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映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「サンライズサンセット」 菅田将暉&井上真央

2025-01-20 08:16:27 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「サンライズサンセット」を映画館で観てきました。


映画「サンライズサンセット」楡周平原作の「サンセット・サンライズ」を菅田将暉主演で映画化。宮藤官九郎が脚本を手がけ、岸善幸監督がメガホンを持つ。東京の企業に勤務する釣り好きの男性が、コロナ禍によるテレワークを機に、三陸海岸の格安物件に移住する。キャストはそれなりに豪華。宮城女川出身の中村雅俊が地元の言葉が使えて楽しそうだ。

新型コロナショックの2020年春、南三陸の町役場に勤める関野百香(井上真央)は空き家プロジェクトの担当に任命される。船頭の義父関野(中村雅俊)と相談して率先して空き家を賃貸にするため4LDK・家賃6万円でネットに募集広告を出す。すぐさま東京勤務で釣り好きの晋作(菅田将暉)がリモートワークで使えると反応して三陸に内見にくる。広くて家具家電付きの家を気に入るが、とりあえずお試し移住となる。
ところが、コロナ禍でよそ者を嫌がる地元民は晋作が住み移ることに反発する。晋作は上司である社長(小日向文世)からこの事例を全国で成功させようと厳命を受けるが、地元民との小競り合いが起きてしまう。

途中緩慢で時間も無駄に長くなり予想ほどにはいいと思わなかった。
詰め込みすぎなのかな?ムダな場面が多いのか、編集が悪いのか?もったいない気もする。何度も行った三陸の海を見れたのはうれしい

三陸の海辺の景色は美しい。ただ、暗黒のコロナショックで日本中が震撼する時期である。神経質な日本人がコロナを恐れて、次から次に行動が制限される。地方では都会からの侵入を拒んだ。みんながマスクを強要されるその時代を皮肉りながらストーリーが進む。もともと過疎化がひどいこのエリアでは空き家が目立つ。外部からの受け入れに関しての町の人々の気持ちは矛盾だらけである。

また、東日本大震災で大きな津波の被害を受けたエリアが舞台である。家主の百香は津波で夫や家族を失っている設定で、一緒に暮らす義父(中村雅俊)とは血が繋がっていない。そんな百香には地元の男たちにファンが多いけど、移住した晋作が徐々に百香に近づいていく設定だ。ヘラヘラした菅田将暉はいつも通りだが今回は特筆すべきところは少なく普通。井上真央は最近出番が少なくなったけどまだまだかわいい


好かないのが地元民がたむろう酒場での地元民の閉鎖的態度だ。わざとだと思うけど、竹原ピストルも池脇千鶴も面倒だなと思わせる言葉を連発する。それにしても池脇千鶴は太ったね。脚本の宮藤官九郎はこういうのが東北人の悪いところだというセリフも出す。でも、わかっていても竹原ピストルの店主が営む居酒屋の雰囲気にはどうものれない。「サバカン」の時は良かったけどなあ。

移住先の隣家に住む白川和子の使い方はうまかった。往年の日活ロマンポルノでの団地妻で名を上げた時代を知っている人も少ないだろう。本当におばあさんになったけど、映画にはこういう年寄り役も必要だ。「恋のいばら」「春画先生」にもでてきて独特の味を出す。ここではパチンコ好きのおばあさんで、パチンコを打ちながらあの世に行ってしまい、その家が空き家になり1つの物語になる。

先日身体に発疹があり病院に行って待合室で座っていたら、隣にいたおばあさんがものを落としたので「おばさん落ちたよ」と言って顔を見たら反応がない。目がうつろで意識がない。その時の症状と白川和子が意識を失う場面とまったく同じだった。結局救急車で運ばれて行ったが、人間が死ぬのはこんな感じなんだと思った。


中村雅俊がノッテいる。地元だもんね。女川町生まれの石巻高校出身で漁師たちが身近にいた環境で育ったのでうれしかったんじゃないかな。ネットを見て小日向文世が付き人だったのを初めて知る。船上のパフォーマンスはいつもと違う海の男だ。自分は東北金華山に3回行けば一生カネに困らないと言われて実際に実行した。鮎川港から金華山にいくのが通常だが、震災前に女川町から船で行ったこともある。その時に女川の海辺にある中村雅俊記念館にも行った。それも津波で流されてしまったのは悲しい。
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映画「敵」 長塚京三

2025-01-19 16:56:18 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「敵」を映画館で観てきました。


映画「敵」筒井康隆の原作を吉田大作監督が長塚京三主演で作ったモノクロ作品だ。妻に先立たれた一人暮らしの77歳の元大学教授の日常を描いている。瀧内公美と紅白歌合戦の審査員までやった河合優実が登場する。2人とも何度もブログで取り上げたので気になってしまう。老人の日々の衣食住を丹念にカメラが追っていく。

渡辺儀助(長塚京三)は仏文の元大学教授で戦後間もなく建てられた広い古家に住む。妻(黒沢あすか)に先立たれて一人暮らしだ。まめに自分で料理をつくる。麺類が好きだ。書斎にはたくさんの本があり、軽い連載とときおりある講演依頼だけ受けている。修繕が必要な築年数なので、教え子が時折直してくれる。
教え子の女性鷹司靖子(瀧内公美)が相談を兼ねて尋ねてくると親身になって話をするし、デザイナーの湯島(松尾貴史)と立ち寄ったバーで働く仏文科の女子学生(河合優実)の境遇に関心を持つ。ひとときの安らぎだ。
そんな渡辺のパソコンにある時から「敵がやって来る」と不穏なメッセージが流れてくるようになり気になってしまう。


元教授のマメな日常を描くと同時に、ある時点から現実と虚実が交差して戸惑う老人をカメラが追う。
自分も徐々に年齢を重ねると主人公の動静が人ごととは思えない筒井康隆は63歳の時にこの小説を書いたという。映画の途中まで、朝起きてから食事をつくって食べて余暇を過ごすところまで日常の生活を淡々と追っていく。電話連絡があるのは雑誌社の編集者からのようだ。人付き合いは多くない。預貯金があと何年持つかを計算しながら生活する。住むのは縁側のある古い日本家屋だ。子供がいない。見栄はなさそうだ。ぜいたくもしない。でも、教え子が来ることがわかるとワインを用意して準備万端だ。仏文の大学生がつくバーにもいく。そのくらいの金は問題ない。遺言書も用意している。


思ったよりも紆余屈折は少ないと思ったら、最終局面に向かって精神状態が安定しない状態を映し出していく。映像は現実と悪夢を交差させる。瀧内公美が来てごちそうとワインを振る舞うが、現実の場面かどうかをはっきりさせないシーンが続く。私としたいならハッキリ言ってくれればよかったのに。1人で私を思い浮かべてしているの?と言われてしまい苦笑する。黒沢あすか演じる亡くなった妻と主人公との幻のやりとりも増えていく。私以外の誰も愛さないと言ったじゃないかと虚実の元妻に責められる。もしかして、自分ももう少し歳をとるとこんな風に妄想に悩まされるのかと気になってしまう。


やはり30代半ばの瀧内公美がよく見える。この年齢って特に魅力的だ。主人公を頼りにする教え子の設定だ。元部下の女性がこんな感じで接してきたらどうなっちゃうんだろうと要らぬ妄想を自分が思い浮かべる。いけない、いけない。バーでバイトする女子学生河合優実とモリエールなどのフランス人作家の話をしている時が楽しそうだ。自分もそんな文学談義がしたくなる。でも、結局は主人公は騙されてしまう。


土曜日大学の部活のOB会が母校の食堂であった。現役1年生から80歳まで多数出席していた。ちょうど自分よりひとまわり上の先輩とこの主人公が同世代だ。ビジネス界で活躍された先輩たちも卒業以来OB会であっているが、横で見ていて年々歳をとっていくのがよくわかる。現実と虚実が交差しているようには見えなかったが、少しづつ老いが進展しているようだ。自分は恐れず老いを受け入れたい。
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映画「孤独のグルメ」 松重豊

2025-01-12 18:47:43 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「孤独のグルメ」を映画館で観てきました。


映画「孤独のグルメ」はTVでおなじみの「孤独のグルメ」を松重豊が主演のみならず監督脚本も担当する映画作品だ。「孤独のグルメ」で紹介されたお店に行くのは自分の楽しみのひとつで、娘も引き連れていくことも多い。比較的中華系が多いけど、先日も麻婆豆腐や羽付餃子がおいしい池袋の四川料理屋「楊」に娘と一緒に行くと、「孤独のグルメ」のポスターが貼ってあった。そろそろ公開だなと待っていた。ただ、TVを毎回見る人はご存知だが、松重豊がお店に入る前はとってつけたようなストーリーだ。いったいどうやって映画化するんだろうなあと思っていた。

輸入雑貨商を営む井之頭五郎(松重豊)は、かつての恋人の娘である松尾千秋()からの頼みを受けパリを訪れる。千秋と共に彼女の祖父・一郎(塩見三省)を訪ねると、五島列島出身の祖父から「子供のころに飲んでいたスープをもう一度飲みたい」と、そのスープの食材探しを依頼される。まず故郷の五島列島を訪れた五郎は役場や手がかりになる場所をまわって食材探しを始める。


予想以上に楽しめた。巧みにまとめた松重豊に感動。
ドキュメンタリーともとれる毎回のストーリーの良いとこどりをするのかと思っていたら違う。正直言ってストーリー展開はあまりに都合よく出来過ぎだが、松重豊へのご祝儀と思ってTV版を楽しむ観客たちは許してしまうだろう。ここでストーリーの都合のいい流れに観客は任せてもらいたい思いだ。

パリのエッフェル塔や凱旋門をバックにした松重豊が映るのも見慣れずに奇妙に感じる。でも市中でお腹が空いて高級フレンチというよりお手頃そうなビストロを見つけてしまうのがいい感じだ。外から客がロールキャベツを食べているのを見つけて入って食べるオニオンスープもおいしそう。その後に出てくるビーフブルギニヨンが絶品だと感じる。いつもながらの松重豊の独白で食感がわかる。

いきなりここでグイッと寄せられる。日本の洋食屋ではこのメニュー名で見ることは滅多にない。牛肉のワイン煮で出される。TVでは毎回じっくり松重豊が食べる姿を追うが、映画なので的確な長さにとどめる。長身の杏と並んでもバランスがとれる松重豊はさすがに背が高い


瓦屋根の家が立ち並ぶ五島列島で食材探しをする。郷土の海産物の名前が次から次に出てくる。いかにも土地の食堂「みかんや」に入ってチャンポンを食べるのがいい。具がたっぷりでおいしそう。個人的には天草で食べたチャンポンが人生でいちばん好きだけど、長崎の街中は本場だけに良かった。


この後、誰が見ても不自然な展開となる。ツッコミどころ多数でもそんなのは許してしまっていい。クレジットの2番目に内田有紀がいるけど、なんと出会うのが韓国だ。内田有紀のまわりはみんな韓国人女性というのも予想外の展開である。そこでも、松重豊は葉っぱに鶏やエビを包んで韓国料理をおいしそうに食べる。そして、韓国の港近辺にある食堂に入ってのパフォーマンスもいい。ネット情報では、「孤独のグルメ」韓国でも人気だそうだ。しっかりと韓国での興行収入を狙うところは抜け目がない。


松重豊のインタビュー記事で伊丹十三「タンポポ」に影響を受けたと語っているのを映画を見終えた後に読んだ。ラーメン屋を舞台にした「シェーン」だ。ここから先のストーリー展開は控えるが、オダギリジョーはコロナ禍で経営不振となったラーメン屋店主だ。フレンチシェフ出身であえてラーメン屋をやったけど、今や細々とチャーハンだけしかつくらない。

その店によくくる客が磯村勇斗で、実は「孤独のグルメ」に似せたグルメ番組のプロデューサーだというオチまである。松重豊に対応する俳優が遠藤賢一だ。最後は同じようなエンディングをたどる。思いのほか良かった。
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映画「正体」 横浜流星&吉岡里帆

2025-01-02 19:37:02 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「正体」を映画館を年末観てきました。


映画「正体」は染井為人の原作ミステリーを藤井道人監督が横浜流星主演で映画化した作品だ。ずいぶん前から予告編が何度も流れていた。変装しながら逃げ回る横浜流星を見て、外人女性殺しの市◯容疑者を連想した。極悪犯罪人なんだろうというイメージだった。なんかイマイチのれないなあと感じて公開後観ていなかった。

ところが、年末になり年間ベストをピックアップすると藤井道人監督の「青春18×2」が今年の日本映画でもっとも自分の肌に合う作品だと改めて思った。藤井道人の近作「正体」を敬遠していたのは片手落ちだと感じた。まだロードショー中の「正体」を観る気になる。結果的には正解だった。予告編のイメージと違った。

日本中を震撼させた凶悪な殺人事件の容疑者として逮捕され、死刑判決を受けた鏑木(横浜流星)が脱走した。潜伏し逃走を続ける鏑木と日本各地で出会った沙耶香(吉岡里帆)、和也(森本慎太郎)、舞(山田杏奈)そして彼を追う刑事・又貫(山田孝之)。


又貫は沙耶香らを取り調べるが、それぞれ出会った鏑木はまったく別人のような姿だった。間一髪の逃走を繰り返す343日間。彼の正体とは?そして顔を変えながら日本を縦断する鏑木の【真の目的】とは。その真相が明らかになったとき、信じる想いに心震える。(作品情報 引用)


横浜流星が出ずっぱりの上質なエンタメ作品である。
年末何気に紅白歌合戦を見ていたら審査員席に横浜流星がいるではないか。いよいよ映画での活躍が認められてきたのかなと思ったら、今年の大河ドラマの主役のようだ。あと審査員席には河合優実もいるし、司会の伊藤沙莉ハスキー声も聞けて映画で顔なじみの連中を見れてうれしくなった。出演リストには知らない歌手だらけで見るのをやめるつもりなのに意外に良かった。


いきなり主人公は刑務所内で自傷の大けがをして救急車で運ばれる。搬送途中でクルマから脱走する主人公を映す。死刑囚の脱走で世間では大騒ぎだ。捕まえようと懸賞金まででる。その後粗悪な労働環境の工事現場に長髪の浮浪者風に変装したままいたり、見つかりそうになった後はフリーのライターになって編集者の吉岡里帆と知り合う。

予告編で吉岡里帆が出ていて、犯罪を犯す前に知り合っていたのかと思ったら違う。ライターとして期限も守りまじめな主人公がネットカフェ暮らしとわかって助けてあげるのだ。脱走して逃亡中の死刑囚と途中で気づき、本人に確かめると自分はやっていないと主張する。途中から冤罪の物語だとわかっていく。

実はツッコミどころはたくさんある。逃亡中工事現場に入り込むとはあり得るとしても、ライターになったり、その専属契約を結んだり、介護施設の職員になったりすることってあり得るのかな?と思ったりすることだらけだ。最後の人質捕物帳も大げさだ。それでも観れてしまうのは吉岡里帆の力だろう。ちょうど美貌の極みの年頃なのだろう。ここでの吉岡里帆が「ハケンアニメ」などと同様魅力的だ。ただ、役柄上弁護士の父親が痴漢の冤罪を受けているという話をひっかけるのは余計な感じがした。前作「まる」での搾取反対と叫ぶ左翼女やらされてまいったという感じだっただけに今度はよりよく見える。


大阪や長野など方々に移り変わってロケ地は多い。それらの映像を藤井道人監督が巧みに2時間にまとめた印象を受けるし、今回は主人公を追う警察官の役柄の山田孝之にも安定感があった。「孤独のグルメ」松重豊は山田孝之の上司の警察大幹部役でイヤな奴の設定、年末TV東京でひたすら映っていた。
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映画「オートレーサー森且行 約束のオーバル 劇場版」

2024-12-04 17:57:24 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「オートレーサー森且行 約束のオーバル 劇場版」を映画館で観てきました。


映画「オートレーサー森且行 約束のオーバル」はオートレーサーへの転身を果たした元SMAPの森且行に注目したドキュメンタリーである。穂坂友紀監督が3年間にわたって事故後の療養から復帰に向かう森且行を追い続ける。SMAPを抜けたのが1996年で今の若い人はもう1人のSMAPのメンバーがいた頃を知らない人も多いだろう。当時話題になった記憶がある。

そもそもオートレース場に行ったこともないし、車券も買ったことがない。川口オートレース場最寄駅の西川口駅にいるいかにもギャンブルおじさんは中央競馬などへ行く面々と雰囲気が違う。見ようによっては浮浪者にも見えるヤバい感じだ。ただ、カーブで靴を路上につけながらバイクが走るレースの場面を見ていると引き寄せられる部分がある。予告編を観て大画面で味わいたい気持ちになった。

1996年「SMAP」のメンバー森且行が「オートレーサーになる」夢を叶えるために、22歳でグループを脱退した。5人のメンバーに「絶対に日本一になる」と誓った森は、24年後の2020年11月3日、日本選手権で悲願の初優勝を勝ち取り、その約束を果たす。


ところが、その82日後、福岡の飯塚オートレース場での落車で選手生命が脅かされる大怪我を負ってしまう。その後5度の手術と壮絶なリハビリに2年間を費やす。足に麻痺がのこった状態で復帰戦に勝利して再びプロの第一線に返り咲く姿を描く。


よくぞ撮りきったと感じるドキュメンタリーだ。
若き日にオートレーサーに転身して、上位クラスのS級には長くいたが46歳にしてようやく日本一の頂点に立つ。元同僚のSMAPのメンバーから祝福されたと聞く。旧SMAPのメンバーは出演していない。ところが、それほどたたない時の大事故による悲劇である。カメラは負傷後の森且行を追っていく。

今回初めて知ったが、レース用のバイクにはブレーキがない。最大時速約150km/hだそうだ。競輪競馬のレースよりはるかに速いスピードだ。その危険度は高まる。森且行が落車するレース場面が映っていた。自ら転倒したわけでなく、他の選手がバランスを崩して転倒して背後にいた森が巻き添えを喰らったのだ。


幼い頃に父親とオートレース場に行った時の想い出が強いようだ。ただ、小学校の時に父親は亡くなり兄弟が多かった親の兄弟の家をぐるぐる回ったようだ。育ちがいいわけではない。ただ、明るく育った姿が写真からわかる。そして容姿淡麗だった森且行はジャニーズ事務所に入所して芸能界デビューする。SMAPのメンバーとして活躍する姿は映さない。もともと肖像権にうるさい事務所だったし、なくなったとはいえ余韻はあるだろう。退団後養成所に入って頭を丸刈りにした姿からオートレース界での頂点までの姿を見せてくれる。


何度も手術した結果、身体の中に250gものボルトが入っていたという。レントゲン写真での体内の金属がむちゃくちゃ多い。よく助かったものだ。しかも、強靭な意志を持ち続ける。ようやく復活して初めてバイクに乗っても足に力が入らない。とてもレースに出られる状態ではない。それでも踏ん張る。カメラがずっと追っていく。実兄や同期レーサー仲間、事故で絡んだ選手、担当医らの証言も織り交ぜ構成する。過去のレースの写真をずっとストックしている熱烈なファンがいるのが伝わる。その期待にも応える。

復帰後のレースで外からインに向けてスッと入っていくレース展開を見ながらレース巧者なんだろうなあと感じる。さすがに50にして限界もあるだろうが「強いやつとレースするのが楽しくてしょうがない。」という言葉にはすげえ奴だなと感動する。観てよかった。
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映画「海の沈黙」 本木雅弘&小泉今日子

2024-11-25 08:05:57 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「海の沈黙」を映画館で観てきました。


映画「海の沈黙」倉本聰の原作脚本を映画化した本木雅弘の久々の主演作である。映画館で画家を演じる本木雅弘のポスターが気になっていた。共演は小泉今日子、中井貴一に加えて久々に石坂浩二、仲村トオルと清水美沙が脇を固める。監督は若松節朗だ。贋作がテーマだとわかるが、先入観なくストーリーを追う。最後まであきずに観ていける

東京美術館で展覧会が開かれ、美術界の大御所田村修三(石坂浩二)は大臣も挨拶するオープニングセレモニーに妻安奈(小泉今日子)とともに出席する。そこで田村が自らの絵を見て、これは自分が描いたものではない。贋作だといい張って問題となる。


その絵を保管していた地方都市の美術館長(萩原聖人)が自殺する。通夜に向かった安奈は絵を引き取った中央美術館長(仲村トオル)と出会い遺書に秘められた絵への思いを知る。京都に住む田村には謎の男(中井貴一)から贋作の真相について連絡がいく。

一方北海道小樽では、飲み屋の女将(清水美沙)がバーに行き、彫り師から刺青を彫る事になったバーテンダーの女性(菅野恵)に話しかける。しかし、翌日女将は亡くなって死体で発見される。女将の全身には刺青が彫られていた。その刺青にはかつて安奈の父親のもと田村と同門で有望な画家だった津山竜次(本木雅弘)が絡んでいることがわかっていく。ある事件を機に人々の前から姿を消したのだ。

本木雅弘と小泉今日子の俳優としての存在感の強さに惹かれる。2人が久々に出会うシーンには胸を締めつける感動を覚えた。好きな映画である。事前予想より良かった。

テーマのスケールを大きくしてドガ「踊り子」の贋作話などにも触れたり、どうして元々の作品に手を入れたのかといったのが映画の主題だ。でも、長年キャリアを積み重ねてきた中年の域を越えつつある2人が見つめ合って言葉を交わす。

「見つかっちゃいましたね」「何年ぶりですかね」

若き日からTVや映画の画面で知っている2人のこれまでの人生の軌跡が自分の心に重なるように響いた。若い人が観てもそんな思いはないだろう。でもこの映画で観る年輪を重ねた2人が妙によく見える。


北海道を舞台にして軽い紆余屈折を交えたいかにも倉本聰らしいストーリーである。倉本聰作品はあまりにも久々なので、思わずまだ生きているのか確認したくらいだ。TV作品以外の脚本でも高倉健主演の「冬の華」「駅STAITION」という名作がある。映画の脚本は久々だ。

小学校1年までだけど、亡き自分の父が小樽生まれなので、北海の港や風光明媚な岩場が見える海辺、廃校と思しき校舎をアトリエにして繰り広げられるシーン、小樽独特のオールドファッションな建物にあるバーのシーンなど北海道らしい風景にグイッと引きつけられる。小樽近郊は絵になる。

⒈本木雅弘
映画で出会うのは「永い言い訳」以来久々だ。アカデミー賞作品「おくりびと」はブログを始めて2年目に観た作品で、本木雅弘のしなやかな動きに魅せられた。体調を崩している役なので、若干老け顔でやせている。大きなキャンパスで大胆に描くシーンや海に入っていくシーン、そして彫ることになった女性が裸になり温めてもらうシーンもある。

芸術へのこだわりをもつ男で気むずかしい顔をしているのに、昔の恋人だった安奈に会うときにはやさしい表情だ。安奈と別れるときに軽く手を握るのがいいシーンだった。


⒉小泉今日子
映画で観ることが多くなった。世相に対してのリベラル的言論は正直いただけないが、50代の女性がちゃんと演じられるようになったのがうれしい。TVあまちゃんでの「潮騒のメモリー」からはや10年経つ。草なぎ剛主演「碁盤斬り」では遊郭の女将を演じて貫禄がついた姿を見せたけど、恋愛とは無縁の役だった。TVの「不適切にもほどがある」にも本人役で登場してくれた。

この再会は純愛だ。過去に色々あったけど、やさしい顔をして2人は出会う。小じわも目立つ小泉今日子だけど、アイドル時代をすぎてからいちばんよく見えた。それだけでこの映画を見た甲斐がある。


⒊中井貴一と石坂浩二をはじめとした脇役陣
中井貴一は杖をついた謎のフィクサーのような役だ。サングラスを外してはじめてわかる。東京と北海道を往復して贋作や彫り師としての津山竜次を後援する存在だ。こんな役も演じるんだなと感じる。石坂浩二も映画で観るのが久々だ。もう80を過ぎた石坂が美術界の大御所だけど実年齢より若い役柄を演じる。小泉今日子が妻だけど、京都に女も子供もいる設定だ。祇園のクラブのママ役で三船美佳が出てきてこれが女ということ?でもまさに適役だった。

この2人が出会う場面で実年齢のひとまわり以上の石坂浩二に対して中井貴一が罵倒するのには不思議な気分を感じた。


あとは全身に刺青を入れた清水美沙の挑戦に感動する。今村昌平監督「うなぎ」での美しい裸体を見せてからずいぶんと経つが大したものだ。バーテンダーで彫り物をすることになり主人公に寄り添う菅野恵は初めて観た。倉本聰作品にこれまで出てきたようだ。
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映画「オアシス」 清水尋也&伊藤万理華

2024-11-22 19:30:10 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「オアシス」を映画館で観てきました。


映画「オアシス」は裏社会に潜り込んだ若き2人の主人公を追っていく物語。助監督あがりの岩屋拓郎の監督脚本である。主演の清水尋也「さがす」「リボルバーリリー」薄気味悪い役柄を演じてインパクトを残した。その印象が強く、清水尋也の主演作ということで気になる。高杉真宙「前田建設ファンタジー営業部」で観ている。また「サマーフィルムにのって」で主演を張った伊藤万理華も共演だ。清水尋也の怪演をまた期待して映画館に向かう。これがなかなか良かった

いきなりカメラは街中を闊歩する富井(清水尋也)を追う。街頭にたむろう男に「今日ある?」と声をかける。ワゴン車で取引交渉している最中にいきなり富井は相手を殴りつける。富井は暴力団の構成員で街の犯罪グループを締めているのだ。先方のアジトに「目の届くところで商売するな!」と脅す。街の半グレグループには富井の旧友金森(高杉真宙)がいた。青春時代親友だった2人が「ある事件」をきっかけにバラバラとなった。そんなシーンで始める。

いきなりの暴行シーンで一気に自分の目を引きつける。

地元の暴力団菅原組の組長(小木茂光)から街の愚連隊を締めたことで富井は褒められる。そのあと、街中にいる紅花(伊藤万理華)の後をつける富井を映す。喫茶店で隣同士になっても会話を交わさない。関係はどうなっているんだろうと思っているうちに、紅花が記憶を失っていることがわかる。



よくできた現代ならず者映画だ。飽きることなく映像に引きつけられる。
地方都市の当世ヤクザ事情とも言えそう。
岩屋監督のオリジナル脚本のようだが、なかなかうまい。監督の故郷である名古屋ロケで繁華街を中心に映し出す。刃物を振り回し残虐なシーンも多い。カメラワークも俳優の暴れる姿を舐めるように追う。これもいい。緊張感を持ちつつ、意外な展開も見せ観客をそういくか?と驚かせる。直近ではいい感じの部類だ。

清水尋也の前2作「さがす」「リボルバーリリー」の役柄は「人の心というものがあるのか?」という冷徹さを持っていた。これはすごい役者だと感じた。基本線は同じでも、少しは人間の心はあるかな?高杉真宙は首に入れ墨をしているが半グレにせよ、ちょっと弱い。ヤクザ映画系のキャラではない。青柳翔、窪塚俊介、松浦慎一郎、小木茂光といったヤクザを演じる脇役陣の面構えが最近の裏社会の人間ぽくて良い。特にいちばんの問題児組長のセガレ役の青柳翔のイヤな奴ぶりが上手かった。



「サマーフィルムにのって」での時代劇オタクの女子高生を演じた伊藤万理華はよかった。もっと活躍するかな?と思ったら、同じ作品に出ていた河合優実がここに来てグイッと伸びて一気に差をつけられてしまう。河合優実のようにもっと映画に出ればいいのにと感じる。

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映画「本心」池松壮亮&田中裕子&三吉彩花

2024-11-14 20:01:55 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「本心」を映画館で観てきました。


映画「本心」平野啓一郎の同名小説を石井裕也監督が脚本映画化した作品だ。原作は未読。近未来の日本を舞台に、仮想空間で人間を作る技術で亡くなった人と触れ合える話が基調である。未来モノは苦手なジャンルだけど、石井裕也監督の新作でもあり母親との交情の映像が気になりのぞいてみることにする。

朔也(池松壮亮)は母(田中裕子)と2人暮らし。ある日、豪雨で氾濫した川に吸い込まれる母を助けようと飛び込む。しかし、目覚めると1年もの時間が過ぎていた。母は自ら命を絶つことが可能「自由死」という選択をしていた。飛び込む寸前に「大事な話があるの」と電話で伝えていた母が死を選んだ本心が知りたかった。

職のない朔也は他人の分身となって要望を遂行する「リアル・アバター」と呼ばれる仕事に就く。生前のパーソナルデータをAIに集約させ、仮想空間上に“人間”を作る技術VF(ヴァーチャル・フィギュア)を開発している野崎(妻夫木聡)と会う。

「本物以上のお母様を作れます」と聞き、VF制作に伴うデータ収集のため母の親友だった三好(三吉彩花)に接触する。朔也はVFゴーグルを装着すればいつでも母親に会えるようになる。三好と同居生活を送るが、「リアルアバター」のバイトでは面倒な依頼を受けるようになっていた。



あまりなじめない作品だった。
近未来という設定だが、ロケ中心で風景は現在とたいして変わらない。走っているクルマも普通の車だし、主人公の家も別に未来仕様でない。池松壮亮も三吉彩花も近未来のVFゴーグルをつけている以外は現代と同じだ。母親との心の触れ合いという点が残念ながら薄すぎて情感を生まない田中裕子を効果的に使っていない。


設定だけは近未来なので、工場がロボットで全自動化されて従業員がリストラされている。職がない人も多い。もともと主人公朔也は過去に傷害事件を起こしていて履歴では採用されない。川の側に与太者がたむろっていて、そのツテで「リアルアバター」となって、依頼者の言う通りに職務を遂行する。殺せなど犯罪や暴力も要求させるのだ。近未来には職がなくこの仕事をするしかないという設定だ。

でも、この近未来設定は意味がよくわからないことだらけだ。それだけに調子が狂う。依頼者が妙に高圧的だ。アバターの向こうから無理難題を言いつける。AI評価のクチコミにバッテンがついたらクビだ。まったく理不尽な話だけど、人手不足の現代からするとどうにも不自然だし、日本の人口が減る近未来に人手不足解消はないでしょう。直近でも「カスハラ」対策が強化されていることからすると、依頼主のコンプライアンスは強く要求されるだろうからこの映画の設定は近未来ではありえないと感じる。ピントがずれている。


話は戸惑うことだらけだ。前半は眠気も襲った。
近未来の映画はもっとそれらしくして欲しい。石井裕也監督も前作「愛にイナズマ」も良かったし、ここ3作続いた自分に合う作品とそうでないのと落差があるけど今回は残念。

ただ、今回良かったのは三吉彩花だ。「先生の白い嘘」ではオッパイをもまれていた。でも、ブラジャーどまり。思い切って乳房を見せてくれればと思っていたら、ここでは大サービスだ。ボリュームたっぷりの乳房横から乳首も見える。段階を経て次は正面になってもらえるとまた観に行く。
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映画「まる」堂本剛&荻上直子

2024-10-23 06:36:53 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「まる」を映画館で観てきました。


映画「まる」荻上直子監督の新作、KinKi Kidsの堂本剛が現代美術のアーティストの役柄を演じる。綾野剛、吉岡里帆、柄本明に加えて荻上直子作品常連の小林聡美が脇を固める。意図せずに一気に有名人になってしまった絵描きの男が世間の大騒ぎに戸惑うストーリーだ。何気に興味をそそる。

荻上直子監督の近作「川っぺりムコリッタ」は監督らしいほんわかムードで、「波紋」新興宗教にハマる女性に失踪した夫が帰ってくる人間ドラマであった。いずれもそれなりのレベルだがパンチが弱い印象を受けた。それでも直近公開作のラインナップからいくと、荻上直子作品が優先順位で上になる。

美大を卒業したもののアートで成功できず、人気現代美術家のアシスタントとして働く沢田(堂本剛)。独立する気力さえも失い、言われたことを淡々とこなすだけの日々を過ごしていた。そんなある日、彼は通勤途中の雨の坂道で自転車事故に遭い、右腕にケガをしたために職を失ってしまう。

部屋に帰ると、床には1匹の蟻がいた。その蟻に導かれるように描いた◯(まる)が知らぬ間にSNSで拡散され、彼は正体不明のアーティスト「さわだ」として一躍有名人に。社会現象を巻き起こして誰もが知る存在となる「さわだ」だったが、徐々に◯にとらわれ始め……。(作品情報 引用)

自分の肌に合う心地よく観れる映画だった。
荻上直子監督の前2作よりはよく見えた。映画の中の堂本剛のキャラが好きだ。エンディングの歌が心を柔らかく包んでくれるのもいい感じだ。直近ではお気に入りの作品だ。

上昇志向のない主人公で、本来才能があるのに現代美術家のアシスタントに甘んじている。師事している美術家(吉田鋼太郎)にいいとこ取りされて、同僚の女性アシスタント(吉岡里帆)の方が上に搾取されていると言って腹を立てている。ところが、自転車事故で腕をケガして事務所をクビになってしまうのだ。


失意のまま、池のある公園で円周率3.14の桁下数字を唱える正体不明の老人(柄本明)からパンの真ん中をちぎってできた◯を見せられる。ボロい賃貸の部屋に帰って何気なく◯を描いてサワダの名前をサインしたものを古道具屋に持ち込む。しばらくして、それがいつの間にか世間で絶賛されていくのに気づくのだ。


堂本剛演じる沢田は特に自己主張しない男だ。アシスタントをクビになってから淡々とコンビニでバイトをする。有名になっても継続する。日本語がたどたどしく若者にからかわれるミャンマー出身の店員(森崎ウィン)といい掛け合いを見せる。隣の部屋には売れない漫画家(綾野剛)がいてやたらとちょっかいを出してくる。沢田はテンション高く一方的に話す漫画家の言葉を遮らず聞いている。イヤイヤながら外で付き合わされることもある。美術家の女性アシスタント(吉岡里帆)は口びるにピアスをして、搾取反対と町で集会を開く。沢田はただ見ているだけだ。


意味不明なキザな男が自宅に尋ねてきて◯の作品を書いてくれたら一枚につき100万支払うといい沢田は驚く。ある時、◯を描いた作品を画廊のギャラリーで発見する。声をかけると画廊の主人(小林聡美)が本人と知り驚いて、ギャラリーの個展のために描いてくれと依頼される。


黙々と作品を描いていく沢田(堂本剛)の傍に個性的な脇役を揃える。独特のキャラクターをもたせてこの映画をよりおもしろくさせる。荻上直子監督の俳優の使い方の上手さを感じる。彼女の作品にはいつも名優が集まる。

主人公の住処も含めて横浜がロケ地だとすぐわかる。宮川橋付近の福富町から宮川町あたりのディープゾーンが映る。画廊のロケ地は銀座のようだ。謎の老人がいる茶室の丸い障子や路地にチョークで書いた◯とかあらゆるところに◯を意識するところもいい。現代美術は比較的苦手なジャンルだけど、どの作品もよく見えた。


エンディングロールの堂本剛の歌はなかなかいい。カラオケではかなりKinKi Kidsの硝子の少年を女の子とデュエットで歌ったものだ。クレジットに片桐はいりの名前を見て、アレ?いたっけと思い作品情報を見たら、古道具屋のオヤジ役だったのだ。そうだったんだ。
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映画「若き見知らぬ者たち」 磯村勇斗&岸井ゆきの&福山翔大

2024-10-14 05:52:26 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「若き見知らぬ者たち」を映画館で観てきました。

映画「若き見知らぬ者たち」は「佐々木インマイン」の内山拓也の監督脚本作品である。直近の日本映画を引っ張る若手の磯村勇斗が主演で岸井ゆきの、福山翔大、染谷将太が脇を固める。磯村勇斗と岸井ゆきのの共演というだけでそれなりのレベルを期待して事前情報なく映画館に向かう。

資金がなく貧相な映画になってしまうことが多い日本映画としてはフランス、香港、韓国の資本が入っているというのは良いこと。それでも、テーマは貧困、脳に障がいをもった母親の介護といった直近の日本映画に多い貧乏くさい内容が中心だ。

映画が始まり、3人の若者と母親らしき4人が出てくるが、それぞれの関係がよくわからないまま映画は進む。どうも母親(霧島れいか)は障がいを持っているようだ。まともに食事もままならない。次男(福山翔大)はトレーニングに励んでいる。食卓で食事をだす女性(岸井ゆきの)が誰なのかと思ったら長男(磯村勇斗)とメイクラブする。女性は看護師のようだ。長男はどこからかの督促状を持っている。金銭的に楽でなさそうだ。結局、説明的な進み方をしないで、時間をかけて個人間の関係がわかっていくようになる。

ここで作品情報を引用する。

風間彩人(磯村勇斗)は、亡くなった父(豊原功補)の借金を返済し、難病を患う母・麻美(霧島れいか)の介護をしながら、昼は工事現場、夜は両親が開いたスナックで働いている。彩人の弟・壮平(福山翔大)も同居し、同じく借金返済と介護を担いながら、父の背を追って始めた総合格闘技の選手として、日々練習に明け暮れている。息の詰まるような生活に蝕まれながらも、彩人は恋人・日向(岸井ゆきの)との小さな幸せを掴みたいと考えていた。(作品情報 引用)


途中から意外な展開を見せた後で思わぬ見せ場をつくる。
最近の日本映画得意の貧困ストーリーに介護まで加わるだけの話かと思ったら、主人公を一気に奈落の底まで落とす。これには驚く。苦難の道に陥るだけでない。ネタバレなのであとで語る。

それと、総合格闘技の選手という設定の次男の金網ファイトシーンがある。「これって本気じゃない」と思ってしまうほどのマジファイトとは想像していなかった。殴っているのは本気に見えるので驚く。どうも福山翔大は格闘技の練習をしたらしい。


「ドライブマイカー」の浮気した妻役で好演した霧島れいかが母親役だと最初は気づかなかった。食事している時から調味料を異常に混ぜたり、スーパーで万引きしたり、ぐちゃぐちゃにしたり、畑を荒らしたりするまさに要介護の母親だ。せっかくスナックを始めたのに、浪費でカネを使い果たした元警察官の夫に呆れかえっているうちに心を病んだのであろうか?はっきりと映画内で語っていないけど、母親に存在感をもたせる。


(ネタバレありなのでここから注意)
それにしても、主役(磯村勇斗)が途中で亡くなってしまうのにはビックリする。親友の結婚パーティに行く予定で、店を閉めようとしたら酔っぱらい3人が入ってきて強引に店で飲んでしまい、暴行を受けたあとで外で引きづり回された上に、痛めつけられてしまう。警察が来てストップするけど結局やられた主人公を連行するなんて強引な設定だと感じる。

実はこのあとツッコミどころ満載だ。
⒈閉店と言っているのに酔客を断りきれないという設定がそもそもそんなことあるのかな?店で暴れてケガをしているのに外へ飲みに連れ回すなんてことあるかしら?

⒉外で暴行を受けていて、警察が見つけて尋問する。結局倒れている方が連行されるけど、普通は争っている全員の素性を確認するために、現場に来た警察は全員の免許証(身分証明書)を確認して警察署に問い合わせて前科も含めた素性を確認するはずだ。結局暴行した連中が誰かはわかる。警官2人が主人公の死でうやむやにしようとする設定としてもおかしいんじゃない。

⒊結局主人公が亡くなって、葬儀が終わった後に親友だった染谷将太がスナックに行って歌うシーンがある。そもそもスナックが死んだその日のままなのもおかしいし、スナックには主人公が殴られて血が出ている跡もある。いくら何でもこれに気づかないのは変じゃない?それで捜査を再開するように訴えてもおかしくないし、今は防犯カメラもあって暴行した人間を追跡もできる。これは神奈川県警をバカにしているシーンだ。

4.父親が亡くなっているのは主人公が子供の時だ。今主人公が経営しているけど、その間どうしていたの?誰かスナックやる人がいないとおかしいよね。妻がやるようには見えない。しかも、父親の借金こんな長い間飛ばないでできるのかしら?自宅も一戸建てに住んでいるし?督促状は何?不思議?

あんまり疑問点ばかり言っても仕方ない。監督がまだ若くて仕方ないだろう。
出演者それぞれの演技自体は悪くないし、霧島れいかと福山翔大には敢闘賞をあげたい。今回の岸井ゆきのは見せ場がなかった。
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映画「本を綴る」

2024-10-06 21:49:13 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「本を綴る」を映画館で観てきました。


映画「本を綴る」は本屋が日本から次々となくなっていることに寂しさを感じる作家が栃木、京都、香川と町の本屋をまわる話である。ロードムービー的に各地で新しい出会いがある。監督はベテラン篠原哲雄で、脇役での登場が多いメンバーで構成されるまさにインディーズ系の映画だ。

破壊的な場面が多そうな映画とか今週の新作はのれそうにない新作が揃い、この映画を選択する。ヤクザ映画の殿堂だった跡地にある映画館では、東京で一館のみの公開で満席だった。年間本200冊読了が個人目標で今年はすでに達成している自分には本屋の話は親しみがもてる。

小説が書けなくなった作家一ノ関(矢柴俊博)は、全国の本屋を巡りながら本の書評や本屋のコラムを書くことを生業にしている。一ノ関にはベストセラーがあるが現在新作が書けていない。

那須の図書館でのイベントで講師となった一ノ関は図書館司書の石野(宮本真希)とともに森の中にある小さな本屋を訪れる。古書を探している時に、本に挟まった恋文を発見する。宛先は京都だ。送付先に届けるために京都へ向かう。


京都には学生時代の友人が書店の店長をやっていた。人伝に恋文の送付先の消息をたどると、本人は亡くなっていた。それでも孫娘花(遠藤久美子)が錦市場の近くで小料理屋をやっていることがわかり立ち寄る。花には婚約者がいたが、香川で人助けで溺れて亡くなっていた。香川に一度行ってみたらどうかと花を誘い出す。書店訪問で向かった香川で再会して花とともに婚約者の墓参りに向かう。

本屋愛に満ち溢れる心温まる快作である。
人気俳優がいない配役だ。それが公開館が少ない理由だろう。主役の矢柴俊博の出演作は観たことある作品が多いけど記憶にない。傑作という映画ではない。末梢神経を刺激するようなシーンもない。でも、本と書店に対する愛情がにじみ出ていてムードがあたたかい。好感がもてる。

古本に挟まっていた恋文を持参する話、作家の主人公が以前本で書いた廃村にかかわる人物を探す話などを書店巡礼にあわせて混ぜ合わせてストーリーの基調とする。主人公一ノ関はダム建設のために廃村になった町のことを書いてベストセラーとなったが、その村の住人からクレームを受けて新しい小説が書けなくなった。そんな挫折自体は驚くような話ではないが、うまく絡めた印象をもつ。

主人公が巡る各地の風景は建物も含めて十分目の保養になる。ロードムービー特有の楽しみだ。那須塩原市図書館みるるは広がりのある空間と階段のあるフロアに特徴がある良くできている設計だ。京都では廃線跡と思しき線路を歩く。香川県観音寺では今まで見たことのない海を見渡す絶景の場所にある高屋神社や海岸線に沈む夕陽の美しさが堪能できる。高屋神社は特にすばらしい。


⒈町の本屋への思い入れ
いきなり閉店した本屋の前で立ち止まる主人公の姿が映る。町の本屋の経営がきびしいのも時代の流れだろう。ものすごい勢いで本屋がなくなっている。残念だ。ネット販売で購入することも多いけど、本屋で実際に立ち読みしないとムダな本を購入してしまう。そういった意味では本屋がないのは困る。自分の主戦場は神保町の東京堂書店、新宿のブックファーストと紀伊國屋、池袋のジュンク堂だ。本屋は書店員の目利きが重要で、平置き本でそのセンスがわかる。

那須の本屋はこんな場所に来る人がいるのかな?という場所にある。京都や高松でも本屋を紹介する。なくなった本屋の本を引き取りミニバンで運んで販売するのも映し出す。


⒉京都の小料理屋の女将
この主人公が世帯持ちなのかどうかの言及はない。栃木、京都、高松それぞれの場所で美女に遭遇する。主役の矢柴俊博も気分よく仕事ができただろう。那須の図書館司書は宮本真希で、25年前に深作欣二監督作品「おもちゃ」に出演した時に観ている。歳はとったがより魅力的になった。

京都で古本の中に挟まった手紙の持ち主に会おうとして、結局亡くなっていて孫娘に会う。遠藤久美子が演じる。以前は出番も多かった。それにしても長らく映画を観ていて、小料理屋の女将役でこんなに素敵な女性を見たことがない。センスの良い着物で接客する姿がいい。建物も素敵だ。こんな店近くにあったら多少高くても通うだろうなあ。


エンディングロールで歌声が聴こえる。聴いたことある声だ。アスカだなと思ったけど自信がない。その直後にクレジットにASKAとあり感動する。色々と問題も起こしたが、健在ぶりがわかってうれしい。
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映画「Cloud クラウド」 菅田将暉&黒沢清

2024-10-01 06:42:58 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「Cloud クラウド」を映画館で観てきました。


映画「Cloud クラウド」黒沢清監督菅田将暉と組んだサスペンスタッチの新作である。菅田将暉だけでなく、共演者の窪田正孝、古川琴音、岡山天音、奥平大平など最近の映画でいずれも主演を張る豪華メンバーだ。正直言って、黒沢清監督の最近の「スパイの妻」「蛇の道」はいずれも自分にはイマイチな作品だった。本作は題材が転売ヤーというネット社会でやりやすくなった商売をクローズアップするので気になる。

吉井(菅田将暉)は町工場に勤めるかたわら「転売ヤー」として格安で仕入れた物品をネットでさばいて利ざやを得ている。工場主(荒川)から職場リーダーへの昇進を打診されたり、転売屋の先輩村岡(窪田正孝)からの共同事業の申出をいずれも断る。感情を押し殺すクールな男だ。転売に専念するために恋人の秋子(古川琴音)と田舎の湖の辺りにある家に移り住む。ただ、その頃から何かに追われる感覚に襲われるようになる。


移転先の事務所で従業員として佐野(奥平大兼)を雇い仕事を始めた矢先、寝ている時何者から家に物を投げつけられる嫌がらせを受ける。警察署に届けに行くと、逆にニセブランドを販売しているのではとのタレコミがあると聞き慌てる。ネット上SNSでは悪いコメントが増えてきていた。ニセブランド品を再転売したことで被害を受けたネットカフェ住民の三宅(岡山天音)などの被害者たちがお互いの素性がわからないままにネットで共闘する動きも出てくる。そして、実行犯が徒党を組んで吉井の棲家に乗り込んでいく。


これまでの黒沢清作品よりもおもしろく観れた。
恐怖の醸し出し方が巧みである。前半から中盤にかけて何度ものけぞった。


菅田将暉演じる主人公は現実にいそうな人物である。「安く仕入れて、高く売り、利ザヤを取る商行為」は何も悪いことではない。ただ、ニセブランド商品などを販売すると犯罪だ。そこにはコンプライアンス上の一線が引かれているのに、吉井は割と安易で買い側からクレームが出てくるわけだ。

吉井の身の回りで不審なことが起き始める。誰もが吉井を狙っている。そんな状況をスリラー的に見せてくれる。うらみからなる誹謗中傷がネットを通して増幅し、集団が狂気の状態だ。破壊集団へと姿を変え暴走するのだ。ネット社会の恐怖である。次第に吉井は追い詰められる。

窪田正孝や岡山天音は直近で演じている異常人物のテイストを取り入れてこの映画の役柄に没頭した。古川琴音もいつもながらのほんわかした雰囲気だが、サスペンスになると違う局面を見せる。今回、黒沢清の俳優の起用と使い方はうまいと感じる。


⒈安く仕入れた品物を売るのは別に違法行為ではない
映画が始まってすぐに,工場主がもともと1個あたり400,000円で作った電子治療器を1箱3000円で30箱主人公吉井に売るシーンがある。それを高く転売して主人公が儲けるわけだ。売らざるを得ない状況になった男女が買い取る吉井にクレームをつけるシーンがある。もともと原価は高かったんだよと。

なんで文句を言われなければいけないのかな?と見ていて思った。別に悪いことをしているわけではない。安くてイヤだったら他の人に売ればいい話だ。これを見て、いつもながら黒沢清は意味不明な場面を作るなあと感じる。巨匠になりすぎで周囲からおかしなことも指摘されないのかな?毎回常識ハズレのシーンがある。

例えば直近で大きく業績を伸ばしているドンキホーテも、普通の定番品とこういったバッタ品も含む安く仕入れて売るスポット商品を組み合わせて利益を上げてきたのだ。商売の道理に反していないのにこれをクレームの形にして,しかも最後の復讐場面でこの売り主を入れることが不思議だ。工場主も同様だ。

⒉ネット社会の狂気
転売屋吉井の評判はネット上で最悪になっていく。きっかけの1つは10,000円で仕入れた高級ブランドバックを100,000円で売ったのが偽ブランドだったこともある。安く買って高く売るのは通常の商行為と言ったが,さすがに偽ブランドになると違う。警察に今度調査しようかと言われて、慌てて損失覚悟で価格を大きく下げる。

この辺りから恨まれることが多くなっていく。ネットでこういった被害者たちが集結する状況になる。お互いに名前を知ることなく,一緒になって転売屋を攻撃するのだ。おそらくこんな事は世間でもあるだろう。それにしても、この暴挙に普通だったら関わらないような人間が加わってラストに向かう。かなり大げさだけど、現実の世界で絶対ないことではない。


(ここからネタバレに近い)
⒊助っ人佐野の謎の存在
湖のそばの一軒家に事務所を構えたときに,採用したのが奥平大兼が演じる佐野だ。学校を出てなかなか良い仕事に恵まれない男だったと言うが,この映画は最後に向かって急激にこの佐野の存在感が強くなっていく。

まず、吉井の事務所兼住処にものを投げつけた男を捕まえる。吉井に嫌な思いをさせられた男たちが徒党を組んで、集団で吉井を懲らしめようとする。そのときに、佐野が銃を持って吉井を守る「孤独のグルメ」松重豊が演じるいかにも謎の男から佐野が拳銃を引き取る場面がある。吉井を懲らしめようとした男たちを撃退する中で,転がっている死体を自分に任せれば全部処理すると言う。われわれに裏社会に通じた男と感じさせようとしている。


そんな佐野の正体が何か?、最後に向けて佐野の存在の真相がわかる場面が出てくるかと思っていたが,結局謎を残した。なんでこんなに吉井を助けるんだろう。

実は、自分のパソコンを覗かれたということで、吉井は佐野をクビにしている。縁がなくなったはずだ。それなのになんでこんなに身をもってかばうのか?普通ではあり得ないことが最後に続く。芥川龍之介「薮の中」では真犯人がわからないまま大きな謎として残った。同じような感覚で佐野の正体についても解釈できるのではないか。あえて深入りしない黒沢清のうまさをこの映画を見て感じる。
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映画「侍タイムスリッパー」

2024-09-27 15:24:16 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「侍タイムスリッパー」を映画館で観てきました。


映画「侍タイムスリッパー」はいわゆるインディーズ的サムライコメディである。 8月中旬に日経新聞の映画評をみてこれはおもしろそうと思っても、ほとんどやっていないし時間も合わない。縁がないのかな?と思っていたら、ここにきて一気に公開館が増えた。珍しいパターンで気になる。

幕末の侍が決闘している最中に落雷が起きて気がつくと時代劇の撮影所にいたなんて話だ。うらびれた映画館ではなく東京のど真ん中で劇場の大画面で観た。かなり映画を観ている自分でも知っている俳優はいないし、監督の安田淳一も知らない。先入観なくともかく観てみようという気持ちで観ると確かにおもしろい

とりあえず、作品情報を引用する。

幕末、京の夜。会津藩士高坂新左衛門(山口馬木也)は暗闇に身を潜めていた。「長州藩士を討て」と家老じきじきの密命である。名乗り合い両者が刃を交えた刹那、落雷が轟いた。
やがて眼を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所


新左衛門は行く先々で騒ぎを起こしながら、守ろうとした江戸幕府がとうの昔に滅んだと知り愕然となる。一度は死を覚悟したものの心優しい人々に助けられ少しずつ元気を取り戻していく。やがて「我が身を立てられるのはこれのみ」と刀を握り締め、新左衛門は磨き上げた剣の腕だけを頼りに「斬られ役」として生きていくため撮影所の門を叩くのであった。(作品情報 引用)

現代の京都が舞台なのに時代劇ファンでも楽しめるおもしろさだ。
気がつくとタイムスリップという映画は数多いが、気がつくと現代の時代劇撮影所に幕末から来てしまうなんて発想がおもしろい。目を覚めると時代劇撮影所内の江戸時代の町並みだ。そこで悪党が庶民をこらしめている場面に出くわす。思わず正義の味方の武士に加勢するので撮影中のスタッフが当惑するなんてお笑いだ。

最初のシーンだけ幕末だ。まさに薩摩の武士を斬ってやろうとする会津藩士が主人公だ。決闘中に稲妻で気づくと、時代劇撮影所なのだ。撮影中に割って入り邪魔をして、女性助監督から「どこの事務所の方ですか?」「別の撮影現場じゃないですか?」と言われる。まさか幕末からタイムスリップとは夢にも思わなかった。


途方に暮れて町を歩くと、決闘をした時の寺の門にたどり着くではないか!でもそこで寝てしまって朝起きると寺の住職に助けられるのだ。しかも、その寺は時代劇のロケで使われていて、撮影所の女性助監督に連絡がいくわけだ。結局、記憶喪失になった人として扱われる。そして寺のロケで役者が急病になり、急遽斬られ役で起用されるのだ。


斬られ役でふつうに展開していった後で、有名俳優から共演したいとオファーが来る。ここで幕末を引きずった出会いがある。ここからグッとおもしろくなる。この出会いの内容は映画を観てのお楽しみに願いたい。話が出来過ぎでも、その偶然がなんかありそうな気がするストーリーだ。最後に向けてはこの映画の結末をどう落ち着けるのか予想がつかず一瞬ドキドキしてしまう。そんな緊張感をもてる映画だ。

自主映画とはいえ、そうは見えない。いくつかのコメントで「カメラを止めるな」との共通性を言う人もいたが、それは違う。この映画の方がレベルはずっと上だ。撮影した映像はしっかりしていて、大劇場の大画面にも耐えられる映像だ。これは監督の安田淳一の力だろう。履歴をみると、撮影技術には長けているようだ。衣装も殺陣も無名揃いの俳優さんもよかった。


京都だからできた映画でもある。おもしろい台本なので、東映京都撮影所が場所を提供してくれたのも超ラッキーだろう。時代劇愛を感じる心意気がすばらしい。京都は歴史が古く、昔の建物の門がそのまま残っている設定も全く不自然でない。いくつかの寺からも協力してもらったのも運がいい。メンバーを見ると確かにカネがなさそう。でもいい映画ができてよかった
普段映画を観ない中高年以上の人に薦めたい作品だ。
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映画「ぼくが生きてる、ふたつの世界」吉沢亮&呉美保

2024-09-26 18:20:00 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「ぼくが生きてる、ふたつの世界」を映画館で観てきました。


映画「ぼくが生きてる2つの世界」は耳の聞こえない夫婦のもとに生まれた男の子(コーダ)を吉沢亮が演じる成長物語だ。呉美保監督「そこのみにて光り輝く」は自分が好きな映画で、あれほどの作品をつくる人の新作がないのを不思議に思っていた。どうやら2人の赤ちゃんを出産して軽い仕事しかしていなかったようだ。その呉美保監督が五十嵐大の原作に共鳴して、港岳彦の脚本で9年ぶりに撮った作品だ。呉美保監督作品は観たかったが、テーマ的に苦手な分野かと思っていた。ところが、こうやって観ると完成度も高く共感がもてる作品に仕上がっている。

映像は主人公五十嵐大が生まれた時から追っていく。

宮城県の港町に暮らす耳の聞こえない夫婦五十嵐陽介(今井彰人)と明子(忍足亜希子)の間に大という男の子が生まれる。元ヤクザの祖父(でんでん)と宗教にハマる祖母(烏丸せつこ)も同居しているが、耳の聞こえないことで何かと不自由が多い。それでも、幼い頃から大は手話を覚えて母親の通訳的存在になっていた。


小学生になると母親が耳が聞こえず言葉もしゃべれないことで周囲の目を意識するようになる。思春期になり、大(吉沢亮)は障がいをもつ両親に生まれたことに悩みをもち、意思が通じにくいことで母親につらくあたるようになる。第一志望の高校に落ちて反抗する気持ちはもっと強くなる。高校を卒業してフリーターとなったあと、20歳になって父の勧めもあって東京へ行く。俳優志望だったが挫折して、物書きの道を歩もうとする。

予想よりはるかによくできている映画だ。胸に沁みる場面も多く感慨深い作品だった。
まずは俳優陣がいい。主演の吉沢亮はもちろんのこと脇役陣も絶妙な演技を見せてくれる。耳が聞こえないことで起きる小さなエピソードをそれぞれに簡潔にまとめる脚本と編集がうまい。反抗期があっても母親からの強い愛情を息子が成長するにつれて感じるようになる。その長い間の母子の絆を丹念に描いていて、自分のハートを響かせる。呉美保監督のさすがの手腕であろう。

耳がきこえない両親の下に生まれながら、耳がきこえる子供たち「コーダ」と呼ぶ。日本には2万人を超える人たちがいるそうだ。アカデミー賞作品「コーダあいのうた」でも娘役はそれなりの葛藤を感じていたが、能天気な両親のもとでもう少し明るい展開だった。こちらの方が日本映画らしく暗めのエピソードが多いかもしれない。

幼少時からの細かいエピソードが盛りだくさんだ。耳が聞こえない本人はたいへんなのはもちろんだが、両親の代役もする息子も大変だったのがわかる。そのたいへんさと母子の感情の交流をうまく結びつける。あとは無音の使い方「コーダあいのうた」同様巧みに使い分けする。


⒈俳優陣の活躍
両親役の忍足亜希子と今井彰人はろう者俳優。「コーダあいのうた」と同様に実際に耳が聞こえなくて話せない人が演じていると真実味が増す。息子の大は赤ちゃんから幼児時代、青年になって吉沢亮と配役がかわっていくが、母親役は生後間もなくからずっと一緒だ。20代から50代まで演じられるのも彼女が若々しいからだろう。

監督の呉美保吉沢亮を主人公にしたかったと作品情報で読んだ。吉沢亮はその期待に応えている。手話を覚え、セリフでなく顔の表情などで感情を表現する術にもたけていた。宮城県の塩竈ロケが中心だ。人影の少ない駅のホームで吉沢亮と忍足亜希子が親子で触れ合うシーンも情感がある。


⒉脇役の巧さと子役への気配り
主人公や両親とともに祖父母の存在感が強い映画である。宗教にハマる祖母を烏丸せつこ、元ヤクザの祖父をでんでんと巧みに演じた。良い配役だと思う。烏丸せつこは映画がはじまってしばらく彼女だと気がつかなかった。我々の世代はボリュームたっぷりの裸体に興奮させられた世代なのでなおのことだ。たまに見るが昔のイメージと違う老いた姿を演じられるいい俳優になった。実際の祖母は手話を身につけなかったので少しは気が楽だったのでは。

祖父は昔「蛇の目のヤス」という異名があった元ヤクザだ。泥酔してケンカしたり、刺青を見せつけたり、祖母に暴力を振るったりする。でんでんは園子温監督「冷たい熱帯魚」凶暴なイメージがあまりにも強い。こんな役柄はでんでんが得意とするところだ。


おそらくは時間をかけてオーディションをしたと思われる子役の選択も、その後に吉沢亮の顔になることを意識して選んでいるのがよくわかる。実際吉沢亮に似ていてリアルな感じを強める。

⒊上京後の苦労
原作者五十嵐大が高校卒業してから歩んできた道は波瀾万丈である。俳優になろうと思っていたが、オーディションにはなかなか通らない。パチンコ屋のフロアでもバイトをしていた。途中入社の面接でも落ちてばかりだ。

結局、プロダクションで編集の仕事をするようになった経緯が面白い。面接をして、元ヤクザの祖父の話をしたら、ユースケサンタマリア演じる社長にウケて即採用だ。面倒な仕事が来ても「(難易度がそれなりの仕事でなく)必ず実力より高い仕事が来る。」と社長に言われつつ仕事する。編集プロダクションで働く一方、耳がきこえない人たちのサークルにも加わる。自分の小さい頃からの経験を活かしながら実際にライターの仕事をするようになったのは結果的にはよかったのだろう。

大が生まれる時に祖父母が心配していたのを母方の伯母さんが回顧して大(吉沢亮)に話すシーンがある。耳の聞こえない2人からふつうの子が生まれるかどうかの心配だ。結局、祖父母は子供の耳がきこえることでホッとした。それを聞いて生まれてきてよかったと感慨深げな表情をする吉沢亮を見てジーンときた。
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映画「ぼくのお日さま」 

2024-09-16 08:44:53 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「ぼくのお日さま」を映画館で観てきました。


映画「ぼくのお日さま」フィギュアスケートを題材にした小学6年生の少年の成長物語だ。長編2作目の奥山大史監督作品で第77回カンヌ国際映画祭への出品作品だ。主役の少年少女は無名で観るのは初めて、主演級俳優であるコーチ役の池松壮亮、その恋人役の若葉竜也の2人が脇を固める。春先の雪解けの町の風景も映すが、全般的に雪国の風景をパステル調の映像にして見せてくれる。こんな町で育ったら自分はどうなったんだろう感じながら主人公の姿を追う。

雪が積もる田舎町に暮らす小学6年生のタクヤ(越山敬達)は、すこし吃音がある。アイスホッケーでケガをしたタクヤは、フィギュアスケートの練習をする少女・さくら(中西希亜良)が「月の光」に合わせ氷の上を滑る姿に目を奪われる。さくらはコーチの荒川(池松壮亮)のもと、寡黙に淡々と練習をしていた。荒川は恋人・五十嵐(若葉竜也)の住む雪国の町に越してきたのだ。


荒川はリンクの端でアイスホッケー靴のままフィギュアのステップを真似て、何度も転ぶタクヤを見つける。荒川はフィギュア用のスケート靴を貸してあげ、タクヤの練習につきあう。 徐々にうまくなったところで、荒川はタクヤとさくらにペアでアイスダンスの練習をしたらどうかと提案する。

思春期の少年少女のスケーティングを観てさわやかな印象をもつ。
フィギュアスケートを題材にしたこの映画に既視感はない。いい発想だ。奥山大史監督はフィギュアスケートを子ども時代にやっていたそうだ。男の子から少年になろうとする頃の主人公タクヤがまだかわいい。中学に入った時のシーンでは学生服がブカブカだ。同じく、少女になろうとするさくらは少しだけお姉さんでフィギュアスケートの練習をする姿が素敵だ。

雪景色と2人の少年少女がマッチした印象深いシーンがいくつもある。2人がアイスダンスをするシーンで目線を10代の感覚に落として観ると、あの時代にこんな楽しいことあればよかったなあとひたすらうらやましくなる。ドラマ仕立てとしては物足りない部分もあるが、映像美は肌に感じる。


⒈雪国の小さな町
雪がかなり降り積もる町だ。教室から校庭を見ると雪景色で、雪の積もった学校の屋上でたたずむシーンを観ていると別世界だ。そんな町にスケートリンクがある。山が見えているのに、海を見渡す坂の町が映ることもある。一緒の町には見えない。陸屋根の家も多く北海道と推測できたが、架空の街にしていいとこ取りをしているのは徐々にわかってくる。ロケハンに成功している映画だ。

映画を観終わって調べると、どうも小樽近郊のいくつかの場所を中心にロケ地にしているようだ。父が幼少期まで小樽だったのでなぜかうれしい。加えて、雪解けした春先の風景での小さな灯台や昔の赤い郵便ポストが印象的だ。


⒉ペアで踊るアイスダンス
主人公タクヤは雪国育ちでアイスホッケーをやっているので、スケートは普通にできる。ただし、フィギュアスケートは初心者である。しかも、フィギュア用の靴でないとクイックなどの技巧はできない。コーチからフィギュア用の靴を借りての基本指導よろしく徐々に熟達していく。

コーチから2人はアイスダンスをやらないかと言われた時、無口なさくらは本当はイヤだったように見える表情をした。でもだまってコーチに従った。2人の腕前には巧拙があったが、徐々に2人のタイミングがあってくる。タクヤも成長していく。

コーチが2人を凍った湖に連れていく。そこでアイスダンスを踊るのだ。池松壮亮が雪道を運転するクルマでかかるのは60年代のポップス「Goin' Out Of My Head」だ。誰しもが一度は聞いたことがあるだろう。それをバックグラウンドミュージックにして少年少女が湖で踊るアイスダンスのシーンは格別にすばらしい「Goin' Out Of My Head」の組み入れ方が絶妙だ。このシーンとスケートリンクでの2人のアイスダンスを観るだけで映画館に行った価値がある。

⒊少女の複雑な想い
さくらを演じる中西希亜良は鼻筋がきれいな美少女である。麻生久美子が12歳だったらこんな顔をしていたのかと思う顔立ちだ。清純でみずみずしい。演技は素人だけどオーディションで選ばれたようだ。さくらはフィギュアスケートの実技は何度も見せるが、セリフは少ない。自分の想いを表情で見せる。


コーチのへのひそかな恋心、仲間である少年へコーチが指導している姿への嫉妬心、ひそかに思いを寄せる先生が男同士でイチャイチャするのを偶然見た時の嫌悪感をいずれもセリフなくわれわれに表情で示す。この年齢の女の子の心理状態は複雑だ。当然演技は素人なのでむずかしいセリフが控えめでうまくまとめられていると思う。

対するタクヤも話し出すとたどたどしくしか話せない。ウブな感じで好印象を与える。コーチが男性同士のカップルだという男色系の匂いは抑えられた。それはよかった。最小限のセリフで魅せてくれた良品の映画である。
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