美智子はいかにも主婦らしい感じで以前の美魔女的雰囲気がない。美保純はあの世に行く寸前の老婆の役だ。ポルノ時代から知っている自分は本人と気づくのに時間がかかる。赤井英和はラーメン屋の店主だ。自分が行きつけの飲み屋のママが女優で、どうやら赤井はセリフ覚えがよくないそうだ。それにはうってつけの役だ。

黒木瞳は先日「青春18×2」清原果耶の母親役で出会ったばかりだ。でも、それまで久しく会っていなかった。大女優的に自惚れて主役にこだわっていたのかなあ。脇にまわれば、まだまだ出番は多そうだ。自分とほぼ同世代なのにこの美貌はすごい。弟子入りしたカメラマンの母親役で、現在はウェディングプランナーをやっている設定だ。40代というのには無理があるが、50代半ばと言っても不自然ではない。吉永小百合を思えばまだまだやれる。


いいベテラン俳優が集まった。平泉成はまだまだやれそうだ。
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映画「トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代」

2024-06-13 19:30:37 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代」を映画館で観てきました。


映画「トンバン 音楽家加藤和彦とその時代」は愛称「トノバン」加藤和彦が歩む音楽人生をフォーククルセイダーズ時代から追っていくドキュメンタリーだ。盟友北山修、高橋幸宏、つのだひろをはじめとした音楽仲間やプロデューサーたちのインタビューや貴重な演奏フィルムを通じて加藤和彦の人生に迫る。言い出しっぺは亡くなった高橋幸宏のようだ。

自分が小学生だった時、ザ・フォーク・クルセダーズ「帰ってきたヨッパライ」が大ヒットした。小学校の教室でもみんな「オラは死んじまっただあ」と歌っていた。一緒に組むようになるいきさつを北山修が語り、一緒にデュエットした名曲「あの素晴らしい愛をもう一度」の誕生秘話についても触れる。はしだのりひこはすでに亡くなっている。フォーク全盛時代の吉田拓郎や泉谷しげるのセッションをアレンジャーとして仕切り、まだアマチュアだった松任谷正隆をバックに起用する。

「サディスティック・ミカ・バンド」の演奏は英国でもBBCで放映されて評価される。高中正義や高橋幸宏といったミュージシャンもミカバンドで育っていく。映画に映るBBCの放送での演奏はエキサイティングだ。名プロデューサーだったクリストーマスのインタビューもある。なんとミカと不倫をして、離婚のきっかけを作った話は初めて知る。


ミカと離婚した後に安井かずみと再婚した。加藤和彦はよりハイセンスになり、音楽だけでなくファッションなど多方面にわたって影響力を持つようになる。ファッション界の大御所で安井かずみの親友だったコシノジュンコや料理界の重鎮三国清三シェフもコメントを寄せる。そのころ竹内まりやのデビューにも関わる。そして、集大成としてヨーロッパ3部作を発表するあたりまでを取り上げる。

常に先進的であった加藤和彦の人生がよくわかるドキュメンタリーだ。
最後の「あの素晴らしい愛をもう一度」はすばらしく、歌う老いた北山修の姿を見て思わず落涙してしまった。坂本美雨とウッドベースを弾きながら歌う石川紅奈にも感動した。


小学生の時に見た加藤和彦はのっぽのお兄さんというイメージだった。幼心に一発屋的な印象を持っていたが、「悲しくてたまらない」も名曲でヒットした。その後、ベッツイ&クリス「白い色は恋人の色」北山修と歌った「あの素晴らしい愛をもう一度」のアコースティック調の歌を作曲してすごい人なんだなあと思っていた。そんな頃からはや50年以上経つが、昨日のことのようだ。


70代前半には加藤和彦は音楽界で一目置かれていたと思う。ミカバンドでの活躍を経て、安井かずみと結婚した後はオシャレの雑誌などに2人が取り上げられる頻度が高くなる。その頃、雑誌で加藤和彦の家が取り上げられて◯千枚のレコードコレクションが写っていた記憶がある。すげえなあと思っただけであったが、そのコレクションのおかげで音楽的素養が広がったとこの映画を観て思う。自分はヨーロッパ3部作の存在を知らなかった。タンゴやオペラなどの素材を取り入れる。これは聴いてみたい。


⒈サディスティック・ミカ・バンド
サディスティック・ミカ・バンド時代が自分にとっては関わりが少ない。典型的なロックンロールのリズムの「サイクリングブギ」は当時聴いたが、普通にミカバンドのLPはじっくり聴いた訳ではなかった。ドラムス高橋幸宏、ギター高中正義の2人に加えて、キーボードの今井裕とベースの小原礼を加えたメンバーのエキサイティングなセッションに改めて驚く。正直言ってミカはお飾りのようだけど、バンドの音色は当時の日本最強だろう。

高中正義はこの後ソロデビューから延々と追い続けていくが、それ以前の世界に及ばなかったことを悔やむ。高中正義の加藤和彦を追悼するギターソロは感動する。


⒉フォークのアレンジャーと竹内まりや

吉田拓郎「結婚しようよ」のセッションに松任谷正隆が加わっていたのは、松任谷正隆のエッセイを読んで知っていた。加藤和彦が関わっていたバンドコンテストに松任谷正隆が参加して、加藤和彦が誘ったのだ。とんでもない恩人である。泉谷しげるの代表曲「春夏秋冬」のバックをアレンジしたのが加藤和彦で、映画の中ではレゲエを基調にしたアレンジの曲も流れている。ジャンルの幅の広さがよくわかる。当時は加藤詣と言って、若手ミュージシャンが加藤和彦のところへ挨拶に行くことのがよくあったと泉谷しげるが語る。


竹内まりやがデビューする際に、こういう音楽家と組みたいというリストのトップが加藤和彦だった。それが実現して満面の笑みを浮かべる竹内まりやの写真が印象的だ。ミカバンド時代の「サイクリングブギ」加藤和彦と竹内まりやが並んで歌い、横で高中正義がギターを弾く映像が登場すると思わずワクワクする。20代の竹内まりやがピョンピョン跳ねる。


⒊料理
現役当時は知らなかったが、加藤和彦は料理にもうんちくがある人だったようだ。「料理屋に行った時はいちばん高いものを注文しないとわからない」と。三国シェフは、料理と音楽は似ているとのたまう。いずれも素材の組み合わせが重要だとする。なるほど。加藤和彦の行きつけの京都の料理屋ささきでは太巻が名物だ。これだったら加藤が気にいるだろうというポタージュスープにうなぎを加えた一品が映る。

加藤和彦があらゆることにクリエイティブだったことがよくわかるドキュメンタリーだった。「世間の一歩先でなく、半歩先を目指す」と言っていたそうだ。この映画を観ると、常に現状にとどまらず、ずっと先を常に見据えていたのがよくわかる。
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映画「告白(コンフェクション)」 生田斗真&ヤン・イクチュン&山下敦弘

2024-06-02 15:17:47 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「告白(コンフェクション)」を映画館で観てきました。


映画「告白(コンフェクション)」は、雪山の山小屋を舞台にしたサスペンス映画だ。生田斗真と、韓国のヤン・イクチュンのW主演で,監督は山下敦弘である。原作は「カイジ」の福本伸行カワグチカイジのコンビ。映画と雪山サスペンスの相性は良い。古くは黒澤明が脚本に回った三船敏郎主演「銀嶺の果て」,井上靖原作「氷壁」,松本清張「ある遭難」など名作ぞろいで、いずれも面白い。それなので、雪山を舞台にしたサスペンス系と知ると、すぐさま映画館に向かいたくなる。

雪山で遭難しかかっている2人がいる, 2人は大学の山岳部の同期で卒業して16年になる。元留学生だったジョン(ヤンイクチュン)がもう自分はダメだと思い,思わず16年前に2人の同期で山で遭難をしたさゆりのことを自分が殺したと浅井(生田斗真)に告白する。


何とか九死に一生を得る頃吹雪が和らぎ、山小屋が見えてくる。2人はたどり着いて生き延びる。しばらくして,ジョンは人を殺した告白をしたことを後悔するようになる。2人の関係は徐々に悪化していき,気がつくと、疑心暗鬼の中ジョンが刃物を持って暴れ出す

ホラーのようなテイストを持つサスペンススリラーである。
雪山サスペンスであっても,雪山自体を映すシーンは多くはない。ほとんどは山小屋の中のシーンである。実質的に室内劇である。だからといって閉塞感に満ち溢れているわけではない。舞台でこれを演じようとしても不可能であろう。強烈な暴力描写は山小屋の中の空間を隙間まで最大限に使い切る。

山下敦弘監督は観客を驚かせる場面をいくつも揃えて,ドキドキさせる。恥ずかしながら,思わず大きい声を出す場面が2回ほどあった。お互いに疑心暗鬼にとらわれる男の狂気がこの映画のテーマだ。室内劇に終始して、前哨のストーリーは短いので最近には珍しい73分の放映時間だ。

ヤンイクチュン自ら監督と主演を演じたキネマ旬報ベストテンで1位となった「息もできない」からはや14年となる。高利貸しの取立て屋を演じて強烈な暴力描写で我々を驚かせた。韓国のヤミ金融って怖いなあと感じた。ある時期から日本映画への出演も増える。「あゝ荒野」も良かった。ここではホラー映画のゴーストのように不死身でしつこく追ってくる気味の悪い役柄をうまくこなした。


元留学生のヤンイクチュンは,殺したことを元同期が知ってしまったことを悔いている。もしかして誰かに話すのではないかと。生田斗真はそういった気配を感じて殺されるのではないかと逃げ回る。やがて将棋の駒がぶつかるかのように2人の間に格闘が生まれる。延々と山小屋の中でヤンイクチュンが常に追う。追っかけごっこは恐怖の波状攻撃のようにエスカレートする。その間、ハラハラドキドキする場面が続く。


果たしてこの映画はどうやってクロージングするのだろうかと考え始めていく。自分の推理は途中で外れる。一旦外したと思った後に,作者はひねりを加える。そして最後の結末は意外な感じで終わっていく。なかなかよく考えて作ったストーリーだ。
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映画「ゲバルトの杜 彼は早稲田で死んだ」

2024-05-27 18:35:39 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「ゲバルトの杜 彼は早稲田で死んだ」を映画館で観てきました。


映画「ゲバルトの杜 彼は早稲田で死んだ」は1972年11月革マル派の集団から中核派のスパイという疑いを持たれてリンチの末亡くなった早稲田大学2年生川口大三郎さんの話を中心に学内での内ゲバを描くドキュメンタリーである。監督は代島治彦だ。リンチの再現映像も組み込まれている。立花隆が綿密に調べて書いた「中核と革マル」を読んで、当時の大学構内での内ゲバの酷さは知っていた。自分は学生運動の連中は人間のクズと思っているクチで、大嫌いなやつらだが、怖いもの見たさで映画館に向かう。

早稲田大学第一文学部校舎の学内で、革マル派の闘士に囲まれた早稲田一文2年生川口大三郎さんがリンチを受ける再現映像からスタートする。当時、早稲田大学の自治会は革マル派によって牛耳られていた。川口さんは中核派からスパイで侵入している疑いをもたれて、オマエの同志は誰だと拷問を受けている。次々にゲバ棒で叩かれる。リンチは延々と続き、そろそろ終えようとした時に、川口さんがグッタリする。あわてて蘇生措置をしてもむずかしい。唖然とする革マル派の闘士を映し出す。


再現映像の後は、当時の学生集会などの映像が実際に残されていて、それをドキュメンタリータッチに編集する。「ゲバルトの杜 彼は早稲田で死んだ」を書いた樋田毅をはじめとした当時の闘士たちの証言だけでなく、池上彰や佐藤優などもコメントを寄せる。この当時、それぞれの派同士の内ゲバで、100人以上が亡くなった。悲惨である。当時学生運動にうつつを抜かしたのは本当にクズな連中だ。

思ったよりもリアルで興味深い映画だった。
1960年代から1970年代の学生運動の歴史も日本現代史の暗部として語り継ぐべきものだとおもう。この映画を観ても、何てクズな奴らだと思うけど、みんな狂っていたのだ。川本三郎「マイバックページ」のように、現代の俳優が演じて当時の出来事を映すのもいいが、この映画には早稲田大学内での学生集会を映す8ミリ映像が多い。よくぞ残していたものだ。長髪の学生たちの風貌が、いかにも70年代前半だ。川口さん死亡事故のあと革マル派のトップ田中敏夫が吊し上げをくらう映像もある。そのため、リアル感が強くなる。


文学部にできた新しい自治会のトップである原作を書いた樋田毅が、革命であれば暴力も肯定する革マル派に対抗して非暴力思想で一般学生を集めた。樋田の立場が映画の基調になる。ただ、非武装の考え方自体が気にくわないと思うかつての闘士である論客もいるようだ。

映画内でインタビューを受ける当時の闘士は比較的現代のリベラルと言われる人たちだ。著者の樋田毅朝日新聞で長年幹部だったし、岡本厚「世界」の編集長の後岩波書店の社長になる。革マル側で親友を襲撃で亡くした石田英敬はフーコーを扱う元東大教授だ。

その他の元闘士も含めてインタビューされている部屋は大量の書物に囲まれたそれなりのレベルの生活をしていると思しき印象を受ける。それぞれの顔に鋭角的雰囲気を感じない。穏やかな印象だ。まさに「リベラル」という名で現在も金儲けしている人種だ。ピケティ的な言い方をすると「バラモン左翼」と言っても良いだろう。そんな嫌味な部分は強くても、当時を回想するみんなの言い分が興味深い。


たった5~7年くらいしか自分の歳と変わらないのに、70年代後半に入学した自分の大学にはほとんど学生運動系の立て看板はなかった。教室の中に飛び込んでくる変な左翼学生を数回見たが,ほとんどいない。早稲田では見たことはある。でも、学生運動に毒された早稲田に進学した高校の同期はいない。

一体70年代前半の異常な学生は何だったのだろう。ところが,自分と同じ時期に大学に通った佐藤優や百田尚樹のような同志社の同窓生の文章を読むと,学内に左翼学生が大勢いたようだ。ずいぶんと東西とで違ってたものだ。京都にはやっぱり左翼が多いのかなあ。
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映画「碁盤斬り」 草なぎ剛&白石和彌

2024-05-22 21:21:39 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「碁盤斬り」を映画館で観てきました。


映画「碁盤斬り」草なぎ剛主演の時代劇。メガホンは時代劇初の白石和彌監督が取る。監督の作品は必ず観るようにしている。予告編で古典的仇討ちの色彩を感じ取る。ストーリーには碁が絡む。大枠としては、太宰治「走れメロス」のような物語の構成である。時代劇となると年齢層が上がる。根強い時代劇ファンが映画館にも目立つ。これはこれで良いことだ。

江戸の貧乏長屋に暮らす浪人柳田格之進(草なぎ剛)とその娘お絹(清原果耶)は故郷の彦根を離れて暮らす。ひょんなご縁で大店の主人萬屋源兵衛(國村隼)と囲碁を通じて親しくなる。


故郷から同僚の武士(奥野瑛太)が来訪して過去に彦根を離れた理由がわかり,仇討ちをしようと旅立とうとする。萬屋の主人と碁をうっている部屋でなくなった50両のお金のありかがわからず,柳田に盗みの嫌疑がかかる。清廉潔白の柳田は無罪を主張するが,お金は見つからない。吉原遊郭の主(小泉今日子)にお絹を人質にして50両を借り、萬屋の弥吉に金を渡して仇討ちの旅に出て行く。

典型的な時代劇を現代の人気俳優と人気監督で撮った作品である。
十分堪能させてもらった。

松本幸四郎のわざとらしい演技でレベルを落とした「鬼平犯科帳」よりは出来が良い。演技派として力をつけている草なぎ剛もよく見えた。

時代に応じて的確にセットに落とし込んでいる。やじ馬町人が多い貧乏長屋も女郎が多い吉原遊郭の雰囲気も巧みに映像に反映されている。すると背景がよくできているので登場人物の存在がリアルになる。陰影を強調した撮影もよかった。

⒈碁盤斬りの題名
残念ながら自分は囲碁には明るくない。碁盤の上に映し出される対決の形勢は全く白黒で見分けがつかない。的外れかもしれないが,今回は囲碁を巧みにストーリーの中に盛り込んだ話だと感じる。國村隼と戦う場面だけでなく、最終的に斉藤工と草なぎ剛が碁で対決する場面なども含めて,形勢の有利不利をうまくストーリーの中に盛り込んでいた。

囲碁場面が多いので,題名が出たと思ったら,意外なところで題名の根拠がわかる。これはうまい!


⒉時代劇の典型
毎度同じような題材になるのは仕方ないだろう。それをわかって誰もが見に来ている。今回は仇討ちだ。亡くなった妻は自ら身投げしたわけだが,そのきっかけを作った男(斎藤工)を討つのが今回のテーマである。仇となる武士が弱いと,話が盛り上がらなくなる。相手も剣で相当な力を発揮する。囲碁もうまい。手怖い相手でないと観ていてドキドキしない斎藤工は割とチャライ役をやることも多いが,今回は荒くれ者の役をうまくこなしたと思う。


加えて、市村正親賭け碁の胴元の親玉を演じる。この使い方もうまい。いかにも江戸時代の任侠の男だ。現代時代劇としてはワンランク上の出演者が揃えられた。

⒊走れメロス
太宰治「走れメロス」では,主人公が妹の結婚式を見届けるために3日その場を離れて戻ってくると約束をする。もし戻ってこなかったら、親友の男を殺してもいいと言って、主人公は旅立つのだ。今回は,もし自分が戻って来れなかったら,娘を小泉今日子が主の吉原遊郭の遊女として働かせても良いと言う約束のもとに旅立つ。


小泉今日子に貫禄を感じる。清原果耶は自分が好きだった「青春18×2」で魅力的な主人公を演じた。それに比べると影が薄いが、演技の幅を広げた印象を持つ。
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映画「辰巳」 遠藤雄弥

2024-05-16 18:19:01 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「辰巳」 を映画館で観てきました。


映画「辰巳」裏社会に生きる若者の仲間割れを描く現代のヤクザ映画。「ONODA 」小野田少尉を演じた遠藤雄弥が主演の辰巳を演じる。小路紘史監督の作品は初めて、監督自らのオリジナル脚本である。遠藤雄弥とちょい役で出る足立智充以外は知らない俳優ばかりだ。公開して久しいが、ずっと気にはなっていた。低予算の自主映画で感じる陳腐さを心配したが、その懸念は吹き飛んだ。

裏稼業で働く孤独な辰巳(遠藤雄弥)は、ある日元恋人・京子(龜田七海)の殺害現場に遭遇する。一緒にいた京子の妹・葵(森田想)を連れて、命からがら逃げる辰巳。片や、最愛の家族を失い、復讐を誓う葵は、京子殺害の犯人を追う。生意気な葵と反目し合いながらも復讐の旅に同行することになった辰巳は、彼女に協力するうち、ある感情が芽生えていく(作品情報引用)


序盤戦から電圧が体に響くレベルの高い作品となっている。よかった。
で生きるヤクザ集団の話だ。といっても、規模の大きなヤクザ集団の抗争をとり上げるわけではない。傘下組織レベルの男たちが仲間割れして殺しあうのだ。主人公辰巳は殺人があった後の始末が主な仕事だ。

取引する麻薬の数の辻褄が合わず、誰が犯人かと疑心暗鬼になり、巻き添いをくって女性が殺される。一方で殺した男の兄弟が殺された女の妹に殺される。徐々に殺し合いで入り乱れていくのだ。ある意味、辰巳も双方の争いに割をくった形だ。


理屈で動いているような連中ではない。ヤクザではない女も一緒だ。やっていることが全てハチャメチャでまともじゃない。瞬間湯沸かし器のように怒って暴れるアナーキーな連中ばかりだ。その連中を手持ちカメラで追う。臨場感がすごい。

あまり知られていない俳優が揃って低予算だと、軽い映画になって物足りないことが多い。ここではそうならない。俳優にもカネを使っていない上、ロケ地は廃車工場とか、セメント工場とか波止場で、高級車をつぶしたり海外ロケが多い韓国アクション映画のような予算取りではない。

それでもヤクザ役の俳優たちの熱気がすごく、パワー全開である。不自然さを感じさせない演技力で昇華する。演技力小路紘史監督の演出力も効いているのだろう。今回1番の悪役倉本朋幸「仁義なき戦い 広島死闘編」での千葉真一のように凶暴で猛獣性を兼ね備えていた。各俳優にこれをきっかけにメジャーになろうとする上昇志向を感じた。


最後に向けて,新宿歌舞伎町の風林会館近く裏手のごちゃごちゃした路地が映し出されるのに気がついた。あやしいエリアだ。自分も何度か行っている「上海小吃」という中華料理屋がある。気の利いた人が接待をしてくれたこともある店だ。店内がバトルの場面で使われているので驚いた。エンディングロールで「上海小吃」の名前が出てきて間違いないと確信した。よくロケさせてくれたなあ。そのおかげでこの映画の詰めが一層よく見えた
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映画「鬼平犯科帳 血闘」 松本幸四郎&中村ゆり

2024-05-12 07:55:44 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「鬼平犯科帳 血闘」を映画館で観てきました。


映画「鬼平犯科帳 血闘」は、池波正太郎の原作を映画化した松本幸四郎主演の時代劇。同じく、池波正太郎原作の「藤枝梅安2」のラストで、突如として松本幸四郎が登場し,次回「鬼平犯科帳」が映画化されることがわかった。

鬼平こと長谷川平蔵は実在の人物である。1780年代後半に放火犯や盗賊を取り締まる火付盗賊改方として活躍をした。歴史資料を見て注目したのが池波正太郎である。その原作をもとに松本幸四郎の伯父にあたる中村吉右衛門がテレビシリーズで人気を得た。昨年の「藤枝梅安」がよくこの作品の公開を楽しみにしていた。早速映画館に向かう。

長谷川平蔵(松本幸四郎)が若かりし頃に世話になった居酒屋の娘・おまさ(中村ゆり)が密偵になりたいと申し出て来る。平蔵はその願いを退けるが、おまさは平蔵が芋酒や『加賀や』の主人と盗賊の二つの顔を持つ鷺原の九平(柄本明)を探していることを知り、独断で探索に乗り出す。九平を探すうちに凶賊・網切の甚五郎(北村有起哉)の企みを知ったおまさは首尾よく網切一味の中へ入り込む。しかし、おまさは絶体絶命の危機に陥る。(作品情報 引用)


典型的な時代劇。でも,期待したほどではなかった。
お偉いさんでありながら,普段は民衆の中に入り込み一緒に遊ぶ。大衆的な奉行的人物を日本人は好む。鬼平が登場するとなると,映画館の中の年齢層が一気に上がる。下手すると最年少ではないかと、60代の自分が思う位だ。時代劇なので、娯楽として楽しめれば良い。夜に「火盗」という提灯を下げた男たちが出てチャンバラ劇を演じるのは楽しい。そう思うけど,「藤枝梅安」があまりに良かったので,逆に期待はずれだなあ。


鬼平こと長谷川平蔵がしゃべる言葉が極めてわざとらしいべらんめぇ調で喋ってるつもりだが、不自然だ。松本幸四郎お坊っちゃん育ちで,こんなセリフを話すにはちょっと場違いかもしれない。極悪な盗賊の頭が相手なので,剣の修羅場も多々ある。面倒な相手のところに,鬼平が1人で行くなんておかしいなと思ったり、こんな場面は現実にはありえないだろうな、と思う部分は多々ある。時代劇なので、それは仕方ないだろう。松本幸四郎の剣のさばきは決して悪いわけではない。ミスキャストだとも思わないけれども、響いてこない。

その一方で、中村ゆり,松本穂香,志田未来の3人の女性陣が良かった。特に中村ゆり腰が据わっている。度胸がある。そんな要素を備え、しかもこの美貌である。考えてみると,中村ゆりの近作はほとんど見ている。元々美形だが、40代になり見るたびごとにその魅力を増している。この作品での中村ゆりは特に美しい。銀座の高級クラブのママのような雰囲気と貫禄すら感じる。

自分を「引き込み女」と称する。引き込み女とは盗賊が強奪に入るお店に、事前に使用人として入り込んで盗賊の手助けをする女である。鬼平の若い時から、よく知っている居酒屋の娘おまきと言う女を演じている。おまきは、盗賊の集団に密偵として入る。最終的に危機一髪を鬼平が助ける構図である。


松本穂香,志田未来、いずれも民衆の着物姿が様になっている。しかもかっこいい。一瞬どっちがどっちだかわからなくなる位この2人が似て見える。美しい女性陣3人を見るだけでもいいと思って、映画館に向かうのも悪くないだろう。

CGであるが、江戸の浅草付近を俯瞰的に映すのは良い感じだ。仮に東京スカイツリーが江戸時代にあったらこんな感じに上から見えるだろうとする映像が出る。グルメだった池波正太郎を意識して、居酒屋の芋酒や軍鶏鍋も映す。馬による移動はあるかもしれないが、クルマのない時代にピンチになった鬼平を助けに助っ人がすぐさま到着する光景はありえないと思うけど、娯楽の時代劇だからいいんじゃない。
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映画「悪は存在しない」 濱口竜介

2024-05-04 15:47:14 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「悪は存在しない」を映画館で観てきました。


映画「悪は存在しない」濱口竜介監督の新作。ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を受賞しており、前評判が高い。音楽家の石橋英子から即興の音楽に合わせた映像づくりを持ちかけられたようだ。でも、「ドライブマイカー」で名を上げた濱口竜介監督の作品なのに、この上映館数の少なさはどうして?と思ってしまう。出演者に知っている名前がいない。ここまでになるのは珍しい。素人も多いようだ。

長野県の高原地帯の集落で巧(大美賀均)とその娘・花(西川玲)は、自然に囲まれて慎ましく暮らしていた。しかし、彼らの住む近くにグランピング場を作る計画が持ち上がる。コロナ禍のあおりを受けた芸能事務所が政府からの補助金を得て計画したものだ。住民説明会で主催者側の男女が計画の説明をするが、運営方法や合併浄化槽の位置などで紛糾する。


芸能事務所の社長やコンサルタントを含めて打合せをして、交渉妥結のための妙案をもって再度住民に会いにいく。


期待したほどまでは引き寄せられなかった。
コロナの補助金目当てで田舎の集落に施設を作ろうとする芸能事務所と地元住民との対峙がテーマである。交渉する芸能事務所の面々にも焦点をあてる。登場人物の描写には時間をかける。最終局面の前におおよそのことがわかってくる。いくらコロナ補助金目当てとはいえ、何でこんな施設をつくるのかな?という疑問が浮上する。でも、それは置いておこう。

最初は集落の人間をマッタリと映す。なんだかよくわからないなあと思っていると、住民説明会の映像になる。最初の見どころだ。施設をつくるにあたってはよくありがちなやりとりが続く。説明側が劣勢だ。あとは劣勢のリカバリーのために、芸能事務所の社長と相談して、住民の中心人物を管理人で雇おうとする案をもって再訪する。でも、事務所側の2人はノっていない。こんな事務所辞めてしまおうと思っている。ある意味最後の仕事だと思って、現地に乗り込むのだ。

主役は高原地帯の集落で生活する親子で住民を中心にストーリーは流れる。ただ,一方的な視点ではなく,反対側の芸能事務所側の人物像にも迫っている。その辺は気配りがされている。最後の仕事だと思って、集落に乗り込んでいった芸能事務所の男が,現地で便利屋的存在の主人公を見習って薪を割るシーンがある。最初はうまくいかない。失敗が続いた後に,コツを学んで薪をスパッと割る。妙にこのシーンには腑が落ちる。


ただ,最後に向けては正直よくわからない。別に映画の意味を求めなくてもいいと思うけれども,何をどう考えているのか?この辺はよくわからない。濱口竜介監督の今までの作品にも訳もわからない行動を起こす登場人物がいた。ここまでよくわからない人物ではなかった。ファンタジータッチにしたかったのか?
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